第67話、冒険者ランクの件
王都冒険者ギルド。ギルマス代理のボングは、顔を綻ばせた。
「30階突破ですか! やりますねぇ」
「頑張ってるだろう?」
俺が言えば、ボングは頷いた。
「そうですね。魔の塔ダンジョンの30階辺りなら、Bランク相当ということになりますね。……昇級試験がありますが、受けますか?」
「受けると何かメリットが?」
「買い取り料金が上がります。少なくともDランクのままよりはいい」
「俺って今Dランク?」
「始まりはFランクからなのですが、アレス様はダンジョン初日で20階まで行ける方ですからね」
「ダンジョン20階辺りでEランク?」
「いえ、Cランク相当ですね。そこまで上げてもよかったんですが、アレス様が討伐証明をお持ちでなかったので――」
倒したモンスターの部位。売ればお金になる品。攻略優先で、撃破部位やドロップに興味がなかった。
「でもDになってるな?」
「前回、回収屋が同行して、きちんと討伐証明が提出されましたからね」
「なるほどね」
それは納得だ。
「しかし、俺の知らないところでDまで上がっていたが、試験はいいのか?」
「Cランクまでは撃破証明と倒した敵の種類や数などをみて、ギルドで上げられます。ただしそれ以上の、いわゆる上級冒険者になるには、本人の昇級意思を確認して、試験という形ですね」
何でも、上級冒険者になると報酬が割り増しになる一方で、貴族や国からの指名依頼が入りやすくなる。それはつまり、ダンジョンを冒険していた頃に比べて色々制限される可能性が高くなるということだ。自由を好む冒険者は、そういった有力者に縛られるのを好まず、敢えてランクを抑えているらしい。
「まあ、大公である俺を指名する貴族などいないだろう」
俺は、昇級試験を受けることにした。王族としても、俺を呼びつけられるのは弟のヴァルムくらい。そしてあいつが呼ぶなら、冒険者かどうかは関係なく駆けつける。ここは孤児たちのための資金稼ぎを優先する。
「それで、Cまでは昇級がいらないってことだけど、まずはCランクになってからになるかな?」
「そうなりますが、今回もまた派手にやってきたようなので、ギルマス権限で、Cランクに昇級といたします」
「不正か?」
「いえいえ。ここまで腕のいい冒険者は囲い込むのが普通なので、ちゃんと実績が確認されれば、これくらいはやります。実績がないのにあげたら、その時は不正です」
ボングは笑った。それもそうだ。
「それで、Bランク昇級試験というのは?」
「筆記試験と、実力判定試験ですね。我々、ギルドスタッフがこの目で確認いたします」
基本、ギルドにいるスタッフは、その冒険者が討伐証明を持ってきても、きちんと討伐した瞬間を見ていたわけではない。なので、別の人間が倒したものを、自分がやりました、と虚偽申告をしても、中々わからない。
だから上級冒険者であるBランク以上は、ギルドスタッフが直接、その冒険者の実力、知識などをみて判定するのである。しっかりとやってきた者ならば問題はないが、不正をした冒険者は、この昇級試験でメッキが剥がれるというものだ。
そして試験の内容だが、筆記は、モンスターやダンジョンに関する知識。実力判定は、上級冒険者たちとの模擬戦をやる。
「……そう言われると、筆記試験はちょっと自信がないな」
割と力でクリアしてきたから、ダンジョンについてだとか、モンスターの名前や習性など言われてもわからないことも多い。薬草や毒草の種類とか言われたら、困ってしまうな。
「筆記はおまけみたいなものです。上級冒険者だって、巡り合わせによっては一定のモンスターと遭遇せずに潜り抜けるような人もいますし。実際、読み書きできるか、文章の意味を理解できるか、のほうが大事な採点ポイントでもあります」
「へぇ……」
「試験前に、図書館で勉強してもいいですよ。ちゃんと知識として身につくなら、前日勉強でも全然構いません。ひいては自分を守る知識ですからね」
「そうなのか――うわっと」
突然、俺の背中に柔らかな当たり屋がきた。
「はいはーい! ギルマス代理ぃ、その試験ワタシも受けられる?」
リルカルムが出てきた。今はいつもの手薄服の上にマントを羽織っているので、以前のように周囲からの視線を浴びまくるということはなかった。……ちゃんとソルラからの提案を受け入れるあたり、彼女も悪い人間ではない。
「……」
「ボング、何故俺を見た?」
「彼女に試験を受けさせて大丈夫かな、と。……実力は疑いようがないのですが、その……模擬戦相手を、殺したり大怪我させたりしないでもらいたいのですが」
散々な言われようだな……。
・ ・ ・
「お仕事中、よろしいでしょうか?」
ソルラ・アッシェは、冒険者ギルド建物の裏手の解体所にいた。ここはダンジョンなどから持ち帰ることができたモンスターの解体や処理が行われる場所である。
ジンとラエルの回収屋コンビが、アレスたちが討伐し、ストレージに回収したモンスターやフロアボスの解体作業をしていた。
「どうしたんです、ソルラさん?」
ラエルが返事すると、ソルラは頭を下げた。
「作業の後で結構なので、お話を聞いていただけないでしょうか?」
「終わるのは深夜になる」
ジンは、上半分がなくなったドラゴンの死骸に刃を入れて解体しながら言った。
「作業しながらで構わないなら、今言ってくれ」
「その、大変お忙しいとは思うのですが、私に回収屋のお二人のような、ダンジョンで生き残れるスキルをご指導いただけないでしょうか?」
え?――キョトンとするラエル。ジンは微笑した。
「神殿騎士も暇ではないだろうに。……本気なのか?」
「本気です!」
ソルラは背筋を伸ばした。
「私は、アレスの力になりたいとついてきましたが、ダンジョンでは、むしろ足手纏いになっていまして――」
「治癒魔法と神聖魔法。あと前衛についていけるタフさ。自分の身は自分で守れる能力……。充分だと思うがね。そこらの治癒術士なら、ついていくのがやっとだろうから、そっちのほうが足手纏いになるだろうな」
「あ、ありがとうございます」
まさか褒められるとは思わず、ソルラは驚いてしまう。ジンは続けた。
「ダンジョンは重装備の騎士には不向きな地形が多い。あんたの実力ではなく、相性の問題だ。そこまで自分を下げなくてもいいよ」
「それでも……! 私は、足を引っ張りたくないんです。志願したからには、役に立ちたい……! せめて邪魔や足手纏いにならないように」
それはソルラの本心だった。英雄王子であるアレスと出会い、彼を見続けてきて、ソルラが心から思い、願ったこと。責任感が強い故に、不甲斐なさが込み上げる。
「なるほどね。了解した」
ジンは、口笛を吹いて、ギルドの解体担当を呼ぶ。ドラゴンだったもの――バラした素材を買い取りと保存に回すように指示を出す。
「それじゃ、さっそくレッスンといこう」
「ありがとうございます! ……あ、でもまだ解体が」
「そう。まずは解体作業からやってもらおう。ソルラ・アッシェ、君はすでに基本ができている騎士だ。解体作業を通して、モンスターの習性修正や弱点を学びつつ、ダンジョンの地形に負けない身体強化魔法を教えよう。なに、修行なんてものは、何かの『ついで』でできてしまうものなんだ」
ジンはそう告げた。
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