第74話、衣装選択の自由とは?
「ほほぅ……少し目を離したら、何か増えてますね……」
神殿騎士のソルラは、我がパーティーに加わった新メンバーに、少々を顔を引きつらせていた。
「Aランク冒険者のシヤン・ドゥだ。よろしくな!」
獣人のハーフであるシヤンが、元気よく挨拶をした。二十手前と思うのだが、体の大きさの割にとても子供っぽい。
ソルラはため息をつけた。
「また、この人も……」
しなやかに引き締まった筋肉を見せびらかすように、衣服の面積が小さく、露出過多な印象を与える。スタイルがいいから余計に始末が悪い。
同じく体の線が完璧のリルカルムが、最近ようやくマントでその肌面積が減って一息ついていたところだったから、またも見せびらかしが増えて、ソルラのストレスが上昇である。
「それでこちらが――」
「……」
「ベルデ。仮釈放中の暗殺者だ」
俺が代わって紹介すると、ベルデちゃんは、ツンとそっぽを向いた。体のサイズが変わったため、子供サイズ、かつ女子用防具とインナーを装備する彼女だが――
『なんで、ズボンがないんだよ!?』
動きやすい丈が短めなスカートが大変お気に召さない様子。しょうがない、走ったり飛んだりを考えなければ、町のご婦人方が着ている足もとまで伸びている服もあるのだが、冒険者のように戦う職業でそれは、死ににいくようなものである。
かといって、男性用に比べて女性用はバリエーションが限られる。これも冒険者の構成比が男性のほうが多いからか――と思ったが、そうでもないらしい。
シヤン曰く――
『何か最近、女性装備は女性が作ったものでないとダメ、とかいう、頭のおかしなことを言う奴が増えたせいだぞ』
元々、防具を作るというのは肉体労働なので、職人は圧倒的に男性が多い。しかし気づけば貴族女性や一部女騎士や冒険者たちから、『男性が作った防具を女性が着るのは如何なものか?』という声が上がった結果、以前よりも女性冒険者向けの防具の数が減ったのだという。
その結果、一番困ったのは、戦う職業についている女性たちだった。装備が少ない――数がないので割高。バリエーションが少なく、選べない、などなど。
そんな状況だから、ベルデ(女の子)用の装備は、非常に片寄ったものから選ぶしかなかったわけだ。
ズボンはあったが、機能性もなく、しかも重いときている。完全に数合わせであり、戦う人のことを考えていない。だから、ベルデは泣く泣くスカートなのだ。命には変えられない。
結果、二の腕や太ももの肌が見えるのを大変恥ずかしがっているようだった。……文句は、そう仕向けたどこぞの身分の高い女性に言ってやれ。
閑話休題。ソルラが怪訝な顔で言った。
「その彼……彼女は――」
「言い直すなっ!」
ベルデが吠えたが、ソルラは取り合わず俺を見た。
「大丈夫なのですか? 暗殺者なのでしょう?」
「ちゃんといい子で魔の塔ダンジョンを攻略するのを手伝ったら、元に戻してやるって言ってある」
ベルデのそれは、変化の呪い。つまり呪いということは、俺のカースイーターで取り除けるということだ。
うわぁ、とソルラは微妙な表情を浮かべた。
「つまり、人質みたいなもので、従わせているんですね。……リルカルムと同じように」
「執行猶予と言ってほしいね」
前科があるんだから、こうでもしないと牢獄か死刑だろう? だいたい、一般人からみて、犯罪者が何も制限なしで出歩くって許容できる? できないよな?
「アレスがそう言うのなら、それで納得いたします」
「大丈夫。コイツが悪いことをしたらアタシがぶん殴って、躾ける!」
シヤンが請け負った。ソルラがドン引きする。
「いやいや、暴力で躾けるとは――」
「フン、ガキにオレを躾けるとか、舐めるな……」
「おー、今はお前のほうがガキなんだぞー」
ベルデとシヤンが、子供の喧嘩の延長みたいな言い争いをしている。ソルラは出来の悪い妹たちを見るような目になる。
「それで加入したのはいいですけど、階層は大丈夫なのですか? また一からスタートなんてことは――」
「アタシは45階まで行ったぞ!」
王都冒険者ギルドの最強クラス冒険者であるシヤンである。当然のように、冒険者たちの中でも一番深いところに言っていた。
「オ、オレは31階……」
ベルデは、シヤンとの差に思わず拗ねたように顔を背けた。忘れてはいけないが、暗殺者のベルデは、表の顔は冒険者でBランク。魔の塔ダンジョンでも30階辺りまで突破している実力者である。
「フフーン」
「ドヤんな!」
ガキだな――俺は思わず苦笑する。視線の合ったリルカルムもまた、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「お待たせしました」
「おはようございます」
ジンとラエル、回収屋コンビがやってきた。俺は頷いた。
「揃ったな。それじゃ、魔の塔ダンジョンの攻略を進めようか」
・ ・ ・
「やあ、よく来てくれた、カントナ侯爵、そこに座ってくれ」
王城の国王の執務室。ヴァルム王は自身の執務机から動くことなく、呼び寄せた侯爵を席につかせた。室内にはハンガー軍務大臣もいて、ジロリとカントナを睨んだ。
「今日、君に来てもらったのは他でもない。君と一部の貴族らが、私の知らないところでやっているとある法についてなんだがね」
「……は、はい」
カントナはポケットからハンカチを出すと、あふれ出る汗を拭った。
「……暑いかね?」
「え……あ、いえ――」
「汗をかいている。病気かね?」
「そんなことは――」
「そうか、なら話を続けよう。君と一部の貴族たちが自分たちの領地で施行している男女装備均等法――酷い名前だ。これなんだがね、即刻やめてくれないかね?」
ヴァルム王は、カントナを睨んだ。
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