第65話、ダンジョン攻略中
「また橋ですか」
ソルラは、うんざりしたように言った。俺たちにとっては新領域となる21階。
広大な地下空間。入ってきた転移魔法陣から、幅広いの道が真っ直ぐ走っているが、よくよく見れば、それは石の橋であり、下は水が張られていた。
「ここ、結構深いですよ」
回収屋として、すでに45階まで行っているジンである。
「ここはゴールの魔法陣まで一本道です。このフロアにいるモンスターは唯一、サーペントのみ」
ジンは片方の眉をひそめた。
「一応、フロアマスターでもあるんですが、ここの階も倒さずともクリアはできます」
「なるほど。わざわざ潜らなくても通れるわけだ」
俺がソルラに目を向ければ、彼女はムッとした顔になった。
「何故、今私のほうを見ました?」
「いや、俺やお前の装備じゃ、水中戦は無理だろうなって思ってさ」
「それはそうですね」
着衣水泳だって大変なのに、鎧をまとっている以上、このまま落ちたら、まず助からない。リルカルムくらい軽装だと、泳ぐのに邪魔にはならないだろうし、ジンとラエルの戦闘服は水の中も問題なさそうに見える。
「用心してください」
ジンは注意した。
「この橋、サーペントの奴がしょっちゅう柱にぶつかってくるせいで、大変揺れます。脆くなっているところは崩れるので、油断していると下に落ちます」
「それは、面倒だな」
俺たちは、このフロアの唯一の道でもある橋の上を進んだ。道幅は広く、端によらなければ下が見えないくらい。がっちりとした石の台に支えられているので、まったく揺れない。普通に地面の上を歩いている感じだ。
薄暗いが、橋には魔石が照明のように置かれているので、夜の散歩をしている気分になる。
一本道と聞いたが、結構距離があった。半分くらい進んだところで、リルカルムが頭を動かした。
「いま、電気が弾けるような音がしなかった?」
「ああ、サーペントだ」
ジンが答えた。
「奴は近くにきている。ちなみに、発電能力を持っているので、ここのサーペントには電撃系の魔法は効かない」
その瞬間、衝撃と共に足場が揺れた。
「これは、サーペントか?」
俺が聞けば、ジンは頷いた。
「ですね。ああやって体当たりで、橋の一部が崩して、こちらが落とそうとしているんです」
「急いだほうがよさそうだな」
揺れが収まったところで、俺たちは走った。次の揺れがきた時、ガラガラと橋の一部が崩れるような音がした。よくよく見れば、ヒビが入っているのが見える。
「攻撃する!?」
リルカルムが確認する。だが俺は首を横に振った。
「足を止めるな! 行け!」
万が一、俺たちの行こうとしている方が崩れたら、通行に手間取ることになる!
背後で凄まじい倒壊音が聞こえた。見れば、後ろのほうで道の右半分ほどが崩れていく。土台がサーペントの当たりに耐えきれなかったのか。当たり具合によっては、橋が分断されるなんてこともあるかもしれない!
そのまま走る。少しの間、サーペントが大人しくしていたが、再び追撃を開始したようで、軽い当たりで震動を起こしてくる。
「今日は、ちょっとマズイですね。やたら活発だ」
ジンは言うとストレージから、球状の物体を取り出すと魔力を込めて放り投げた。
「今のは?」
「デコイです。水の上を跳ねるようにしてあります」
「するとどうなる?」
「サーペントが離れていきます」
確かに、先ほどまで当たりに来ていた音と揺れがなくなった。
「生き物が落ちて、水の上を動いているように見せかけたんです。サーペントは餌と思い、それを追いかけた」
「そんな便利なものがあるなら、早く出しなさいったら!」
リルカルムが息を切らせながら文句を言った。長いこと走らされたことでご機嫌斜めかもしれない。しかしジンは平然と答えた。
「やたら食いつきがいい日じゃないと、あれくらいで誘い出されないんだよ。しばらく観察しないと、その日のサーペントのご機嫌なんてわからないからな」
「さすがプロですね」
ソルラは感心を露わにした。ジンは小さく首を傾けた。
「仕事だからね」
ともあれ、21階も魔法陣到達、クリアだ。
・ ・ ・
22階は、断崖絶壁。高さ五十メートルほどの岩壁の天辺に、次の階への転移魔法陣があるという。
「これを登る?」
「一応、壁に沿って足場はあります」
ジンが指さす。専用の崖登り装備がなくても、行け――
「いやいや、降りるならともかく、普通に装備抱えてジャンプは無理だぞ」
「身体強化魔法があれば、ジャンプでも登っていけますよ」
ジンとラエルはそれで超えたらしい。
「なるほど。じゃ、俺も呪いの力で脚力あげれば行けるってことだ」
問題は、ソルラとリルカルムか。
すると、リルカルムが杖の先でポンと自分の周りの地面を叩いた。
「浮遊」
岩塊が突然浮かび上がり、足場となる。フフンと、勝ち誇ったような顔になるリルカルム。あーっ、ズルっ、それで上まで浮かぶつもりか!
「魔女をなめないでね。……乗ってく?」
リルカルムがソルラを見た。どう考えてもそのままでは超えられないソルラが、複雑な表情を見せた。
「の、乗れるんですか?」
「ワタシにピーっタリくっつけば、もう一人くらいは乗れるわよ。どうするの?」
「わ、わかりました。……よろしくお願いいたします」
「どうぞ」
背に腹はかえられないということか、ソルラはリルカルムに密着した。リルカルムは杖で足場を叩いた。
「悪いけど、これ二人用なの。アナタたちは頑張って登ってきてね」
……うん。
「登りますか、師匠」
「うむ」
ラエルとジンは、さっそく崖の狭い足場へと跳び、登りはじめた。……はいはい。俺も呪いの力で足を変える、一気に三メートルほどジャンプして足場に飛び乗った。せいぜい一人が乗るので精一杯なので、前の人間が移動してから飛び乗る格好だ。
途中、飛行型の魔物が襲ってきたが、先行するリルカルムと、足場先頭のラエルが狙撃銃で応戦し、事なきを得た。
フロアボスの大翼竜は、俺が到着する頃には先行者たちに倒されていた。かくて22階もクリア。さくさく行きたいね。
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