第37話、選抜課題?
俺のダンジョン攻略に同行したい、と志願する冒険者が大勢いるという。
ギルマス代理であるボングの言葉を受けても、俺にはピンとこなかった。
「どういうことなんだ?」
「大公閣下の人望というやつではないでしょうか」
本気で言ってる?
「こんな悪魔級の呪いを抱えた、五十年前の遺物で、しかも普段なら敬遠したい大貴族。どう考えても、関わったら面倒にしかならない人間だろうに」
その冒険に志願しようというのは、どんな物好きなんだ?
「大公閣下は、五十年の英雄で、ヴァンデ王国の希望なのです。ギルドにはびこった不正、冒険者たちも薄々感じていた圧迫感を、颯爽と解決してくださった!」
……俺は、なんでああなる前に処理できなかったんだって思うけどね。歴代のギルマスたち――どこから不正が蔓延るようになったかはわからないが、結構根深いのは知っている。
「呪いを抱えていると言いますが、呪いで絶望していた者たちを閣下はお救いした!」
ハンデを抱えていた者たち、差別されていた者たちを、正常な状態に戻した。たっぷりお礼を言われたから、気持ちはわかる。
「大貴族とおっしゃいますが、閣下は民に対しても公平で、慈悲深きお方です。このように民を見下さない貴族の方というのは、そうそういらっしゃらない」
何気に貴族をディスってるよね、ボング君?
「まさに民が憧れた英雄王子アレス様、そのものが目の前にいるのです。そして伝説は誇張ではなく、事実だった。そうとなれば、志も誉れもある英雄とお供したいと考える者が出るのは当たり前です」
そういうものかね。俺は半信半疑だ。王族や貴族を前に、ご機嫌とりや調子のいい言葉が並ぶのは日常茶飯事だから、いまいち信用できないんだ。本音で言っているのか、単なるおべっかなのかって。
「どう思う?」
試しに、ソルラを見れば、彼女はコクコクと頷いた。
「まさに、ギルドマスターの仰る通りかと」
君もそれで俺に同行したがったと解釈してよいな? なるほどね、うん。わかりやすい。
ボングは真顔で言う。
「先ほど、不届き者であるフェロの始末を、一ランクの降格処分で手打ちにした。これもまた、閣下の器の大きさを冒険者たちが目の当たりにすることになりました」
……俺って、器そんなに大きくないよ? むしろ、割と短気かもしれない。
「目撃していた者からすれば、フェロは終わったと思ったでしょう。大公閣下に水をかけるなど、最悪処刑も考えられましたから」
世間的には、まあそうかも、とあの時は俺も思った。
「降格だけとは、やはり寛大な処置だと思いました。てっきり冒険者資格の剥奪、追放されるかと」
「言われてみれば、そうかもな」
「しかし世間的には、水をかけた、かけられたくらいで処刑ということはないもので、そうなるだろうなとは思っても、貴族の下す罰は重いというのが見方です。ですが、大公閣下は民たちと同じ目線で考えていらっしゃる」
もう殴ってお返しした後だからな。それがなかったら、どうだろうね。フェロはもっと酷い報復を受けていたかも。俺はギルマス代理が言うほど、寛大でもないから。
「二度はないと言ってある。それに細事にかかわっているほど暇でもない」
俺は冒険者票を首にかけて鎧の内側へしまう。
「どれ、俺に同行したいという志願者は集められるか?」
「全員ではありませんが、おそらくギルドフロアにいると思いますよ。閣下が登録を済ませるのを待っているかと」
そりゃ志願したいってことなら、このフロアで待っているのが確実か。
「よし、では皆に話をしよう」
「選ばれるのですか?」
ボングは、期待するような目を向けてきた。
「いや、俺なりにテストというか、課題を出させてもらう」
何せ、今の冒険者ランクってのが、前任者ら不正をやらかした者たちが関わっているから信用できないんだよな。不正加担で上がった奴もいるだろうし、実力はあっても冷遇された結果、下級ランクの者もいるかもしれない。
つまり、ランクの高い奴から選ぶってことが、できないわけだ。
・ ・ ・
ギルマス代理の言う通り、俺たちがフロアに戻ると、冒険者が大勢待ち構えていた。ざっと三十人くらい。カウンターに並んでいるわけでもないから、全部、俺待ちか。
ボングが一同を見回した。
「アレス大公閣下は、冒険者登録された! で、ここにいる諸君らは、閣下のお供をしたいと集まった――ということでいいな?」
「もちろん!」
「閣下! お供させてください!」
「必ずお守りいたします!」
熱狂的な冒険者たち。俺に呪いを取り除いてもらった者たちも多い。一種の恩返しのつもりかもしれない。
心意気は買うが、魔の塔ダンジョンの完全踏破を目指すわけだ。実力を伴わない者を連れて行くわけにもいかない。足を引っ張られても困る。しかしかといって、誰がそうなのか、そうでないのかを見ただけで完全把握することはできない。
俺が手を挙げると、冒険者たちは、発言するのを遮らないように口を閉じた。こういう素直なところはいいね。
「皆の気持ちはとてもありがたい。ヴァンデ王国のため、魔の塔ダンジョンに挑むという心意気、王族に連なる者として鼻が高い」
期待の眼差しが集中する。うーん、これはこれで何とも複雑な心境。
「だが私もこれから魔の塔ダンジョンに挑むわけだが、皆と違って一階からのスタートとなる。私より進んでいる皆に足踏みを強いるのも心苦しい。そこで――」
俺は視線を一度、ボングへと向けた。
「魔の塔ダンジョンは何階まで進んでいる?」
「四十五階です」
「結構――皆、四十五階で待ち合わせしよう。一番奥まで向かうのだから、そこまで辿り着いてもらわないと困る」
冒険者たちが、しんとなった。ここにいる者の中で、そこまで行ける実力者が何人いるのか? おそらくほとんどがそこまで辿り着けていないのだろう。
「私も悪魔退治の時の勘を取り戻すために、ダンジョンを行くが、すぐに追いつくつもりだ。まだ四十五階に辿り着けていない者たちも、無茶をしない範囲でそれぞれ努力し、勝ち進んでもらいたい」
「……」
「そして四十五階で合流した強者たちと共に、未知の領域を共に攻略するのを楽しみにしている」
以上。
冒険者たちは神妙な表情をしている。端的に言えば、現時点での同行希望を断った形だ。だが将来的には、約束の階で合流した者たちと一緒に戦おうとは言っている。
俺と同行するには、実力がないと駄目だよ、という意味であり、しかし俺自身が君たちは駄目と言ったわけでもない。彼らが頑張り、四十五階まで踏破していれば一緒に戦えるよ、ということだから、成否は自分自身次第となるのだ。
ランクが信用できないなら、実力で四十五階まで来られた奴を採用する。その時点で、実力は本物なわけだから、不正昇格の外れを加えることもなくなる。ある意味見極める試験でもあるわけだ。
「さあ、皆。頑張ってダンジョンを攻略しよう!」
俺は、にこやかに集まった一同に告げた。
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