第42話、ミニムムの悪行


 バルトン・ハットは、呪いによって真実を語った。

 ミニムムは、身寄りのない子供を救済するという面目で活動し、幸せの会と繋がっていた。


 幸せの会が、少女を保護する一方、ミニムムは少年を収容し、犯罪行為を実行させるか、もしくは実験素材として売り払った。


 特に幸せの会の募金活動に難色を示した者や、会にとって邪魔になる存在に対する制裁を、ミニムムは担当した。


 嫌がらせ行為や、時にゴロツキに見せかけて襲撃させることで、被害者を幸せの会への寄付へ強要させる。敵に対しては暴漢に見せかけて始末し、子供がいれば誘拐する。そして幸せの会とミニムムに保護という名の収容をする。


 子供はある程度まで育つと、ミニムムの流儀に染まった者は残り、それ以外は、とある組織に格安で売り払う。……その組織が邪教教団モルファーや非合法な魔術結社であると聞き、俺のはらわたはさらに煮えくり返った。


 少年たちへの虐待は、毎日であり、生活環境は劣悪なる地下。粗末でわずかな量しか食事は与えず、常に飢えと渇きでやせ細っていた。


 また時々、呪われた道具――呪具の試験対象とされ、呪いをもらったり殺されたりしたという。


 子供たちは、ミニムムの大人たちの暴力に逆らえず、仕事中に逃げても執拗に追い詰め、捕まえられる。そして見せしめの罰により、最悪死亡。その無残な光景は少年たちから逃げる気力を奪った。


 実際、拠点の地下には、バップ少年らと同様に収容されていた少年たちを発見した。そして、コド少年に呪いを施したという呪いの杖を回収した。

 俺は、ハットと彼の部下たちから、真実を語らせて、その罪状を全て聞いた。


「よくもこんな地獄を作ったものだ、バルトン・ハット!」


 どうしてくれようか。身寄りのない子供に手を差し伸べるという尊い行為は、ただのポーズであり、実際は子供を虐げ、さらにその犠牲者を量産している。自分たちの金儲けのためならば、他がどうなろうと構わないと考えるクズの極みである。


「貴様の罪は、ヴァルム王に報告する。伯爵家は取り潰し、財産没収。お前の部下たちも全員処罰――これは避けられんな」

「嫌だー! お、おれはー、こんなの嫌だー!」


 真実を語る呪いの影響で、みっともない本音を漏らすハット。俺は呪いの杖で、伯爵を殴った。


「うげっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いぃぃ!」

「黙れ! お前が少年たちにしてきた苦痛は、こんなものではないぞ!」

「ガキのことなど知らぬぅ! おれは、おれのことだけが一番なんだぁーっ!」

「クズめ!」

「うああああぁぁぁ!」


 大の大人が床にへばりつき、号泣している。……ちっとも同情する気にならんな。


「こいつには残酷な処刑がお似合いだ。だが一回の苦痛で終わりでは、これまで苦しめられた少年たちの怒りと無念は晴れないだろう。喜べ、ハット。何度でも殺してやる」


 俺は、黒バケツ隊員たちにハットと部下たちを拘束させる。そしてこの罪人どもに、苦痛の呪いを施すと、地下にあった反省部屋という独房にまとめて放り込ませた。


「ソルラ」

「はい、アレス」


 神殿騎士は、やや血の気が失せたような顔色だったが、背筋を伸ばして俺の命令を待つ姿勢をとった。直属の部下ではないのだが。


「大丈夫か? 愉快な光景ではなかっただろう」

「はい。ですが、それよりもハット伯爵とミニムムへの怒りでどうにかなってしまいそうです」


 ハットのあれだけ無様な光景とどうしようもない本音、そして少年たちの悲痛な姿を見れば、頭の中まで煮えたぎっているだろうな。少なくとも、萎えてはいないようだ。


 俺は紙を取ると、近くにあった羽ペンを取り、書を認める。……伯爵はいい紙とペンを使っているな。


「黒バケツ隊と共に、少年たちをユニヴェル教会に保護してもらえ。この書状をガルフォード大司教に。子供たちの今後については、ヴァルムとも相談するが、とりあえずは教会だ」

「承知しました」


 大司教宛ての手紙を、ソルラに渡す。俺は二通目の手紙を書く。


「こっちは、王城にいるヴァルム王に渡してくれ。ここに閉じ込めているハットとその一味の身柄を王国軍に回収させる。奴らの処遇については、王と一度相談だな。飛び切りキツイのを考えよう」

「わかりました。……それで、アレスは?」

「俺はこれから黒バケツ隊と共に、幸せの会管轄の孤児院に乗り込む」


 ミニムムを通して、あの詐欺師どもの化けの皮は剥がれているからね。


「コド少年のお姉さんのこともある。早く助けにいかないとな」


 そして悪党には制裁を。

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