第109話、リヴァイアサンは絡まりたい
リヴァイアサン曰く、元は神が生み出した聖獣だった。
しかし、彼女の存在を疎んじるモノたちの呪いによって、悪魔へと落とされつつあったのだという。
全身を蝕む呪いで、気を狂う日々を延々と送り続けたところ、気づいたら魔の塔ダンジョンにいたらしい。
彼女も理由はわからない。呪いのせいで朦朧としていたというか、記憶もはっきりしないのだとか。
まあ、わけもなく誘拐されるなんて巨体ではないし、邪教教団の仕業だろうな、おそらく。
――で、俺に助けられたというのが、あらまし。なるほど、薄い情報量だ。
聞けば、リヴァイアサンは不死身で、その硬い鱗はいかなる攻撃も効かないらしい。……呪いは効いていたようだが。
この世界で暴れるとかしないなら、自由に過ごしてもらっていいと言ったが。
『いえ、私は主のそばにいる』
どこか幼さを感じさせる調子の念話で答えつつ、やたら俺の腕に絡んでくる。おふざけでリルカルムが絡んでくるのと対象的に、リヴァイアサンの場合は何も言わずに、すっと抱きついてくる感じだ。
ちなみに、今はジンが用意してくれていた服やローブを着用済み。
年頃は十代半ば。外見だと、ソルラとベルデの中間くらいだが、それって年頃の娘でもあるわけで、本人はいたって平静――感情表現に乏しい感じだが、端から見ればベタベタしているように見えなくもない。
「なあ、リヴァイアサン。あまりくっつかれると動きにくいんだが?」
「……」
無反応なリヴァイアサン。これは俺の意思を断固拒絶か? ……主とは?
その、ソルラとベルデの俺を見る目が、ちょっと痛いというか何というか。リルカルムは、俺の呪い付きの左腕のほうでホールドしてくるし、シヤンは何故か微笑ましいものを見るようにニコニコしている。……おい、これ本当に動けなくなるぞ。
「まだダンジョンの中だが……」
「43階クリアの魔法陣はそこですよ」
ジンは苦笑しつつ、この階で捕まえたグリフォンをラエルと面倒みている。もう敵はいないって言うんだろう?
「アレス、諦めてください。リヴァイアサンは、『ねじれた』とか『渦を巻いた』という意味があるんだとか。要するに、絡まるのが好きなんですよ」
『好き、というか落ち着く』
リヴァイアサンは念話を飛ばしてきた。なお、この念話、普通に喋るように周りの人間にもわかるようだ。
ともあれ、今回のダンジョン攻略は、この43階でやめて、帰還しよう。飛び回ったおかげで、結構疲労した。
とりあえず、リヴァイアサンに、人間の世界と塔の外の話をして、注意事項を色々説明しておく。
ということで、王都に帰還……したんだけど、さっそく周囲の度肝を抜いてしまう。
グリフォンを二体連れて帰ったことで、入り口の見張りの冒険者や、王都の通行人から注目されてしまう。そりゃ街中だとな……。
「ジン、いつもの解体を頼む。俺はリヴァイアサンのことも含めて、王城に行ってくる」
「彼女のことを話すのですか?」
秘密にしておいたほうがよくないか、と暗にジンは言ってきた。俺も正直、悩むところではあるんだが。
「一応、知っておくべき人には知らせておかないと、何かあった時が大変だ」
「了解。お気をつけて」
ジンとラエルコンビには、今回のダンジョン探索で得たモンスターの解体や戦利品処理をしてもらって、他の面々は解散ということで、次の探索まで休養しておいてくれ。
「私もお供してよろしいですか?」
ソルラが志願した。
「まあ、いいだろう。他は?」
王城と聞いて、リルカルム、シヤン、ベルデはパスした。それぞれお城の雰囲気は苦手らしい。
・ ・ ・
王城へ行くと、ちょっとした騒ぎになった。
原因は、グリフォンを一体連れていたからだ。こいつは俺の操りの呪いで動いているやつである。
もうすでに王都でグリフォンといるところを見られているから、その報告も兼ねる。もう一体はリルカルムのほうで、屋敷に連れ帰り、正式に従属の儀式をやるんだと。俺の呪いと違って、塔での魔法は仮契約みたいなものらしく、きちんとしたやつをやらないといけないんだと。……意外と面倒なんだな。
王城まで徒歩で移動し、庭にグリフォンを置いておく。俺の指示なしでは飛ばない。動き回らない、人を傷つけない、攻撃しないなどなど注意してから離れる。一応、王城の兵にも見張りを頼んでおいた。
というわけで、ヴァルム王に面会を申し込む。
「大公閣下、どうぞ」
「早い」
公務があるだろうから、待たされるかと思ったら、あっさり面会が通ってしまう。俺の用件だから、行けば会えるとは思っていたが、それでも普通は待たされるものなんだけどな。
「――なに、兄さんの魔の塔ダンジョン攻略は、我が王国の未来もかかっている重大案件だからね。そりゃ面会順序も繰り上げるさ」
我が弟は本日も壮健であった。
「それで、どうだった? わざわざ報告に来てくれたということは、いよいよ45階に辿り着いたのかな?」
「いや43階だな。さすがにこの辺りまで来ると、一筋縄ではいかない」
「だろうね。王都の冒険者でも45階まで開拓している者は、一握りだ。さすがの兄さんといえど、簡単にはいかないだろう」
ヴァルムは首肯した。ちら、と俺の横に座る少女――リヴァイアサンを見る。
「不思議な髪色の少女だな。……その娘はどうしたんだい、兄さん?」
「魔の塔ダンジョンで呪い状態で彷徨っていたのを保護した。助けたら、懐かれてしまってね」
「それは大変だったね。しかし、40階を超えている場所に、こんないたいけな少女が……?」
「ただの少女じゃない。この子は、かの海の聖獣リヴァイアサンだ」
「…………」
すっ、とヴァルム王の視線が外れた。冗談か本当なのかわからないという戸惑いが表情に出る。
「……何だって?」
わかる。そうなるよな、普通。俺は弟ヴァルムに、リヴァイアサンとの件を報告した。
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