第76話、俺たちはダンジョンを往く


 魔の塔ダンジョン攻略は、順調に進んでいると思う。ただ、階が進むにつれて、その構造や出てくるモンスターは手強くなりつつあった。


 まあ、こちらには王都冒険者の中でもっとも深い階に達している者が二人もいるので、まったく情報なし、ということもない。

 一階丸々洞窟の中の砂地で、無限湧きするサンドワームの大群をかいくぐりながら、31階をクリア。


 狭い空洞の迷路をひたすら進む32階は、縦に一列にならざるを得ないのだが、先頭を志願したシヤンが、大抵のモンスターを一撃で殴り殺していた。


「迷路になっているみたいだけど、道は大丈夫なの?」


 リルカルムが言えば、シヤンは快活に笑った。


「ここは、臭い場所を目指すのが正解なんだぞ。嗅覚ならアタシに任せておけ」

「……どういうこと?」

「ここのフロアボスが、とんでもなく臭いんですよ」


 ジンが解説した。


「この階そのものが、生き物の体を模しているんです。で、我々が目指しているのは、消化液の池のある『胃』にあたる部分です」


 何だかグルグルと同じような場所を回らされた気もするが、シヤンやジンのいう通り、フロアボスはこの階のほぼ中心にいて、色々な物が混ざり合った腐臭を漂わせた木の化け物のようであった。


「永久凍土!」


 リルカルムが、厄介な消化液ごと全てを凍らせてしまったので、フロアボスも弱体化。特に苦労もなくあっさりと撃破した。32階、クリア。


「大丈夫ですか、ベルデ?」


 ソルラが、少女の姿になっている暗殺者に声をかけた。


「んあ? 大丈夫だよ。心配されるほどじゃねえ」


 可憐な乙女とは思えない言葉でベルデは返す。中身は成人男性だもんな。


「しっかし、体力は落ちてるなぁ。これくらいでへばりはしないけどさぁ」


 変化の呪いで、体力や力が外見相応に落ちているようだった。シヤンが腰に手を当てた。


「このフロアは、ひたすら冒険者を歩かせて疲れさせる作りなんだ。疲れるのは普通だぞ」

「へっ、その割には、皆元気そうだけどな」

「体力には自信があるぞ!」

「私もです」


 シヤン、そしてソルラも頷いた。俺はまあ、もう普通の人間の体じゃないから平気だし、ジンとラエルの回収屋コンビはまだまだ余裕そうだ。


「いや、ワタシは疲れたわ」


 リルカルムがうんざりした顔で言った。ただし、何故か槍の上に座っていて、その槍は浮遊していたが。


「何だそれ!?」


 ベルデが突っ込むと、リルカルムは首を傾ける。


「歩くのが面倒だから、適当に拾った槍に浮遊魔法をかけて、それに座っているだけよ」

「うわっ、ズルっ!」


 抗議するベルデだが、リルカルムは嘲笑するばかりである。



  ・  ・  ・



 33階。目の前に牢獄があった。


「というか、閉じ込められた?」


 到着したら、周りは鉄格子と石壁だらけ。差し詰め監獄エリアってやつかな。


「別に閉じ込められたわけじゃないですよ」


 ジンが正面の鉄格子の扉を開けた。


「このフロアを突破するのは、牢の中にある宝箱から、次のフロアへの鍵を探すところから始まります。一番奥にある扉が、次の階への出口ですが、そこの鍵を見つけないといけない」

「牢屋だらけだな」


 俺は苦笑する。いったい幾つあるんだ、ここの牢は。


「見た目はたくさんあるようですが、実際に出入りできる牢はそれほど多くないです。そっちは、このフロア攻略中に意識を失うと閉じ込められる場所であって、表からは入らないですから」

「意識を失うと閉じ込められる、ですか?」


 ソルラが首を傾げると、ジンが、とある牢を指さした。


「あそこに、白骨死体らしきものが見えるな? 攻略中に眠ってしまって送られ、出られないまま果てた奴の末路だ」

「ここの宝箱の中に、居眠りガスを吹き出すモノがあるのだぞ」


 シヤンが言った。


「誰か仲間がいて、全員眠らなければ問題ないんだぞ。前回、アタシの時は、二人眠ったが叩き起こしたら、そのまま探索続行できたし」

「そういうことだ。宝箱にははずれがあるが、それさえどうにかできるなら、複数人でいけば抜けられない場所じゃない。……ソロにはちょっとばかり厳しいが」


 ジンは言った。さっそくフロアを突破すべく、宝箱を探す。檻の中に宝箱があるのを発見したが――俺はジンを見た。


「こういう入り口から近い場所のものはハズレか?」

「さあ、開けてみるまではわかりません。中身についてはランダムなので」


 一度クリアしたから、早抜けできるとは限らないフロアらしい。ベルデで口を開いた。


「ちなみに、この宝箱、鍵はかかっているのか?」

「いや、触って蓋を開ければいい。だが、気をつけろ。そいつがミミックだったら、蓋を開けた途端、噛みつかれる」


 なるほど、そういうはずれなんだな。


「じゃあ、面倒だけど、一つずつ探っていくか」


 俺たちは、まず一つ目の宝箱を開けた。中身は――ミスリルソードだった。


「普通に剣だぞ……?」

「そういうこともあります。ただ、このフロアを突破するには何の足しにもならないので、実質ハズレですね」


 手に入れたミスリルソードを、ジンはストレージにしまった。


「前にここにきた冒険者の遺品かもしれないですね」

「次にいこう……」


 宝箱を探して、鍵を見つけ出すまで彷徨う簡単なお仕事です。途中の宝箱で、ミミックだったり、トラップだったりと中々面倒をかけさせられた。


「このクソミミック、硬くないか!?」

「おう、硬いんだぞ!」


 ベルデが剣で凌ぐ横で、シヤンが鉄拳を叩き込むが、ミミック――宝箱に擬態したモンスターは異様に頑丈だった。


「このフロアの敵はミミック種だけだ。だがその分、手強いぞ」


 ジンが助言した。俺は魔力をカースブレードに食わせて、一閃。金属製のミミックボディを真っ二つにした。

 そんなこんなで、十数個漁っていたら、ようやく鍵を発見し、奥へと行くことができた。


 フロアボスは、カイザーミミックとかいう巨大箱型モンスターだった。これも戦ってみたら、力技で何とかなってしまった。それほど強くなかったな。


 ということで、次。34階だ。冒険者証に、記録を残して次のフロアへ。


「ようやくお出ましか、アレス・ヴァンデ!」


 到着早々、いつかみた邪教教団モルファーの黒ローブ集団が待ち構えていた。ここ、ダンジョンなんだが?


「それ、我らが宿敵を始末せよ!」

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