第83話、湧いてくる刺客


 俺を狙った刺客がやってくる。屋敷の地下、魔女が改装した居住区で俺が言えば、リルカルムがお茶をすする。


「いいんじゃない。仕掛けてくる奴は皆殺しよ」


 合法的に始末できるからって、災厄の魔女は鼻歌で歌い出しそうなくらい楽しそうである。


「やって来るのは悪党ばかりだぞ」


 シヤンは、お茶をふうふうと冷ましてから一口。


「他でも殺しをやるような奴は、掃除したほうが社会のためだ」

「……」


 ベルデは居心地が悪そうである。職業、殺し屋だもんな。しかし言い訳はしない。俺は三人を見回した。


「俺としては、情報が欲しいな。前にベルデから聞いた時には、暗殺ギルドでは、俺への暗殺依頼は取り下げられていたとか」

「ああ、あんたの試験相手をする時には、その依頼は消えていたぜ」

「どうせ例の隣国工作員絡みでしょう?」


 リルカルムが目を細める。


「何だったかしら? きょう、なんとか、さん――」

「共有参加守護団だぞ」


 シヤンがさらりと言ってのけた。自称『馬鹿』を公言するシヤンだが、本当はとても頭がいいのでは……?


「そう、その何とか守護団の残党でしょ? アレスを殺そうと、適当にそこらの雑魚を焚きつけているって」

「そろそろ相手をするのも面倒になってきたんだがな」


 俺は正直に言った。


「この屋敷に入り込む分はいいが、町中で狙われるのはさすがにな……。周りの迷惑を考えてほしいものだ」

「人混みに紛れるってのは、暗殺の常套手段だからな」


 ベルデは、自分の分のお茶をすする。シヤンが眉間にしわを寄せた。


「ああいう小狡い手は嫌いだ。周りに当てないように気をつけないといけない」

「なおのこと、狙う側としては、人混みを利用したいよな。周りに被害が出れば、アレス大公の巻き添えって、あんたへの心象を悪くできるし」

「地味に嫌な手だな」


 そうなると、根本を叩くべきだな。俺の支持が下がって喜んでいるサルどもを始末しないと。


「どこからやる?」


 敵を始末できると聞いて、リルカルムがやる気を出す。わー、たのもしー。


「どこを探るべきか……」

「情報を探しているなら、情報屋に当たるのがセオリーだぞ」


 ベルデは首を振った。


「金次第だけど、大抵のことは知ってる。今、アレスを狙っている奴のこととか、わかるんじゃねえの?」

「情報屋か」

「アレスなら、お金なくても呪いで情報を引き出せるんじゃない」


 リルカルムは笑ったが、対照的にシヤンは眉をひそめる。


「ちゃんと仕事をして集めているのに、ただで引き出そうとするのは、よくないんだぞ」


 人の仕事は尊重しろ、と彼女は言うのだ。俺は、ベルデを見た。


「情報屋に当たる。知ってる奴を紹介してくれ」

「……えぇ……」


 何だか露骨に嫌な顔をされた。


「オレは、今は知り合いの情報屋に会いたくないんだが?」

「何で?」

「何でって……こんな姿だぞ?」


 ベルデは自身の少女戦士姿をアピールした。


「会えるわけねえだろ!」

「可愛いと思うぞ」


 シヤンの言葉に、俺も同意の頷き。ベルデはそっぽを向いた。リルカルムが口を開いた。


「アレス、面倒くさいから、ベルデに呪いか何かかけて聞き出すなり案内させたら? ここで問答しているより早いわよ」

「……わーった。わかったよ! 紹介するよ」


 観念したらしく、ベルデは手を挙げた。



  ・  ・  ・



 屋敷の警備、というより罠役の黒バケツ隊には、寄ってきた刺客連中を始末してもらうとして、俺たちは、ベルデの案内で情報屋を探す。


 スラムでも人の気配の少ない場所を歩くことしばし、ベルデが動いた。


「よう、ドラウ」

「!? ……っ!」

「逃げんな!」


 先回りするように滑り込み、情報屋の進路を遮るベルデ。後ろはシヤン。横は壁と、もう反対側は俺とリルカルムで逃げ場なし。


「この姿を見て、逃げ出すってことは、わかってんな」

「だ、旦那ァ……」


 ベルデが女の子になっていること、そして俺たちと組んで行動していることも。言わずともわかっているのなら、さすがは情報屋というところか。


「お話しようぜ、ドラウ」


 さっそくベルデが、情報屋ドラウから話を聞き出す。俺の呪いが必要かと思ったが、見守る限りは、いらなさそうだった。


「――大公の暗殺依頼がギルドでまた出ているって?」

「そ、そうなんだよ、旦那」


 ドラウは目をキョロキョロさせて、明らかに挙動不審である。


「暗殺者ギルドのギルマスが代わって、すぐにだ。正直、これはヤバいって思って――」

「ギルマスが代わった?」


 ベルデが問うと、ドラウはコクコクと頷いた。


「よくわからないが、突然ギルマスが代わったんだ。……ありゃきっと殺されたんだぜ。理由も特に説明もなかったしな。病気や引退ってなら、口頭なり説明があるってもんだが、何もないっことは、つまり、そういうことだ」

「とんだアホがギルマスになったもんだ」


 ちら、とベルデは俺を見た。


「前回は、たまたまお目こぼしなだけで、大公暗殺依頼の仲介なんて、自殺行為じゃねえか!」


 大公暗殺など、どう取り繕っても極刑間違いなしである。余所の誰かの依頼だから、うちは関係ない――なんて通用しない。

 終わった、という顔をするベルデ。リルカルムがニンマリとした。


「ねえ、アレス。これはあれよね? 暗殺者ギルド、ぶっ潰すのよねぇ?」

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