第103話、報復もいいが、ダンジョン攻略も
ガンティエ帝国帝都へ報復攻撃のことを頭の隅に追いやり、俺たちは魔の塔ダンジョンへ入った。
36階は、オーガ軍団が待ち構える階。以前あったゴブリン軍団やオーク軍団のいるフロアと同じく、集団を率いるリーダーを倒せば、次へ行けるというやつだった。
ここは消耗を避ける意味で、兵隊オーガから隠れてボスを目指すというのが、よくある突破方法だ。オーガ自体、身の丈二メートルから三メートルほどの、がっちりした体躯を持ち、人間と力比べなどしようものなら、あっという間に捻り潰される。オークやゴブリンとは、一個体の性能が違い過ぎる。
だが……ソルラが強かった。
大鬼を相手にしても、ソルラはまったく引けを取らないどころか、圧倒していた。
「遅い!」
一刀両断。魔法を剣に乗せて、流星の如く一撃を放てば、巨木のようなオーガが、そのヘビーな胴体もろとも吹っ飛びながら貫かれる。
「……やべぇ、威力だ」
「やるな、ソルラ!」
半ば呆れ気味のベルデに、シヤンはニヤリと笑った。
シヤンとベルデが加わり、前衛に厚みが出た頃には、後衛組の少し前で援護ポジションについていたものが、シールドを持ちながらガンガン前へ出られる超前衛型になった。
「身体強化」
ソルラは身も軽く、三メートルの大鬼の頭近くまで飛び上がり、その太い首をはねた。
鎧は身につけているものの、肩甲がないなど以前より軽くなっている。だがその機敏さは魔法の効果あってのものだ。
これまでは地形によって、他の身軽なメンバーと違って行動に制限されていたが、それもなくなった。
身体強化の魔法を習得したのは、つい最近のはずだが、見ていたジンからは『すでに熟練者のそれ』と称されるほどのものとなっていた。
当然、誰の補助もなく地形を突破し、さらには背中から翼を出して空中戦にも対応できるという長所を手に入れていた。
「まったく別人なのだぞ」
さすがにシヤンもこれには呆れていた。
試練を潜り抜けたことで、ソルラにはだいぶ余裕が出てきた。随分と逞しくなってまあ。
結局、オーガ相手にも正面突破し、ボスオーガも瞬殺。無事、36階を突破した。
37階は、ひしめく魔獣の群れがいて、これらの群れが踏んでいる地面のどこかに次階層への入り口を見つけるというもの。リルカルムとソルラの魔法で蹴散らし、ランダムだという出口を探す。……多少時間はかかったが、ここも苦戦はしなかった。
38階。水門から流れる大量の水にルートを限定されながら、奥へと目指すフロア。小さな村という雰囲気で、奥に行くほど登りという、侵入者泣かせの地形。
少し進むと、横穴から勢いよく飛び出す水流によって進めず、迂回しなければならなった。だが、ジンが言った。
「ここは、水の勢いを調整するスイッチがあるんです」
一度ここへ来ているはずのシヤンが目を見開いた。
「それは初耳なのだぞ」
「下を歩いていたら気づかないところになるからな。――ラエル」
ジンは弟子を呼ぶと、天井を指さして、スイッチとやらを教えた。ラエルは狙撃銃を構えて、発砲した。カン、と小気味よい音がしたと思ったら、目の前で道を塞いでいた水流の勢いが弱くなった。
「これでショートカットできますよ」
「さすが回収屋。効率のいい道順を知ってる」
やがて水が止まり、俺たちは進んだ。出てくる魔物は巨大な芋虫型。集団で突っ込んでくるのは気味が悪いが、ここまできて後れを取る相手ではない。
「いや、硬いぞ」
ベルデが武器が通らず、一旦距離を取る。シヤンが渾身の拳を叩き込み、芋虫型を吹き飛ばす。
「虫型はあの見た目で頑丈なのだぞ」
「でも、切れないほどではありません!」
ソルラが剣で両断する。俺もカースブレードで一閃。この程度、ゴーレムや悪魔に比べたら、どうってことはない。
その後も、スイッチで水を止めたり、あるいは流したりしながら突破すると、フロアボスが陣取っていた。
「こいつは……」
「サーペントですね」
ジンはニヤリとした。
「今度は、水の中じゃなくて地面の上ですよ」
「姿が見えているなら、恐れることはないわ」
リルカルムが呪いの世界樹の杖を掲げた。
「焼き尽くす!」
・ ・ ・
38階を突破し、俺たちはそのままの勢いで、続く39階、40階を突破した。
40階のフロアボスはドラゴンで三つ首だったが、ソルラとシヤン、ベルデの素早い動きがそれぞれの頭を引きつけ、リルカルムの大魔法で牽制。俺がドラゴンに肉薄してのカースブレードの斬撃で仕留めた。
「これは、大物ですね」
ジンとラエルは早速、簡単に部位を切り落とすとストレージに放り込んだ。本格解体は冒険者ギルドの解体場でやるわけだが……君ら何気にドラゴンの分厚い装甲も切断してるよね?
回収屋って凄いな、と関心しつつ、続く階はいよいよ41階。今のところの最深記録が45階までなので、かなり近づいてきたとわかる数字だ。
「……まだいけそうだな」
前回は5階突破したところで、タイムアップといったところだったが、今回はまだまだ余裕がある。
「もうひとつ階、進むか」
「そうですね」
ソルラが頷けば、シヤンは軽く肩を回した。
「まだまだ行けるぞ、今日は」
俺がリルカルムを見れば、彼女も肩をすくめる。
「余裕ならあるわよ」
「ベルデ?」
「オレも問題ない」
ジンとラエルも首肯した。
誰も反対しなかったな。難度的には上がっているはずなのだが、やはりここにきてソルラが一皮剥けたのが大きい。
「よし。無理をしない程度に、階を更新しよう」
うちのパーティー、強いな本当に。
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