第36話、冒険者たちの評価
冒険者ギルドフロアで、ちょっとした乱闘騒ぎになった。まあ、当事者の片方は俺なんだけど。
不敬にも俺に絡んだために制裁パンチを食らうことになった青年冒険者。冒険者同士の喧嘩は御法度だが、あいにくと俺はまだ冒険者ではなくてね。
王族に喧嘩を売った馬鹿を修正していたら、青年の仲間の冒険者たちが青年を助けようと俺に向かってきて――その前に周りから一斉に駆けつけた冒険者たちに取り押さえられた。
ギルマス代理のボングもすっ飛んできて、大声を出した。
「お前ら、やめやめっ! 大公閣下に手を挙げるとは何事だっ!」
それを聞いて、青年冒険者の仲間たちは、取り押さえられていたこともありピタリと動きが止まった。そして肝心の青年は……いや青年を俺は殴る。殴る。殴る。
「あ、あの、大公閣下。もう、そのくらいにして――」
ボングは、やんわり宥めようとするが。
「いや、俺に宣戦布告したこいつは、まだ降参していないからな。やめるわけにはいかん」
殴る――
「いや、それは……たぶん気を失っているかと……」
「……そうか」
俺は青年を放してやった。確かに気絶しているな。
「どういう手合いだ? 新手の刺客か?」
「あー、えーと、こいつは冒険者パーティー『グラージュ』のリーダー、フェロ。まあ、馬鹿です」
「なるほど、馬鹿か」
場所を変えて、事情聴取。俺はフロア内の席に座る。隣に座ったソルラが、俺の顔などについた水をハンカチで拭っている。わざわざどうも。
冒険者パーティー『グラージュ』は五人組だが、そろって正座させられていた。ギルマス代理のボングや他の冒険者たちが、五人を取り囲み、殺気込みの視線を浴びせている。
「――要約すると」
ボングは口をへの字に曲げた。
「大公閣下が、美しいお嬢さんとお話していたのが癪に障り、ついカッとなって水をかけたと?」
「……」
「馬鹿か」
「馬鹿だな」
「ふざけんなよ、このガキ――」
「大公閣下になんてことを――」
冒険者たちが同僚を庇うこともなく、非難の大合唱である。それだけフェロの行動は軽挙で、擁護のしようのないつまらない振る舞いだったのだ。
久しぶりに来たというフェロは知らなかったが、他の冒険者たちには、俺が大公であり、ここで解呪をしていたのを知っている。俺が呪いを解除できる力を持っているから、呪いと隣り合わせの冒険者からすれば、絶対に嫌われてはいけない相手とわかっているのだ。
ボングは俺に向き直った。
「大公閣下、この度は王都冒険者ギルドの冒険者が大変失礼を致しました。ギルドからも謝罪させていただきます」
「いや、悪いのはこのフェロという男だ。謝罪はこいつ以外は不要だ」
「申し訳、ありませんでした」
フェロはその場に深々と頭を下げた。ボングは言った。
「処分は如何いたしますか? 閣下はまだ冒険者でございませんから、今回の沙汰は、大公であらせられる閣下が如何様にも」
不敬罪を理由に、水をぶっかけた右腕を切り落とすことも、あるいは打ち首にすることも俺の裁量で決めていいということだ。
それを察したか、フェロはガタガタと震えだした。
ふむ、貴族に手を出したら、普通は人生終了だ。俺ほどの寛大な者ならともかく、普通だったら最悪、命はない。が、俺も散々殴ったしな。
とはいえ、それで済ませては、貴族が安く見られるというね。面倒くさい。
「処分は免れない。ワンランク降格。次はない」
周囲が微妙にざわついた。冒険者が頑張ってランクを上げたものを、水の一欠片、貴族のひと声で降格は、少々重かったかな?
「格別に寛大なご処分です」
ボングは改めて頭を下げた。……軽かったらしい。
「まあ、直接殴ったしな。溜飲は下がったよ」
行ってよし、と言うと、フェロたちは立ち上がり、しかし周りの冒険者に連行されるように連れ出された。先輩冒険者たちのお説教タイムかな。
「大公閣下、改めて実に申し訳ありませんでした」
「お前が謝ることではないよ」
「ギルドの監督責任というものがありますから」
「ギルマス代理を首になりたいって言うなら、期待するだけ無駄だ。ちゃんと後任を選んでから辞めなさい」
俺が言えば、ボングは苦笑した。
「そんなことより、冒険者登録させてくれ」
「失礼しました。それでは、こちらへどうぞ」
俺とソルラは、受付カウンター……を通り過ぎて、ギルマスの執務室へ。冒険者登録は、ボング自ら対応した。
「ギルマスから直接冒険者登録を受けた人間っているのかな?」
「私の知る限りはないですが、もしかしたらいたかもしれません」
「特別扱い」
「大公閣下の登録ですから。こちらとしても当然の対応です」
かくて、俺は冒険者票を手に入れた。本人証明のため、俺の血を一滴垂らすという、魔術要素もあったけど。ギルマス代理曰く、これも魔道具の仲間らしい。
同行することが決まっているソルラも、神殿騎士ではあるが、冒険者登録をやってもらう。
ボングは票の説明をした。冒険者票は、冒険者の証明書であるが、魔の塔ダンジョン限定機能として、各階にある端末と接触させることで、そこへの転移を自由に行えるらしい。ただ、それが使えるのは冒険者票に血の登録をした者だけらしい。だから他人の冒険者票で転移しようなどというズルは使えない。
一からコツコツと、一度は階を制さないといけない。だが二度目以降は、突破している分だけスキップできますよ、ということだ。
「不思議な機能だな」
「魔の塔ダンジョンは、邪教教団が作った代物らしいですからね。連中も塔ダンジョンに入る時に、転移証を使っているらしいのですが、昔、とある冒険者が、その転移証を回収したそうなんですよ」
ボングは言った。
「で、一人だけ転移しても危ないっていうんで、仲間たちの分もできないかと、ギルドお抱えの魔道具職人に解析してもらって、何とか初期状態の機能を再現することができるようになったそうです。残念ながら、それ以上はできませんでしたがね」
それが今の王都冒険者票にも投入されたと。想像したのと、結構合っていたかな。
「ま、一度登録した場所へは転移できるのだ。ありがたく使わせてもらうさ」
何せ、王都の魔の塔ダンジョンは攻略されていない。最終的に何階あるのかわからないのだから。まともに攻略するなら、何日必要になるかわからない場所だ。物資補給に戻ってから、進んだところから再スタートできるのはありがたい。
「それで、大公閣下。ダンジョン攻略にあたり、ご相談したいことがありまして」
ボングはどこか言いづらそうな顔になった。俺が行くなら同行者を、ってやつか?
「何だ?」
「大公閣下にお供したいという冒険者の希望者が殺到しておりまして……」
「は?」
希望者が、殺到だと?
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