第91話、暗殺者ギルドの動機


 ユニヴェル教会大聖堂。

 俺はソルラの試練の成功を祈りつつ、一度、聖堂を後にすることにした。暗殺者ギルドで、リルカルムとベルデがいるが、さすがにあのまま放置するわけにもいかない。


 冒険者ギルドに向かったシヤンのことも気掛かりだ。ジンとラエルコンビに無事会えただろうか――などと考えていたら、その三人が大聖堂に現れた。


「アレス! 無事だったか!?」


 シヤンが真っ先に駆け寄る。ジンとラエルも無事だった。


「そっちに暗殺者たちは?」

「二人が倒していたんだぞ」


 シヤンが告げた。彼女が冒険者ギルドに駆けつけた時、ジンとラエルは、襲撃者たちを無力化し捕らえていた。


「一応、ギルドに引き渡していますがね」


 ジンは言った。


「未遂とはいえ暗殺者ってことなんで、王国に引き渡すのが妥当ですかね」

「それでいいと思う」


 暗殺者ギルドで聞いた限りでは、経験のある暗殺者パーティーを送ったような口ぶりだったから、つつけば余罪などいくらでもあるだろう。


「それより、こちらにも襲撃があったようですね」


 ジンは、周りで清掃する神官たちを見やる。


「ソルラは無事ですか?」

「ああ、襲われたが、特に怪我もない。無事だよ、今のところは」

「今のところ?」


 三人が怪訝な顔をしたので、俺はソルラが試練の間にいるということを伝えた。シヤンは首を傾げた。


「わけがわからないのだぞ」

「今回の襲撃での行動も含めて、色々悩んでの行動だろう」

「彼女は、自分が足手纏いではないかと考えていました」


 ジンが腕を組んだ。


「我々に身体強化の魔法や、ダンジョンを生き抜く術など強くなるために教えを請うてきましたし……。まあ、一から鍛える覚悟なんでしょう」

「つまり修行か。それならわかるぞ」


 シヤンも納得したようだった。ジンは俺を見た。


「それで、これからどうします?」

「今、暗殺者を差し向けた暗殺者ギルドを押さえている。これから戻って後始末をつけるつもりだ」


 ベルデとリルカルムも心配だしな。アジト内は制圧したとはいえ、あの時いなかった暗殺者がギルドにやってきて、あの惨状を見れば逃げるか襲ってくるだろうから。


「了解です。いいな、ラエル?」

「わかりました」


 もう夜中であるが、どうやら付き合ってくれるらしい。

 俺たちは、大聖堂を後にして、暗殺者ギルドへと戻った。



  ・  ・  ・



 暗殺者ギルドに戻った時、死体が増えていた。


「あら、お帰り」

「……リルカルム」


 災厄の魔女はとても上機嫌だった。彼女の姿に、さすがのシヤンも露骨に眉をひそめた。。


「お前、趣味悪いぞ」

「まあまあ、人の趣味に他人が口出しするものではないわよ」


 ラエルが耐えられなくなって、ギルドの外へと引き返していった。……これは吐くかな。


 俺は、フロアに積み上げられたものの上でふんぞり返っている魔女をよけて、ギルマスの執務室へと向かった。


「暗殺者というのは、悪党に片足を突っ込んでいるものだと想っていたが……上には上がいるものだ」

「お帰り、大公」


 ベルデが、捕虜にした暗殺者ギルドのギルマスであるハリダの前にいた。


「一応、自白した内容をまとめると――」


 俺への依頼が復活した理由は、共有参加守護団の残党からの再依頼があったことと、愛人であるエリルからの勧めが原因だったそうだ。


 何でも、エリル曰く、守護団残党だけでなく、隣国ガンティエ帝国からの高額な報酬が出るとかで、ここで手を引くのはもったいないと強弁されたらしい。

 前のギルマスにもその旨を伝えたが、大公――つまり俺の報復がギルドに及ぶのを恐れて、一度は拒否されたのだそうだ。


 だが翌日、エリルが前ギルマスは暗殺した。『暗殺者の矜持を忘れた腰抜けにギルマスの刺客はない』と言うのが彼女の言い分だった。

 ギルマスのポジションが空いたので、サブマスだったハリダは後釜に座り、ギルドの箔をつけるために、俺の暗殺依頼を受領した……というのが顛末らしい。


「……そのエリルって、隣国のスパイだったんじゃないか?」

「かもな」


 ベルデは頷いた。


 しかし、その愛人を調べようにも、戦闘になってベルデが首を掻っ捌いて始末してしまった。

 瀕死だったなら、呪いで延命もさせられたが、死んでしまった者については、アンデッドにするとか、そういうことしかできないんだよな。

 そして魂がないアンデッドは、絶望的にコミュニケーション不可と来ている。つまり、エリルからは何の情報も得られないということだ。


「残党は、王国軍でも狩っているが、それがひと段落しても、隣国のほうから俺への刺客が続く可能性があるか」

「だろうね。あんたは、帝国に相当恨みを買ったみたいだからな。守護団残党を掃除しても襲ってくるだろうね」


 ベルデはニヤニヤしている。何が面白いんだ?


「わかってるか? 俺に何かあれば、お前は元の姿に戻れず、ずっとその格好だぞ」

「それは困る」


 ベルデは腕を組んで、頷いた。今では可憐な美少女冒険者。これが青年だったなんて想像できない見た目である。


「もちろん、わかってるよ。あんたに手を出させないさ。少なくとも、あんたがオレより先に死ぬことない。でないとオレが困るからな」


 そういうことだ。


「でもどうするよ? 帝国への報復は魔の塔ダンジョンの後にするつもりだったんだろう?」


 ベルデは首を振った。


「まだダンジョンの最深が何階かわからないんだ。どれくらい掛かるかもわからねえ。……先に手を打っておいたほうがいいんじゃね? 方法については、知らんけど」

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