第117話、45階に挑む者たち


 45階とはどんなところなのだろうか? それに対して到達者に聞いてみる。


「肌寒いところでした」


 回収屋のジン曰く、どんより曇っていて、日が沈む前の紫の空のような気味が悪く薄暗い階らしい。


「岩場が広がっている、岩だらけの山の道中のような。何というべきか、生の気配を感じられなかったような……感覚的な話ですみません」

「それ、わかる」


 同じく45階まで辿り着いていたシヤンは、複雑な表情になる。


「何もないのに、背筋が凍る気配というか、雰囲気をヒシヒシと感じたぞ。何かに出くわしたわけじゃないのに、その時は猛烈に嫌な予感がして、進むのを辞めた。たぶん、正解だったと思う」

「よくわからないわね」


 リルカルムが腕を組む。


「二人とも進まなかったのよね? というか、別にその階の魔物に遭遇したわけではないんでしょう?」

「自分は依頼で44階で仕事して、ついでだったので45階まで到達しただけなので」


 ジンは、別件でのついでで45階までのパスを作っただけらしい。なので45階以降は進まなかった。

 対するシヤンは。


「直感。何か悪いことが起こる予感がある日は、勘に従っているんだぞ」


 獣人の嗅覚的なものだろうか。わからなくても危険を察知したのかもしれない。リルカルムは問うた。


「じゃあ、今度行った時、同じ予感がしたら、引き返すの?」

「あの時ほどの猛烈な感覚だったなら、言うとは思う。だが実際に行ってみないとわからない。ああいう感覚が、その時だけだったのかもしれないし、逆に場所に対して反応しているのなら……その時言うのだぞ」


 とはいえ、そういう勘というのは大事だと俺は思う。戦場にいる者ほど、直感やジンクスというのを気にする傾向にある。そうやって死線をくぐり抜けてきたからだ。

 必要以上にビビって萎縮するのはよくないが、現に誰も生きて帰ってきていない45階攻略。これまでも用心はしていたが、なお気合を入れて注意しないといけない階なのだろう。


 ということで、44階をクリアして、45階への転移魔法陣の登録を済ませたら、そのまま今日は撤退した。ほとんど44階の散歩で終わってしまったが、そんな日があってもいいだろう。


 同じ44階を突破したリチャード・ジョーら鉄血や、ベガたちアルカンとも、明日以降の攻略で足並みを揃えることを確認して、本日は解散。

 冒険者ギルドで報告を済ませて、ギルマス代理のボングと打ち合わせをする。


「――最近45階に挑んで未帰還になったのは、『デグヴェルト』というパーティーです」


 ボングが言うには、デグヴェルトは9人組と、単独パーティーとして人数が多い方だった。前衛後衛がしっかりしていて、その編成もバランスのよいパーティーだったそうだ。


「Aランク冒険者もいました。まあ、王都出身というわけではなく、よそから流れてきた連中でしたが。だから、ギルドとの付き合いも最小限だったのですが、自分たちの実力に自信があったんでしょうね」

「……しかし、帰ってきていないと」

「まだやられた、とは断言できないのですがね。実は45階突破の手順が困難で難航してるとか、あるいは突破して46階以降に挑戦しているのかも――という可能性もなくはない」

「しかしその可能性は低い……そう見ているのだろう?」

「はい、まあ」


 ボングは認めた。


「不明になって一週間は経ちます。食料をどれだけ持ち込んだかによるとはいえ、普通はそんな長期間ダンジョンにいられません」


 しかし2週間分以上の食料を持ち込んでいれば、まだ生存している可能性もあるわけだ。


「今のところ、まだ誰も突破していない場所ですが……アレス様は赴かれるので、お間違いありませんか?」

「無論だ。魔の塔ダンジョンは放置しておくのは危険だ。大公の立場としても、邪神復活など認めるわけにはいかない」


 五十年前の大悪魔討伐の旅だって、命の保証などなかったからな。


「それで、ボング。他の45階到達冒険者たちはどうなんだ? 集まるのか?」

「招集はかけてあります。未踏である45階以降は、合同攻略にと言ってあります。たぶん、集まってくれると思います」


 45階で足踏みや様子を見ている冒険者たち。ギルドで複数パーティーを集めて、攻略を進める例は、古今珍しくはない。


「彼らも準備は進めていたでしょうから、特に問題はないかと」

「それは結構。それで、どんなパーティーなんだ? 45階まできた強者たちは」


 前回はさらっと、どれくらいいるかしか聞いていなかったからな。共に戦うともなれば、知っておいて損はない。

 ボングはリストを取り出した。


「えーと、先のデグヴェルトを除いては、『バルバーリッシュ』、『ウルティモ』、『グラム』……この三つがパーティーとして45階に挑戦できます」


 バルバーリッシュは、6人組でリーダーは、ファート伯爵の娘らしい。


「ファート伯の娘か……!」

「お知り合いですか?」

「五十年前だから父親、いや祖父なのか……そっちはな。当時のファート伯は武闘派で知られた勇将だ。子孫も武勇に優れていても納得はできるが……伯爵令嬢か」


 これは意外だった。しかし45階に到達したパーティーのリーダーなのだ。実力は疑いようがあるまい。何に秀でているかは実際に会ってみないとわからないが、歴戦の猛者と考えてよいだろう。


 パーティー自体は、前衛、中衛、後衛のバランスが取れていて、オールラウンダー型。


 ウルティモは5人組。東方に聞く暗殺・諜報に長けた戦士である『ニンジャ』を擁する。全員が軽量で足が早く、地形に強いという。44階のような激流足場渡りも正攻法で突破したチームである。


 最後のグラムは、魔術師パーティーだ。6人組で、うち5人が魔術師という魔法戦主体のスタイルである。各種魔法のバランスがよく、個々も上級レベルの揃った精鋭らしい。大抵の地形も浮遊で突破、攻撃魔法を使えば集団をも圧倒、殲滅する。不足する前衛の盾は、6人目のメンバーであるゴーレム使いが、ゴーレムを操ってカバーしているらしい。


 ふむふむ、オールラウンダー、遊撃、魔法か。合同したら、中々面白いことになりそうだ。


 俺たちと共に突破してきた鉄血は前衛型で、アルカンはオールラウンダー型。で、肝心の俺たちは――どうなる?


 俺、ソルラ、シヤン、ベルデと超前衛型で、リルカルムは魔術師だが、火力は一人で圧倒的。レヴィーは……どうなんだろう。アクアブレスはリルカルム同様、魔法と考えていいのか? ジンとラエルは中衛・後衛だけど、二人は回収屋であって助っ人。この場合は個人勢としてカウントすべきか。


 回収屋コンビを除外して、戦闘スタイルを考えれば、前衛人数が多いが、後衛火力も半端なく、バランス型とも言える。いや、他のパーティーと比べると『超攻撃型』と言うべきかもしれないな。

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