第62話、隣国工作員の末路


 共有参加守護団の構成員が、大量に逮捕された。


 俺からの知らせを受けたヴァルムは、ただちに騎士団を動員。ゴーストセイバーにより死んだように動けない守護団員を根こそぎ拘束した。


 俺の呪いにより、真実のみしか話せなくなった幹部たちは、王国軍の尋問に対して、一切の隠し立てもできず、ありのままを白状した。

 夜にもかかわらず、尋問に立ち会ったヴァルムは、隣国の工作と王国民を騙した卑劣な行為に激怒し、彼らに報復に出るのである。


 翌日には、王都各所に立て札が立てられ、共有参加守護団が隣国のスパイであり、一部民に税金率を偽り、不正にお金を騙し取っていたことが告知された。



  ・  ・  ・



「本来、王都住民が納める税は40パーセントだった。しかし共有参加守護団は60パーセントと嘘を吹き込み、10パーセント分を渡せば、税を40パーセントにするように交渉すると詐欺を働いた!」


 字が読めない者のために、騎士が傍らに立ち、内容を説明する。


「最初から40パーセントだったのに、余分の10パーセントを共有参加守護団が搾取していたのだ! お前たちの生活が苦しかったのは、卑劣な帝国のスパイと売国奴どものせいだっ!」


 これには騙されていた低層の民たちが激怒した。払わなくてもいい分まで、取られていたのだから、無理もない。


 一方で中流以上の民や商人などは、税率詐欺には騙されていなかったものの、共有参加守護団からは度々、商売の保護や警護の名目で金品を要求されていたから、まったく無関係ではいられなかった。


 庶民の味方とされていた共有参加守護団は、完全に隣国による侵略の尖兵だった。彼らの悪事は、幹部たちの自白効果もあり、次々に明るみに出た。


 王城。玉座の間で、ヴァルム王は昨晩起きた事件、共有参加守護団本部の強制調査と隣国工作員の逮捕を、臣下たちに告げた。


「前々より懸念のあった王都に入り込んでいたスパイどもをまとめて摘発できたのは、実に喜ばしいことである。これも兄上の迅速な対応あってのことよ」

「恐れながら、陛下。行動が少し性急過ぎではありませぬか?」

「ほう、リーゲル卿は不服か?」

「滅相もありません。ただ、共有参加守護団は、民も信に置いていた集団でした。今少し慎重になるべきだったかと」

「奴らの悪事をさらした。民も、自分たちを騙していたのが誰かを知り、大いに憤慨しておるだろう」

「その怒りがこちらに向く可能性も――」

「搾取されていた民たちも、真実を知り、どちらが正しいか悟るだろう。心配は無用だ」


 ヴァルム王は、煩わしげな表情を浮かべた。そこで軍務を司るハンガー大臣が口を開いた。


「発言をよろしいでしょうか、陛下。――はい、アレス・ヴァンデ大公閣下の行動は迅速でありました。しかし、王国軍と足並みを揃えたほうがよかったかのではないか、と愚考いたします」

「兄上は命を狙われたのだ。王族、貴族たるもの、戦争を仕掛けられたなら、即時報復行動に出るのは当然のこと。何も問題はあるまい」

「しかし、それで共有参加守護団の構成員らを逃がしてしまっては――」

「兄上の報告では、あの場にいた者は全員捕縛ないし、処断したとある。誰も、逃がしてはおらんぞ」


 ヴァルムは睨んだ。


「そもそも、軍で本部を包囲している間に、奴らは逃げ出していただろう。聞けば、この中にも、共有参加守護団と繋がっている者もいるというではないか」


 何と――集まった臣下たちがざわつく。当然だ。彼らの中に、隣国工作員と通じている売国奴がいると言われたのだから。


「王国軍の中にも、奴らの手の者がいる。軍が動けば、敵に通報していただろう。……捕らえた工作員どもが、裏切り者の名を明かす。心配は不要だ」

「その証言は、信用できますかな?」


 リーゲル伯爵は言った。ヴァルムは、相好を崩した。


「もちろんだ。何せ『真実を語る術』によって、捕らえた工作員どもが自らペラペラと話してくれるのだからな。これほど楽な取り調べもあるまい。物心ついた頃から家族、友人関係、帝国での上司や部下、師が誰か、皇帝に会ったことがあるかまで、全部筒抜けだ」


 臣下たちの中に、ハッと息を呑む音がした。捕まった共有参加守護団幹部の口から、その交友関係はもちろん、秘密の繋がりまで明かになろうとしている。いや、すでになっているのかもしれない。


「実に嘆かわしいことだ」


 ヴァルムは天を仰いだ。


「私が寝込んでいる間に、帝国は緩やかに我が国を蝕んでいた。そして諸君らもそれに気づかず、安穏と時を過ごしていた。……私は悲しい」


 しん、と玉座の間が静まり返る。少々芝居がかった仕草を見せる時、それはヴァルム王がとてもお怒りだというのを、古くからの臣下は知っているのだ。

 事実、王の目は据わっていた。


「これだけ好き勝手やってくれたのだ、すぐに軍を編成し、ガンティエ帝国に侵攻――報復したい気分だっ」

「!?」

「お、お待ちください、陛下!」


 ハンガー大臣が慌てて口を開いた。


「お気持ちはわかりますが、さすがにご再考を! 我が国の兵力では、帝国と正面から戦えません!」

「わかっているよ、軍務大臣。だがな、武力ではなくても、我が国は明確な侵略を受けていたのだ。すでに戦争を仕掛けられているのだよ。仕掛けたのは我々ではない、奴等だ」


 臣下たちに緊張が走る。国力、彼我の戦力差を考えても、ヴァンデ王国はガンティエ帝国と一対一では太刀打ちできない。しかし、ヴァルムは売られた喧嘩だと宣戦布告も辞さない空気をまとっている。


 帝国と本格的な武力衝突となったら、自分たちは生き残れない――そう考える貴族らは多かった。


「フフフ、冗談だ」


 ヴァルムはさらりと言い放った。臣下たちは目を見開く。


「もし戦争をする時があっても、周辺国と同盟を組んだ後の話だ。単独で仕掛けるなんて、真似はせぬよ」


 王の言葉に、周囲は安堵した。怒りにかられて国を滅亡に追いやる選択をしなかったことに。


「だが――あの隣国のスパイどもは別だ」


 ヴァルムは淡々と告げた。


「あの者どもは一人として生かさない。犯した罪の重さと、我が民たちの恨みに晒されてあの世に送ってやる。これはケジメだ」



  ・  ・  ・



 共有参加守護団員の処刑が執行された。ヴァルム王の言葉どおり、処刑場に集まった民衆の怒りは凄まじく、憎悪の海となってシャルク・パーバら幹部に投石が浴びせられ、刑執行前に死んでしまう者も少なくなかった。


 そして刑が執行された後、共有参加守護団員は、王都前の街道に並んで吊された。旅人や通行者は、王都住民の恨みの深さを目の当たりにすることになる。

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