第98話、報復の暗殺者ギルド
王都暗殺者ギルドが潰れた。
潰してから言うのも何だが、ギルドができるほど暗殺に需要があるのか気になったので、所属していたベルデに聞いてみた。
「まあ、暗殺者ギルドっては言うけど、オレみたいな暗殺者は、全体からすればそんなに多くなかったな」
やっていることは、恐喝や強要、みかじめ料に高利貸し、密輸や密売など犯罪行為をやっている悪党の巣窟であり、暗殺は、それら業務の一つだったらしい。
暗殺者ギルドと自称しているのは、犯罪ギルドだと名前が締まらないとかどうとか、その程度のものらしい。
「ケチな犯罪者が大半だったが、その中で、オレらみたいな暗殺専門の連中は、一定の敬意を抱かれていた」
他の仕事をやっている構成員からは、先生とか旦那、兄貴とか言われ、上の者として扱われていたという。
「言い訳させてもらうと、暗殺部門の面々のほとんどは、純粋に『暗殺者ギルド』って名前を信じてやってきたから、他のケチな犯罪はしなかった」
殺し以外はやらない。それが許される立場にあった。
「暗殺のことはともかく、犯罪をやっているギルドだけに、隣国や例の共有参加守護団みたいな連中とも、仕事柄よく依頼されていた。直接の仲間だったわけじゃないが」
ふうん、俺を暗殺するっていう共有参加守護団残党の依頼が復活する土壌があったわけな。
ま、名前からして非合法組織だったが、内情を知ればただの犯罪組織。これは潰して正解だ。
王城にギルドマスターであるハリダを引き渡しているので、連中の情報はヴァルムが適切に処理するだろう。
・ ・ ・
暗殺者ギルドの壊滅は、その場にいなかった者たちにとって衝撃的な出来事だった。
アジトが襲撃され、そこにあった全てのものがゴッソリなくなっていた。あったのはむせ返るような血の臭いと血痕のみ。
そこで戦闘があったのは理解できたが、仲間の安否はおろか、襲撃した者が何者かさえわからなかった。
ただ、ここまで徹底的なやり口は、ただ者ではないのは明らかだ。設備や道具を跡形もなく短時間で持ち去ることなどほぼ不可能。血は消せなくても、死体は残していないのもまた、不気味だった。
この事件を受けて、構成員たちは全員に安否確認と集合をかけた。連絡が取れない者は、おそらくギルドにいたのだろうと思われた。
しかし安否確認中、王国軍が暗殺者ギルドの構成員狩りをしている場を複数で目撃された。これにより、襲撃者はどうやら王国軍らしいと生存者たちは考えた。
ここにきて、生き残りたちの対応は割れた。
構成員を捜索しているということは、素性が割れたということであり、お尋ね者である。ならば逃げるしかない、と言う者。あくまで組織と仲間の敵討ちにこたわる者、この二つだ。
「ハリダは馬鹿だったが、仲間たちの敵は討たにゃあならねえ」
暗殺者ギルドのサブマス、フェルボ・アッガスは、若い構成員たちを見回した。
「先々代から世話になっていた組織だ。このまま潰れちゃあ、申し訳がたたねえ!」
「「「応!」」」
生き残り構成員たちは頷く。だが全員ではなかった。
「俺は抜ける」
「おれもだ」
暗殺者組から離脱が出た。
「アジトに踏み込んで壊滅させるような敵だ。挑んだところで返り討ちだろう」
「命あっての物種だ。ハリダは前々から気に入らなかったんだ。義理はねえよ」
元々組織の犯罪行為にさして関心のなかった暗殺者組である。他部門の若者たちから声があがる。
「そんな! 先生!」
「やめておけ」
フェルボは一喝するように、構成員たちを黙らせた。そして踵を返した暗殺者たちに、頭を下げる。
「先生方、ここまでお疲れ様でしたっ!」
「……おい、ファルボさんよ。悪いことは言わねえ。お前も若い奴ら連れて王都を出ろ」
暗殺者の一人が振り返った。
「犬死にだぜ」
「だとしても! 筋は通さねぇといけねえんです!」
頭を下げたまま、フェルボは声を張り上げた。
「組織への恩義があります。ケジメはつけなきゃなんねえ!」
「そうか……。達者でな」
その暗殺者たちは去った。何とも言えない空気が室内を満たす。フェルボはしばし頭を下げたまま動かなかった。だが唐突に頭を上げると低い声を出す。
「こん中で、逃げたい奴がいたら、今抜けろ。オレは見ないフリをしてやる。命が惜しい奴は、遠慮なく行け!」
しん、と静まりかえる中、場を窺っていた者が一人、二人と逃げるように立ち去った。場がざわめく。結局、五人が新たに離脱したが、それ以外の十数人は残った。
「よし、残ったモンで、戦争するぞ!」
フェルボは頷いた。そこへ、一人の男が息をきらして駆け込んできた。
「兄貴ぃ!」
「どうした? 敵か!?」
「ち、違いまさぁ! 犯人がわかりました!」
その構成員は、生き残りの仲間を探すべく王都に出ていたが、途中、情報屋に出くわした。
「情報屋! 犯人を知っていたか! 誰だ!?」
「アジトをやったのは、アレス・ヴァンデ大公とその一味だそうです!」
「アレス・ヴァンデ……」
「兄貴、例の暗殺依頼が出てた奴ですぜ!」
構成員の一人が言った。仲間たちも頷く。
「色々な集団に声がかけられて、殺害に向かったがことごとく全滅しているとか」
「しかも、あれだけ狙われてまだ生きているっていう……!」
動揺する構成員たちだが、フェルボは薄く笑った。
「王城に乗り込んで犬死にパターンよりは、まだ見込みがあるんじゃねえのかい?」
そう言われて、確かに城に突撃するよりは楽だと、構成員たちは思った。
アレス・ヴァンデ大公の暗殺依頼の件は、ギルドメンバーは知っていたし、大公の屋敷の場所もすでに知っている。
「野郎ども! カチコミだ! 準備しろぃ!」
「おおおおぉーっ!」
ギルド構成員――兄弟たちの敵討ちだ。
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