第104話、空中通路
勢いに乗って魔の塔ダンジョン攻略。41階に続き、42階もクリアした。
「おー、いるいる」
43階に到着。遠くを見やれば、無数の飛行する生き物。鳥は鳥でも巨大な怪鳥、グリフォン、ドラゴン……いや東方に伝わる竜のような生物が、喧嘩することなく飛んだり、足場に止まっている。
「普通の塔で43階も登れば、見晴らしはいいくらい高いんだろうが……」
「……」
「ちょっと高すぎない?」
ダンジョン内は別世界とは言うけれど、今俺たちがいる場所が岩の島のようで、そこから下に広大な空と雲海が広がっている。
かなり高所のはずなのに、空気が薄いということもない。風は強めだが、動きにくいほどではなく、寒くもなかった。……相変わらずのダンジョン環境。
「本当に別世界みたいですね」
ソルラが太陽はないのに明るい空を見上げた。
無数の浮遊する岩が浮いている。大鷲やグリフォンなどが飛んでいる。下も空、上も空。とにかく広い。
ラエルが苦い顔になった。
「まさかと思いますが、ここ、ちゃんとした道なかったりします?」
「残念ながら、道中に浮遊岩を乗り継いでいくところがあるぞ」
師匠であるジンが淡々と言った。
「まあ、身体強化の跳躍で届く距離だ。慎重に行ければ問題ない距離だ」
「慎重に行ければ……?」
引っかかる言い方に、俺もベルデもジンを見た。
「ご想像の通り、飛んでいる魔獣が襲ってきます」
ジンの答えは簡潔だった。シヤンが口を開く。
「あいつらは自分の縄張りを持っているからな。その縄張り内の足場に着地すれば、ふつーに襲ってくるのだぞ」
「終始そんな感じなので、襲いかかってくる飛行魔獣を捕まえようというのは簡単ではないですよ」
浮遊する岩は、ほどほどの大きさしかないものもあり、強く重量がかかったりすると揺れたりして不安定になるという。
下が雲で、どうなっているかわからないが、踏み外したら転落死だろうか。そもそも帰ってこれないだろう。
リルカルムがニヤリとした。
「ソルラちゃーん? アナタ、高いところ怖い怖いなんじゃないの? 大丈夫? 死んじゃうんじゃないの?」
「あ、そういうのもういいんで」
ソルラが背中から片方天使、片方悪魔のような翼を広げた。
「私、空飛べるので」
「……そうだった! ズルいわよっ!」
「かっこいいのだぞ!」
シヤンが、翼を広げたソルラの姿に声援を送った。試練の効果なんだろうが、天使のように翼を生やしたソルラを見ていると、女神の子というのも納得。……ただ、片方が悪魔っぽいのは、闇の力も取り込んだからか。白であり、黒である、か。
「じゃあ、とりあえず突破するか」
俺は皆を促した。
「ジンやシヤンが突破しているんだ。抜けられない階でもない」
「急げば、案外余裕だぞ」
経験者その1であるシヤンは歩きながら言った。
「立ち止まらず、ピョンピョン跳んでいけば、魔獣たちも足場との衝突を気にして加減するのだぞ」
「一人二人で抜けるならともかく、この人数で一定のペースで移動はできんだろ」
俺とリルカルムの運動力の違いを見ればわかるように、同じく素早いシヤンとベルデでさえ、個人差はあるのだ。そんな中、大して大きくない足場を乗り継ぐなんて、絶対どこかで詰まるぞ。
「私が空を飛んで、敵を牽制します」
ソルラが淡々と言った。……吊り橋で震えていた彼女と同一人物とは思えないほどの変わりぶりである。試練の力、凄い。
「数は多いですが――」
ジンが俺を見た。
「どうします? 乗り物、確保するんじゃなかったですが?」
隣国ガンティエ帝国への報復する時にも使えるように、高速の移動手段を確保しようという話にはなっていた。
ただ、ジンは難しいだろうと言っていて、シヤンも無理だと口にした。
「まあ、捕まえるのは難しいだろうが、適当のやつを呪いなり、リルカルムの使役魔法で操ってしまえばいいだろう」
「もう捕まえる必要あるかって、話だけどな」
ベルデがどこか複雑な表情を浮かべる。
「帝国への報復手段は、もうあるわけだろ。……あんま気持ちのいいもんじゃねえけど」
「気持ちのいい報復ってなあに?」
リルカルムが厭らしい笑みを浮かべた。お前、今何を考えた?
それはともかく、リルカルムの魔法にかかれば、隣の国の帝都だろうが攻撃する手段がある。魔の塔ダンジョンの攻略を進めている現状、あの国まで飛んでいく優先度は下がっているよな。
「移動手段はあって困らないだろう」
とりあえず、やってみようぜ。
そんなわけで、俺たちは43階の浮遊岩の大地を進む。途中から浮遊足場を乗り継いでいく、高所恐怖症お断りなルートになるが。
ジンは言った。
「いきなり大量に襲い掛かられるわけではないので、捕獲するなら、まだ疎らなうちがいいでしょう」
「ああ、さっさと面倒は片付けよう」
数が多い場所だと、四方八方から襲われるだろうし。
ソルラが翼を広げて宙に上がり、ラエルが狙撃銃で辺りに睨みをきかせる中、浮遊する岩にヒョイヒョイと跳んで移動する。……というか、ただでさえ手薄なリルカルムの衣装が、飛ぶとめくれて大事なところが危ないのですがそれは。
「来たぞ!」
グリフォンが一頭、いや二頭。前方左右に分かれつつ向かってくる。
「リルカルム、右の奴任せていいか? 俺は左の奴をやる」
「了解!」
斜め上方からの緩やかなダイブ。急角度で突っ込んでくれば、俺たちが躱したら岩に衝突だからな。ご心配なく、俺は避けたりしないよ。
「呪いよ呪い。我が呪いが、お前の動きを押さえる」
左手から黒き呪いを伸ばす。それは飛び込んでくるグリフォンの全身を捕まえた。まず動きを封じて、操りの呪いを送り込む。
意志が強いとかかりにくいが、果たして自然の魔物の意志はどこまで操りの呪いに抵抗できる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます