第63話、報復の手は?


 王都に巣くうゴミの掃除は進んでいる。

 共有参加守護団に関係した隣国工作員も、証言から特定が済み、王国側で身柄確保に動いている。

 同時に、王城の協力者、軍にいる工作員らも続々逮捕されている。共有参加守護団が、潜入工作員たちの元締めのようなところだったらしく、関係したスパイは一網打尽になりつつあった。


「昨日は、お疲れさまでした、アレス」


 やってきた神殿騎士のソルラが、第一声で労ってくれた。ありがとう。


「……リルカルムは、何かあったんですか?」

「共有参加守護団の本部に乗り込んだ時は、捕虜確保を優先したから殺しは極力避けたんだが、それがお気に召さなかったんだと」


 てっきり、いっぱい敵を潰せると思ったのに、思いの外始末せず捕らえたのが気に入らなかったらしい。


「……おぞましいですね」

「俺もそう思うよ」


 とはいえ、捕らえた工作員たちは、どのみち処刑だがな。スパイの末路は死と決まっている。


「ヴァルムと話したんだがな、帝国本国にも報復しておきたい」

「ヴァンデ王国が、ガンティエに戦争を仕掛けるのですか!?」


 ソルラは驚いた。ユニヴェル教会としても、戦争と聞いて平然としていられない。


「いや、真面目に戦争をするなら、少なくとも準備が掛かる。向こうから武力で仕掛けてきたら別だけど、当面は軍としては静観だな」

「軍としては……?」

「まともに戦争をせずに、あの帝国に食らわせてやるのさ」


 俺はニンマリする。


「連中がヴァルムに仕掛けたように、呪いで皇帝近辺にお返しするという手もある。俺は、その落とし前をつけさせるつもりだ。帝国にも色々不幸になってもらう」

「……っ! リルカルムが何か見てますよ」


 ソルラが魔女の視線に気づき、ドン引きしている。壮絶な表情を浮かべているリルカルムである。


「あいつのことだから、帝都に乗り込んで大量虐殺とかやりたいんだろう。さすがに一般人を巻き込むやり方は、底が見えないほどの泥沼になるからやらない」


 相手の民族を絶滅させなければならない、みたいな地獄は御免蒙る。リルカルムがかつてやったように、国ひとつを滅ぼすなんてのは手ではあるが、それは後が色々まずい。


「今はどう帝国に報復するのがいいか考えている。やるからには、徹底してやりたいからな。人様の国をなめくさった復讐はさせてもらう」


 というところで、魔の塔ダンジョンに到着。待ち合わせしていた回収屋のジンとラエルが先に来ていた。


「昨夜は大変でしたね」

「知っていたのか?」

「ギルドでも噂になってました。王都からまた一つ、胡散臭い組織が消えたと」

「胡散臭いね……」

「商人たちが、共有参加守護団の黒い噂をしていたので、その辺りは小耳に挟んだことがあります」


 ジンは言った。


「隣国のスパイだったというのなら、この辺りも少しは落ちつくでしょうね」

「まったくだ」


 俺たちは、ダンジョンに足を踏み入れる。前回16階だったので、そこからスタートだ。冒険者証で、転送魔法陣まで移動。16階に到着すると、すぐ次の17階へ向かった。



  ・  ・  ・



 俺とソルラにとっては、一度来た道だ。

 鬱憤がたまっているらしいリルカルムの魔法で、魔物どもを蹴散らしつつ、俺たちは進んだ。


「ギャアギャア、ギャアギャアうるさいのよ!」


 大挙押し寄せるゴブリン軍団を、災厄の魔女の杖から迸る地獄の業火が焼き払う。

 洞窟型の階層。大人の半分程度の背丈のゴブリンが大集団を形成して突っ込んでくる。


「ここのフロアマスターは、ゴブリンキングだ」


 遥か彼方の敵集団には、ホブゴブリン部隊に囲まれた、大鬼級の巨体を誇るゴブリンの王がいる。


 俺はカースブレードを手に、適度に呪いの炎を放ちつつ迎撃。中央をリルカルムが焼き払うので、敵集団はまばらになり向かってくる。ラエルが狙撃銃で適度に減らし、ソルラも一体ずつ時間をかけずに片付けている。


 ジンはといえば、ストレージから片手剣を出して、二刀流を披露していた。流れるように、ゴブリンたちが切り裂かれ、屍を築いていく。その動きは熟練の剣士そのものであり、ゴブリンは刃を迎撃すらできずに、首を裂かれて絶命していく。


「……いつもはこんなに数はいないはずですが」


 ジンの指摘に、俺は苦笑する。


「たぶん、俺の呪いに反応しているんじゃないかな? 俺がいると、モンスターが多く集まってくるみたいだから」

「なるほど……。それで冒険者たちに同行するなら、45階まで来れる実力を求めたわけですね?」

「え?」


 ジンの指摘はつまり、俺といると普段より魔物が寄って大変だから別行動にしたほうがいいよ、と、冒険者たちに気を遣ったものと解釈されたようだった。

 単に実力者がわからなかったから、開拓されている一番先まで来れる奴なら間違いないだろう、ってだけなんだが……。


 言わぬが花、かもしれない。


「アレスぅー、前回は、どうやってこれを突破したの?」


 リルカルムが聞いてきた。どうやってだって? そんなもの決まっている。


「正面からの中央突破だ」

「回収屋さん? アナタたちは?」

「ゴブリンたちに気づかれないように、忍んで進み、キングと側近のホブだけを始末した」


 ジンは答えた。あれだけ最前線で剣を振るいながら、汗ひとつかかずに、ゴブリンたちを処理していく。


 と、彼の持っていたショートソードが折れた。しかし次の瞬間、彼のストレージから新しい剣が出てきて、すぐにそれで、迫り来るゴブリンを引き裂いた。

 ちょっと目を離すと見逃してしまう早業。実はジンは、すでに四本ほど剣を折っているが、その都度新しい剣を出して戦闘を続けている。

 ストレージが色々入るのはわかっているが、いったい何本ストックしているのやら。


「もういいわね!? 全部焼き払ってやるわ!」


 リルカルムが杖をかざし、炎の上級魔法を使った。


「溶かせ! 溶岩竜!」


 大量の溶岩が溢れ出て、それが波のように正面へと流れていく。特に高低差はないはずだが、溶岩はゴブリンたちを瞬時に炭に変えながら、敵本陣に殺到。ホブゴブリンの護衛もろともゴブリンキングが溶岩に溶けた。

 あまりの熱と威力に、ソルラが驚いた。


「凄い……」

「でもこれだと、ドロップ回収できないね」


 ラエルが、どうしたものかと困った顔をした。彼の言うとおり、この階の敵をフロアマスターごと一掃したものの、武器などの回収できそうなものまで溶けてしまった。

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