第101話、報復の光
ガンティエ帝国の帝都にあるアーガルド城に、衝撃が走った。
「何事だ!? 攻撃か!?」
ジャガナー大将軍が声を張り上げた。
ガンティエ皇帝がいる皇帝の間では、状況が掴めなかった。だがそれでも皇帝を守るロイヤルガードは傍にきて、帝国の主を警護する。
「状況を確認せよ! 急げ!」
慌ただしくなる皇帝の間。そこへ騎士が駆け込んできた。
「申し上げます! 本城の西の尖塔が突然吹き飛びました!」
「なにぃ!?」
将軍たちが声を荒げる。
「攻撃か? 事故か?」
「わかりません。目撃者の話では、天から光が落ちて、それが尖塔に命中したと――」
「光……?」
「雷ではないのか?」
「音はしなかったと言っておりました!」
伝令の騎士は続けた。
「尖塔にいた者は不明。周囲に飛び散った破片により、数名が負傷です!」
「原因を突き止めよ」
「ははっ!」
騎士は深々と頭を下げると退出した。重臣たちは顔を見合わせる。
「光だと……?」
「それが尖塔を吹き飛ばしたというのか」
「そんなことがあるのか?」
不可思議な事象に混乱が広まる。ガンティエ皇帝が口を開きかけた時、またも先ほどと同じ轟音と、何かが崩れる音がした。
「まさか、また……?」
ジャガナー大将軍が呟くと、先ほどとは別の騎士が駆け込んできた。
「申し上げます! 今度は東側の尖塔に光が落ちました! 尖塔は崩壊、負傷者複数!」
「いったい何が起きているのだ」
ガンティエ皇帝は呆然となる。アーガルド城に立て続けに起きた原因不明の光。果たして何なのか、皇帝の間にいた者たちはわからなかった。
・ ・ ・
リルカルムは、狂人だ。
伝説の災厄の魔女は、人の――特に敵対した者に対して一切遠慮はしなかった。
「ガンティエ帝国に報復するわ」
彼女は、嬉々として俺たちにそう告げた。大公邸の庭である。
「昨夜、愚かにも暗殺者ギルドの報復のためにやってきた残党十四人が、入り口のトラップスライムに引っかかっていましたー」
無邪気な笑顔でリルカルムは言うのだ。しかし口にしているそれは、とてつもなく物騒である。
「大公暗殺未遂で死刑! 大公邸への不法侵入で死刑! 暗殺者ギルドでその他諸々犯罪行為を重ねたにもかかわらず、逃亡も自首もしなかったので死刑! これ以上、罪を重ねようがないほど死刑! 断固、死刑!」
あまり連呼するようなものじゃない。……とは思うのだが、処刑場に詰めかける民衆のテンションはこんなものなので、何も言えない。
事実、極刑の免れない犯罪者であるわけで、同情の余地はない……はずなのだが、どうもリルカルムが絡むと、同情したくなるのは何故なのか?
「――ということで、これから現行犯で捕まえた死刑囚に刑を執行いたします」
非常にノリノリなリルカルムである。俺のほか、見守るソルラとシヤンは複雑な表情を浮かべている。なおこの場にベルデはいない。
「あー、一つ聞いてもいいか、リルカルム?」
「なあに、シヤン。お姉さんは上機嫌だから、何でも答えてあげるわよ?」
「……さっき十四人と言っていたけど、ここには十三人しかいないのだぞ」
拘束され、意識を失っているのかぐったりしている暗殺者ギルド構成員たち。確かに、数えると、一人足りない。
「ふっふっふ、よい質問ね、シヤン」
リルカルムは、もったいぶる。
「実は、すでに一人は昨夜のうちに現地に飛ばしていたのです!」
「現地?」
「そう、現地」
魔女はニヤリと笑うと、傍らにある木箱の上に置かれた水晶球に魔力を当てた。
「使い魔よ、貴様の視界を、我に示せ!」
水晶球が光り、何かが飛び出した。
「これはね。とある場所に送り込んだアイ・ボールという単眼の魔物の見ているものを、この水晶球に投影しているのよ」
リルカルムは説明した。
「使い魔っていうのは、主と視野を共有できるんだけれどね。こうして魔道具と繋げれば、周りの人間にも見えるってわけ。そして足りない一人というのが、このアイ・ボールちゃんなのです!」
恐ろしいことに、リルカルムは変身の魔法で、人間を醜い目玉の化け物に変えてしまったらしい。その魔物を従属の魔法で従わせて、どこかへ行かせたらしい。
「それで……これは」
水晶球が表示しているそれは、大きな城。リルカルムはサラリと告げた。
「ガンティエ帝国の帝都にある皇帝の城」
まさかの隣国だった。それも憎きガンティエ皇帝の居城らしい。……いったい何をするつもりなんだ?
「それでは、これより報復を始めます」
妙に改まってリルカルムは言った。杖を倒れているギルド構成員の一人に向けて。
「飛べ、光よ!」
その瞬間、人間だったそれが光に天へと飛んだ。見守っていた俺たちは、もちろん吃驚した。
「ちゃくだーん、今!」
リルカルムが水晶球が映す皇帝居城に杖を向けている。その瞬間、城の一角、見張り台を兼ねる尖塔に、光がぶつかり、その塔を粉砕した。
「!?」
「人というのは、元々魔力を体に秘めている」
リルカルムは言った。
「それを引き出し、魂と絡めて凝縮すると、まあ凄まじい力になるわけ。文字通り、命を燃やした一撃は、通常の魔法では届かない遥か彼方まで飛び、かつ強力な一撃となる」
命を使い捨ての魔弾に変える。それはおぞましいし、人の命を玩ぶ行為。しかし、リルカルムは悪びれない。何故ならば――
「どうせ死刑になる命。自己満足の見世物で浪費するくらいなら、役に立たせてやるって言うのよ」
何の罪もない一般人であるなら、有無を言わせず止めるのだろうが、死刑囚となると多少話は変わってくる。しかもあれだ、俺の命を狙ってきた奴らなのだから、どう裁こうが、当事者であるこちらの自由だ。
非人道的なのは認める。だが狙われた方としては、温情をかける余地はない。
かくて、リルカルムは哀れな暗殺者ギルド残党の死刑囚を魔法の光に変えて、すべての元凶であるガンティエ皇帝の城にぶつけた。
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