第31話、不正冒険者たちの罪


 グローというイキり坊やが先例を示してくれた影響で、他の囚われ冒険者やギルドスタッフの、俺を見る目に変化があった。


 触らずして呪いを発症したグロー。そして聞こえただろう、貴族――大公という身分。自分たちが何故牢屋に入れられたかわからず不満タラタラだった者たちも、これはただ事ではないと自覚させられたのだ。

 凄んだり、ゴネた態度を取っても解決しないことを、見せつけられたわけだ。


「ロイル君」

「はい、大公閣下!」


 すっかりビビってしまったようで、酷く緊張してしまっているギルドスタッフに、俺は笑顔を向けた。


「証言の名前と本人の確認、そして刑について決めようじゃないか」

「は、はい!」


 悠長に裁判する気はない。これについては、王国最高指導者である我が弟、ヴァルム王の許可をもらっている。


 鉄格子の向こうで不安がる者たち。そんな中、ひとりの騎士装備の冒険者が進み出た。


「申し訳ありません、大公閣下! 発言をよろしいでしょうか?」

「……許す。名前は?」


 つまりお前から審判されたいわけか。という俺の思いをよそに、その騎士冒険者は膝をついて臣下の礼をとる。


「ハメルン・ラーガスト。ラーガスト子爵家の次男にございます!」


 ラーガスト……知らんな。冒険者といえば粗野な印象だが、このハメルンなる男、さぞ女性にモテそうな顔をしている。


「私が、牢に放り込まれた理由がわかりません。見れば、同様の冒険者たちも多いようで……。これは一体どういうことなのでしょうか?」

「あぁ、そういえば説明していなかったか」


 こいつらがギルドに現れたところを、黒バケツ隊が問答無用で取り押さえて、牢にぶち込んだという話だったからな。

 理由を知らぬのも道理。


「実に嘆かわしいことに、この王都冒険者ギルドにおいて、幾つもの犯罪行為が確認された。自ら不正にかかわり、また隣国のスパイ活動に協力したギルドマスターのホスキンは逮捕され、犯罪行為に加担ないし、それらが確認された者をここに拘束したわけだ。……どうだ、お前たち。そう言われれば心当たりがあるだろう?」


 ――いや、そんな……!

 ――ギルマスが不正? 私は知らない!

 ――何かの間違いじゃないか……!


 牢屋にいる者たちがざわめく。早速、犯罪行為の否定を口走り、自分がここにいるのは間違いアピールを始める。


「誰が発言を許可した?」


 俺が地下室に響く声を出せば、パタリと雑音は収まった。そうそう、大公の許可なく発言できる身分なのかね、お前たちは。


「恐れながら、閣下!」


 ハメルンが頭を下げたまま言った。こいつの発言許可はまだ生きている。


「私は、不正になど関与しておりません!」

「はい、ここで否定することは、私に虚偽を言っていることになる。……大公を騙そうとするとは、そんなに断頭台がお望みか?」

「っ!?」


 ハメルンが詰まった。他の者たちも凍ったように固まる。貴族というのは理不尽なものだ。権力を嵩にかけ、相手の言葉を遮り、意見をねじ曲げる。


「ロイル君、ハメルン・ラーガストの罪状を?」

「はい! えーと……他のダンジョン攻略冒険者に対する暴行殺人が証言により2件が確定」

「女冒険者をダンジョンで暴行して口封じに殺した、か」


 何とまあ、イケメンだからと許される行為ではないぞ。


「まだ他にも余罪の可能性あり。ギルマスの依頼を受けて、やはり他の攻略パーティーに対する妨害、ダンジョン内殺人を行い、報酬を受け取っていました」

「違う! 私はそんなことをしていない!」


 ハメルンが声を荒らげたが……。お前は人の話を聞いていないのだな。


「おかしいな。ダンジョン攻略をするのがお前たち冒険者の仕事なのに、真面目に攻略している冒険者が妨害されたり殺されたり。これは明らかに国家の意思の妨害。反逆行為だな。……これは私でなくても、王国軍が逮捕、斬首まで持っていくレベルの事件だ」


 国家反逆罪は極刑である。


「証拠は!? 証拠はないじゃないか!」

「見苦しいぞ、反逆者」


 俺は敢えて冷たく言い放った。


「ホスキンが証言しているんだよ。他にも先に処分した冒険者からもな。……それともお前は、ギルマスの依頼に対して、嘘の証言をして報酬をもらっていたのか?」

「うっ……。ええ、ええそうですとも! いくらギルマスの依頼とはいえ、仲間の冒険者を殺せるわけないじゃないですか……!」

「ほう、つまり、ギルマスに嘘をついて、不正に報酬を受けていたのか?」

「あ、う……」


 ハメルンは詰まった。不正という言葉に戸惑ったか。ここは敢えて、嘘をついても冒険者を殺したフリをしました、と言うのが最善だったと思うが、まあ、口から出任せでこの場を凌ごうとした程度の頭では、所詮はそれまでよ。


「実際、お前は殺した証拠にその冒険者のランク証と遺品、あと体の部位を切り取って提出したそうじゃないか。もし見逃した、まだ生きているというなら、その冒険者がどこにいるのかぜひ教えてもらいたいものだ」

「……」


 ぐうの音も出ないのか、唇を噛みしめてハメルンは俯いている。まあ、そうだろう。口から出任せだ。証明する手はないし、下手に口を開けばさらに潰されると感じたのだろう。


「他に、何か言うことはあるか? さらに罰を重くする証言はあるかね?」

「……」

「結構。私は、きちんとお前たちの罪を把握した上で、刑を執行する。ただの気まぐれや、でっち上げで人を貶めることはしない」


 そんなわけで、この暴行殺人嘘つき野郎には、厳罰を与える。おめでとう――


「お前も黒バケツ隊で強制入隊だ。我が手足となって死ぬまで働け」

「……!」


 ハメルンは顔を上げた。


「死刑じゃない……?」

「処刑がお望みだったか?」

「い、いえ! か、寛大なるご処置、感謝の極みにございます! 粉骨砕身、大公閣下のために働く所存です!」


 ……お前は何か勘違いしていないか? 死ぬより生き地獄を希望するとは。頭の中が空っぽなのか? それとも究極の変態なのか?


 真に理解しているのであれば、死んだほうがマシなのだが。まあいい、そうやって感謝していられるのも今だけだ。

 黒バケツ隊に入って死ぬまで後悔するがいい。簡単に死ねるとは思うなよ。


「じゃあ、次だ、ロイル君」


 まだまだ牢屋には、裁くべき罪人がいるのでな。俺とロイル君で、冒険者ないしギルドスタッフひとりずつ、罪状の確認をしていく。


 ハメルンとのやりとりを見ていたか、罪の重い者ほど、謝罪と共に黒バケツ隊への入隊を希望した。黒バケツ隊を大公の私兵部隊か何かと勘違いしたのかね……? いや、絶対にこいつら勘違いしているだろう。


 俺は内容を言わなかったが、まあ自分から地獄行きを志願するなら、極力希望に沿ってあげよう。俺は自主性を尊重したいからね。


 だが、黒バケツ隊に放り込むに明らかに釣り合わない罪のやつは、犯罪奴隷にして、王都の奴隷商人に売って、ギルドの活動資金の足しにする。


 犯罪奴隷にするまでもない軽めの罪の者は、損害ないし不正取得した金額分のお金を罰金として徴収とする。払えないなら労働奴隷として、清算するまで強制労働だ。


 こうして、俺は、ギルド内の不正と、どうしようもないゴミの処理を遂行したのだった。

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