第59話、共有参加守護団という闇


 屋敷の中を適当にぶらついていたら、結構、敵に入り込まれていた。


「大公だ! その首もらうぅぅ!」


 どこぞの傭兵たちが武器を手に突っ込んでくるので、カースブレードを抜き、応戦。……その程度の腕で、我が防御を崩せると思っているのか?


 相手の斬撃を弾き、あるいは滑らせて、すかさず一閃。魔力を込めずにやれば、切れずに衝撃を食らうだけだが、今回は捕虜を取るつもりもないので、刃に魔力をガンガンに吸わせる。


 俺は自身の中の呪いのひとつ、魔力暴走を発動。さらに足元から魔力吸収の呪いを使い、大量の魔力を確保。潤沢な魔力を吸い取ろうとするカースブレードにそれらの魔力を注ぎ込み、敵を防具ごとバターのように切り裂いた。


 最初は威勢がよかった奴らだが、二人と三人と瞬く間にやられていくと、最後に残っていた者は完全に雰囲気に呑まれたようだった。

 それにしても、よくもまあ、これだけ人を集めたものだ。盗賊、傭兵、殺し屋。邪教教団ってのは、よほど俺を始末したいらしいな。


 屋敷を巡回。黒バケツが、倒した敵のそばに佇んでいるのを見かけた。お仕事、ご苦労。

 俺が裏口までいくと、正面に現れた武装員たちと同じ格好の集団がいた。


「アレス・ヴァンデ!」


 ふふん。俺はカースブレードを構えた。今日のこいつは、呪いの力で、血が欲しいってさ。

 向かってくる武装員たちを、一太刀で切り裂き、切り捨て、屍を築いていく。こいつらも向かっていく順に、どんどん倒れていくものだから、完全に後ろの奴らが怖じ気づいていた。


「魔法だ! 魔法を!」


 クロスボウで撃つ者、魔法の心得のある者が呪文を唱え出す。しかし無駄だ。俺は飛んできた矢を剣で打ち落とし、飛来した炎の矢――ファイアランスの魔法を剣に食わせた。


「ま、魔法が効かないだとぉ!?」

「攻撃魔法など、しょせん魔力の塊。この呪いの剣には餌のようなものだ」


 窒息の呪い。俺の飛ばした呪いを受けて、魔法を使った武装員が、首を押さえる。首を絞められているのは正解だが、手では振りほどけないぞ。

 その間にも武装員をカースブレードの餌食にしながら、クロスボウ武装員の眼前に辿り着く。


「ひえっ!?」

「遅い」


 カースブレードを、そいつの胸に突き立てて、心臓を穿つ。窒息の呪いを受けた武装員は酸欠で絶命していた。……これで全部かな?

 裏口から出てみれば――


「むっ!? アレス・ヴァンデか!?」


 まだ数人の武装員がいた。とりあえず、近くの奴が剣を構えようとしたので、問答無用斬り。


「呪い」


 残っている奴らには、煙のように吹き出した呪いを浴びせて、行動力を奪う。

 さすがに、これだけの数の同一装備の戦闘員を送ってきたのだ。どこの所属集団か、興味が湧いてきた。


 邪教教団モルファーではなさそうだが、それなりの規模はあるようだ。どこぞの貴族の私兵集団というのも充分にあるだろう。そしてそういうバックが大きい組織なら、その親玉がここに来ることはない。ということは、その親玉を何とかしないと、また襲撃されるかもしれないってことだ。

 そんなわけで――


「お前たちは、何者だ?」


 呪いに冒され、藻掻くように倒れている武装員たちに声を掛ける。


「わ、我々は、共有参加、守護団……だっ! くそっ、何をしたぁ」


 この中ではリーダーだろうか。年かさの武装員が苦しみながら憎悪のこもった声を出した。……案外あっさり喋るのだな。


「共有参加守護団? 何だそれは?」

「王国の資源の共有を推進、する組織に参加する者を……守護する集まり、だ……!」

「王国の資源を共有? 誰が? 誰と?」

「……」


 武装員は黙り込んだ。だんまりは通用しないよ。いつもの真実を吐き続ける呪いを付与する。


「王国の資源を、帝国と共有するよう工作する諜報員を守る団、だ。王国人め!」

「帝国の工作員か」


 なんてこった。俺の暗殺にガンティエ帝国の工作員まで参加しやがった。その工作員を守る部隊まで注ぎ込んできたということは、帝国的に俺の存在が邪魔だということだろう。忌々しい。


「そういうお前も帝国人だな?」

「そうだ」


 スパイ行為は重罪だ。こいつは王国法に照らし合わせても死刑だ。そしてこいつが所属する共有参加守護団なる、ふざけた組織も隣国諜報・工作機関ということだ。即刻、解体。所属員は全員、スパイ罪で極刑である。


「……まったく、どうしてこう、国の現状をマシにしようとしたら、こんなクソみたいな連中ばかり出てくるんだ?」

「貴様のせいだ、アレス・ヴァンデ」


 その武装員――いや、隣国工作員は言った。


「王国分断策を、ことごとく、阻み、やがって……っ!」


 王暗殺未遂、王族への呪い、脅迫、冒険者ギルドの腐敗と妨害、幸せの会などの慈善組織に見せかけた犯罪集団――これら全部に、隣国工作員が関わっていた。


「なるほどね」

「ぉぉおおおおおっ!」


 強めの呪いで負荷をかけて、隣国工作員が地面でバタバタと藻掻く。相当苦しいのか、胃の内容物を吐き出し、汚臭をばらまく。


「臭いな。臭いついでに、お前たちは共有参加守護団について、全部吐いてもらおうか」


 王国崩壊に向けて蠢いていたウジ虫ども。さすがに温和な俺もキレちまいそうだ。


 ザッ、と庭の草を踏みしめる音が聞こえた。

 殺意の塊が三つ、背後から迫る。俺が工作員を尋問している隙を狙った傭兵――いや殺し屋が。


 無駄なんだよな……!


 俺の背中から呪いの巨腕が突き出て、飛び込んできた奴――三人をそれぞれの腕が捕らえた。


「なにっ!?」

「馬鹿なっ!」


 まさか捕まるとは思っていなかったのだろう。俺はそいつらを見やる。お揃いの黒装束だが、共有参加守護団の連中ではないようだ。


「殺し屋か。俺は今機嫌が悪いんだ……。消えろ」


 呪いの手が三人を潰した。地面に血が滴るのもつかの間、呪いの腕と共に死体は飲み込まれ、俺の陰に消える。


「さて、続きといこう。お前たちの組織について話してくれ。……始末するのはその後にしてやる」

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