第84話、地下通路へ
暗殺者ギルド、潰すべし。大公暗殺の
ベルデとドラウには協力してもらう。それが、前回も含め、俺への暗殺依頼にかかわったことに対する帳尻合わせになる。
「ほ、本当に、協力したら、命を助けてもらえるので……?」
ドラウは小心者なのだろう。情報屋というだけであって、今回の協力で罪には問わないでおいてやる。
「暗殺者ギルドは、地下にある」
ベルデは、紙におおよそのギルドの内部図を書いた。
「いくつか入り口があって、地下を通っていく必要がある。古い時代の地下通路ってやつが、王都の一定範囲で存在していたんだな。で、その一角に暗殺者ギルドは拠点を置いてるってわけだ」
「なるほど」
「入り口が複数あるってのは、厄介じゃない?」
リルカルムが発言した。
「逆にいえば逃げ道も多いってことよね? 地下通路に逃げ込まれたら、初見じゃ迷子になるんじゃない?」
「ギルマスの臭いさえわかれば、逃げても犬っころが見つけるんじゃね?」
ベルデがシヤンを一瞥する。そのシヤンは「めっ!」と言いながら、ベルデに拳骨を落とした。
「痛っ、なにしやがる!」
「自分の胸に聞くのだぞ」
シヤンはしれっと言うのである。
「面倒だけど、入り口を全部封鎖すれば、袋のねずみだぞ」
「そう簡単じゃねえな。何せ、ギルド所属の暗殺者であっても、通路を全部把握しているわけじゃねえからな」
つまり、ベルデが知っている通路を全部塞いだところで、他にも抜け道があると思われるから、そこから逃げられる可能性が高い。
「情報屋? お前は通路を全部知っているか?」
「大体は知っているけど、全部でいくつあるか知らないから……他にもあるかもしれない」
ドラウは困り顔で答えた。そうだよな。人間、自分の知っていることしか知らないんだ。
「そうなると、こっそり近づくしかないわね」
リルカルムは俺を見た。
「逃げられる前に、その場にいる奴を殲滅する。これが一番じゃないかしら?」
「奇襲か」
俺は暗殺者と情報屋に顔を向ける。
「いけると思うか?」
「気づかれなければ、中には入れるさ」
ベルデは皮肉げな顔になった。
「あとは、あんたがギルドの真ん中で、『俺は大公だ!』って叫べば、周りにいる暗殺者も逃げずに殺そうとしてくるだろうよ」
「暗殺者はそれでいいけど――」
ドラウは首を捻る。
「ギルマスとかスタッフは逃げちゃうんじゃねえかな? おれだったら逃げる」
「じゃあ、真っ先にギルマスをぶち殺す?」
リルカルムが挑発するように言った。それは困るな。
「ギルマスは、生かして捕まえる。俺への暗殺依頼を出した奴と組織の情報を引き出すためにもな」
ということで、ギルマスの身柄の確保を最優先。その後、俺を殺す意思を持っている暗殺者を始末する。これで俺を殺そうとしている奴をかなり片付けられるだろう。
「それで、今回は王国軍とか増援は呼ぶのか?」
ベルデが聞いてきた。
「一応、わかる範囲での通路の封鎖とか、人手がいるんじゃね?」
「全部の通路がわかっていないからな。わかっているところを王国軍に見張らせても、他で抜けられたらしょうがない」
つまり、完全封鎖は不可能ということだ。やるだけやるしかない。
「それで、どこから忍び込むの?」
リルカルムが問うた。そうだな――
「ギルドまで極力、人と接触しないルートがいいな。心当たりあるか?」
俺はベルデとドラウを交互に見る。ベルデが自身の描いた図を指し示した。
「王都の外れ、幽霊屋敷って呼ばれているここに入り口がある。場所が場所だけに通路を利用する奴もほとんどいない。ここが一番、人と遭遇しない」
「ほとんど使わないルート? 封鎖とかしないのか?」
シヤンが疑問を口にすると、ドラウが答えた。
「入る奴はいなくても、もしもの時の脱出路として使えるからな。出口が、人のほぼいない幽霊屋敷だから、都合がいいだろう?」
「なるほど、理解したぞ」
「よし、じゃあ、そこから潜り込もう」
作戦開始だ。
・ ・ ・
王都の外れ、というが、スラムの先を行ったところに立っていた屋敷に俺たちはきた。
夜のスラムは危ないものとされるが、さすがに集団で歩いているところを仕掛けてくる物盗りなどはいない。
「ひぇー」
「ボッロ……」
シヤン、そしてリルカルムが口を歪めた。幽霊屋敷というだけあって、実質廃墟だった。真夜中に訪れる場所としては、肝試しに打ってつけだろう。
「ここ、幽霊とか出ないよな?」
キョロキョロするシヤン。ベルデが口もとを引きつらせた。
「お前、ひょっとして、幽霊とか駄目なタイプ?」
「駄目というか、殴って倒せないのは面倒だろ?」
そう言うと、シヤンは犬耳をピクリと動かした。
「ああ、何でこういう時にソルラがいないんだー」
神殿騎士であるソルラは、神聖魔法の使い手だ。その中には、ゴースト系にも有効な魔法がある。
「心配しなくても、ここにゴーストは出ねえよ」
ベルデは一度周囲を確認すると、崩れた塀から敷地内に入った。
「時々、スラムのガキが入るんだが、もう屋敷に金になるものは残っていない。こっちだ――」
草がぼうぼうに生えた庭を横切り、朽ちた屋敷の裏手で回る。明かりがないが、月明かりで、屋敷の輪郭は見える。雰囲気はあるな。
「アレス」
ベルデが、指さした。
「あれだ。地下通路への道」
王都地下の世界にご案内ってか。一応、王族である俺も、噂にしか聞いたことがなかったから、これが初めての体験だ。
しかしその先が暗殺者ギルドであり、暗殺者たちが仕事を求めて集まる場所だというのは、ゾッとするがね。
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