第61話、共有参加守護団本部、強襲
守護団本部で、アレス・ヴァンデの抹殺の報告を待っていた団幹部たち。降って湧いた英雄王族の帰還によって狂わされた、ガンティエ帝国による王国分裂計画。報告を待つ間に、計画の軌道修正の話し合いが、真夜中にも関わらず続いていた。
「――アレスを始末したとして、ヴァンデ王は、潜入している我らが同胞たちの捜索をやめないだろう」
工作員リーダーであるシャルク・パーバは、一同を見回した。
「発端はアレス・ヴァンデにしろ、一度動き出したからには簡単には止まるまい」
「王都住民と王族との対立を作らねばな」
「偽りの重税を焚きつけて、暴動を起こさせるか?」
「それより、スパイ狩りを装って、王国騎士に扮して一般人宅を荒らすというのはどうだ?」
団員幹部らは睡魔も吹っ飛んでいるのか、熱のこもった意見を交わす。
「自分たちが騙されて、搾取されているとも気づかない馬鹿な民衆だな」
「王都といえど、一般人なんてこんなものよ。あいつらは本当と嘘の見分けもつかないボンクラだからな」
ハッハッハッ――笑いが巻き起こる。シャルク・パーバは言った。
「連中のちっぽけな正義感に火をつければいい。後は勝手にやってくれる。民衆など、底なしの愚か者だからな」
正しいことをしていると思い込み、そのための行為は許されると考えてしまう愚民たち。それで国の法を犯せば、たとえ正義でも罪に問われる。
だがそれでいい。正しいことをしているのに罰せられると彼らが感じれば、余計に国と民の軋轢は大きくなる。……自分たちが踊らされていると気づかぬ民たちが、自分の国を滅ぼすのだ。救い難い低脳である。
そして混乱の末、王国が骨抜きになれば、ガンティエ帝国が少しの力で丸々征服できるだろう。自国の被害を抑えて、ヴァンデ王国の崩壊と支配……完璧な計画だ。
シャルク・パーバたちが工作活動のもたらす王国の末路にほくそ笑んでいると、外が騒がしくなった。
「お、これは戦闘員たちが戻ってきたかな?」
幹部の一人が笑った。帝国の敵アレス・ヴァンデを始末したか――しかし、その期待は打ち砕かれることになる。
・ ・ ・
王都内にある守護団本部。その正面入り口に黒マントの一団がやってきた。見張りに立っていた冒険者に扮した戦闘員は警戒する。
「何だ、お前たちは――」
その瞬間、先頭のフードの男がいきなり抜剣して、見張り番を二人、瞬く間に切り伏せた。
「リルカルム」
その男が言えば、同じく黒マントの一人が杖を入り口に向けた。次の瞬間、扉は粉微塵に吹き飛んだ。
中にいた守護団員たちが慌てる。襲撃か――!
黒マントをした黒バケツ隊員が、さっと建物に侵入し、近くの守護団員たちに襲いかかる。一階フロアはたちまち戦闘――いや、虐殺の場と化す。
二階への階段を登る黒マント。
「貴様らー!」
下の騒動に、武装した守護団員が飛び出すが、黒マントは呪いオーラをまとった剣を振りかぶった。
とっさに守護団員は剣で受け止めようとした。だが相手の斬撃は、剣をすり抜け守護団員の体をもすり抜けた。そのまま魂を持って行かれたのように、力が抜けて守護団員は倒れる。
後続の守護団員たちは、剣を切られて倒れたのかと思った。だがそのカラクリについて考える間もなく、黒マントは前へと進んだため、守護団員たちは武器を手に立ち向かった。だが、黒マントの剣が一振りされるたびに、団員が一人、また一人と倒れていく。
あまりの異様さに、守護団員たちは恐怖を覚える。触れたら最期、まるで死神の鎌にやられているようだった。
いかなる攻撃、防御もすり抜けての瞬殺。守護団員たちは完全に怖じ気づく。逃げようと通路の奥の扉を開けようとするが……開かない!
「くそっ、なんで!? ……おい! 開けてくれ! ここを開けてくれ!」
一番奥にいた団員が扉を叩き、開けようと取っ手に力を入れるが、岩の壁のように重く、そして動かない。
その間にも団員たちが倒れて、ついにその男一人になった。
「頼むっ! 助けてくれっ! 助け――」
黒マントの男が剣を振り下ろした。団員は全身から力が抜けていくのを感じ、そして意識を闇に閉ざされた。
団員たちを一掃し、黒マントの男が扉に触れると、簡単に開いた。そのまま先に進み、守護団員たちを倒した彼は、やがて幹部たちのいる会議室へと到着した。
しかしそこはもぬけの殻。通路の奥へと視線を向ければ、建物から脱出しようとして、しかし閉じ込められて足掻いている共有参加守護団幹部たちの姿が見えた。
「その扉は開かないぞ。隣国の豚ども」
黒マントの男は言い放った。
「開けてほしければ、災厄の魔女に土下座して頼み込むのだな。……まあ、彼女に踏みつぶされて終わりだろうが」
「き、き、き貴様は、何者だっ!?」
幹部の一人がヒステリックに叫ぶ。黒マントは彼らに近づきながら剣――カースブレードを振った。
「お前たちが殺そうと戦闘員を送った相手だよ」
フードを取る
「我が名は、アレス・ヴァンデ。王国に巣くうウジ虫の駆除にやってきた」
「ひっ!?」
「アレス・ヴァンデだと!?」
動揺する幹部たち。シャルク・パーバもまた息を呑んだ。
「こんな……。いきなり我々をスパイ扱いし、踏み込んでくるとは……! 我々、善良なる王国民に、このような非道な振る舞いをして――」
「臭い芝居はやめろ。わかっているんだよ、隣国のクズどもめ」
アレス・ヴァンデは剣で一人ずつ切り捨てる。
「真の王国民なら、大公を前に跪かないのはどういう了見だ?」
そしてシャルク・パーバの前にアレスは立った。
「ま、待ってくれ! 私を殺すのは――」
「人を殺そうと部下を送り込んでおいて、自分は命乞いか? 帝国民というのは、随分と往生際が悪いのだな。自分たちは他民族より優秀で、支配者階級だ――ではなかったのかね? 周囲の国の民にも劣る。卑しい民族の間違いではないか?」
「……っ!」
「安心しろ、ここでは殺さない」
アレス・ヴァンデはカースブレードで、シャルク・パーバを斬った。血もなく、体も切れず、シャルク・パーバは倒れた。
「ゴーストセイバー――ちょっとした呪いだ」
体から切り離されたように動けなくなる呪いである。
「お前たちは、民衆から搾取した分、彼らの怒りを全身に受けなければならない」
共有参加守護団本部は無力化、制圧した。
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