第30話、イキり散らすとロクなことはない
今さらかもしれないが、正式にヴァンデ王国に復帰した俺は、大公の爵位をもらった。
以前は王太子、ただし悪魔討伐を決意した時点で、王位継承権を放棄したので、王子となった。
それで五十年経ったけど、今じゃ王太子がいて、その息子も王子だからな。大公を賜ったことで、俺も自分がどの位置にいるのか、はっきりして落ち着いた。
階級としてみるなら王族と貴族の間。つまり、この国の貴族は、身分としては全員もれなく俺の下ということになる。
アレス・ディロ・ヴァンデ大公……。悪くない。
なお、まだ領地はない。我が親愛なる弟はどこがいいだろうか、と言ってきたが、俺のほうで当面は保留にしてもらった。
何故なら、もらった領地の掌握に時間を取られてしまうからだ。それよりも先にやらねばならないことがある。
それが、邪神復活という爆弾である魔の塔ダンジョンの処理だ。こいつを放置して王都を離れるわけにはいかんよ。
俺のいない五十年の間に、王族の権威は落ち、隣国の干渉の結果、色々上手く回らなくなっている。
故に、まずは汚染された悪い血を抜き、新しい血に入れ替えなくてはいけない。国を正しい方向に導く。その障害を排除するのが俺の当面の仕事だ。
レーム大臣と繋がっていた連中の調査は、弟と王国に任せつつ、必要があればそちらにも介入する。
と、いうことで魔の塔ダンジョン攻略の最先鋒である冒険者ギルドを正常化させるわけだが……。
俺はギルド本部にやってきた。
「冒険者ギルドの地下には、牢屋があるんだな」
「用途はあるんです」
そう答えたのは、ロイルという名のギルドスタッフ。眼鏡をかけたこの素朴そうな青年は、ギルド建物の地下にある牢屋の並ぶ一角に俺を案内した。
「王国に引き渡す犯罪者や、ギルドのルールを著しく違反した冒険者、あと時々、捕獲した貴重な魔獣が入ることもあります」
「魔獣なんか王都に入れるのか?」
「魔の塔ダンジョンは王都にありますからね」
「すまん。今のは愚問だったな」
つい王都の外の話だと思ったが、そういえばこの王都内にあるんだった。ダンジョンが。
「お気になさらずに、大公閣下」
このロイルは、ギルマスや不正を働いていたスタッフたちの証言で、まったく悪事が浮かんでこなかった数少ない人物の一人である。
「しかし、まさか同僚を閉じ込めることになるとは……」
眼鏡のブリッジを上げるロイル。フロアに入ると、途端に鉄格子に何人かの人間が取り付いた。
「おい、ロイル! これはどういうことだ!?」
「ロイルさん、出してください!」
「おいギルドスタッフ、ここから出しやがれ!」
ギルドスタッフ、そして冒険者らが口々に叫ぶ。男も女もいるが、まあ冒険者たちのガラの悪いこと。人は見た目ではないと言う人もいるが、これを見ると外見もかなり影響ありそうだ。
「ロイル君、これで全部かね?」
「とりあえず、リストにあってギルドに顔を見せた者は全員ですね」
「来ていない者もいるのか」
「冒険者は、毎日ギルドに来るわけじゃありませんからね」
俺とロイル君が見つめる先にいる囚人たちは、ホスキンや先に逮捕した者たちから、不正に加担したと証言が取れた者たちだ。俺の呪いによって引き出した自白だから、解釈の仕方次第で変わる事柄を除けば、間違いなく正しい証言が取れる。
何せ『嘘がつけなくなる呪い』『本当のことを喋る呪い』『秘密を喋りたくなる呪い』など、混ぜ混ぜにして与えたからね。
そうして得た情報から、リストが作られ、不正な者たちの逮捕を行ったのである。ギルドにやってきたリスト入りスタッフ、冒険者を、『黒バケツ隊』が問答無用で捕まえていったのである。
「なんだぁ、そこの呪い持ちはぁ!?」
とりわけガラの悪いチンピラみたいな冒険者が、俺に絡んできた。
「見世物じゃねえぞ、ゴミがっ! 呪い野郎!」
その発言に、ロイル君が怯えたように俺を見ている。……うん、わかってる。このチンピラは、俺に対する誹謗中傷のお言葉をお吐きになられたのだ。
天下のお貴族様と知らないのだろうが、もうね、大公にそんなことを言えば、当然打ち首である。ロイル君がビビるのも無理はない。
「ロイル君?」
「ひ、ひゃい、大公閣下!」
「この野蛮そうな山猿の名前は?」
「グローです! し、Cランク冒険者で……」
「ああ、恐喝屋か」
リストにあった名前を思い出した。要するに恐喝、荒事が日常茶飯事の冒険者であり、スラムにも出入りして小遣い稼ぎしていた悪党だ。そんな奴が何故、クビにもならずにギルドにいれたかと言えば、ギルマスと通じていたからだ。
ホスキンは、表に出せない裏の取り立てにこのグローなどを使い、そこで報酬を渡していた。……冒険者支援の金が、こんな恐喝屋の酒代に消えたとか、アホらしくてかなわない。
「うっせぇぞ、ボォケ! シねよ!」
グローが鉄格子の向こうでイキってる。いちいち威圧しないと生きていけない小動物だ。精一杯悪そうスタイルを作って、弱そうな奴にはイキり倒すスタイルだ。
「うーん、親近感がわくねぇ」
「大公閣下?」
「貴族ってやつは、大抵プライドのためにイキり倒すのが仕事だからね」
俺は、グローをニヤニヤしながら見る。何もしらない彼は指を立ててきたので、呪い発動。突然、全身に呪いのオーラが発動し、グローは慌てる。
「なっ!? なんだなんだ!?」
「『なんだ、そこの呪い持ちは?』」
俺は棒読みのように感情を込めずに言った。
「『見世物じゃねえぞ、このゴミが。呪い野郎』だったかな。それ今の自分の姿を鏡で見て、もう一回言ってくれる? 呪い野郎」
「ひっ……ひぃぃっ!」
「せっかくお前のレベルに合わせてやったのに。呪い程度で、この体たらくか。俺の抱える数千の呪いのわずか一つを食らった程度で、このザマとか恥ずかしいとは思わないのか?」
「た、助けてくれぇ! 熱いぃぃっ!」
発熱化の呪いだ。体が焼かれるように痛いだろう? そのまま殺すタイプの呪いもあるが、俺が授けたのは、威力を押さえて犠牲者を殺さず、延々と焼き続けるタイプの『弱い』やつだ。
同じ牢にいる者たちが、グローから距離を取っている。突然発生した呪いに、皆言葉を失っている。
「グロー君。好きな方を選びたまえ。大公に対して暴言を吐いた不敬罪だ。貴族を罵倒した責任を取り、打ち首を願うか。そのまま永遠に呪いの炎で焼かれ続けるか。はたまた、我が奴隷として『死ぬ』まで仕えるか」
「ああ、も、申し訳ありませんでした! たたた、助けてください!」
グローが鉄格子にしがみつき、呪いに悲鳴を上げる。
「知ったことか。私の話を聞いていなかったのかね?」
「たた、助けてくださいっ。ほ、本当にし、知らなかったです! あなた様が貴族だなんてぇーっ!」
そうじゃないんだよな。
「謝罪を聞きたいんじゃないんだよ、しっかりしたまえグロー君。選択肢はくれてやった。どれを選ぶ?」
「あがががっ!! ど、奴隷になりますっ、なりますからお助けをぉぉ!」
「そうか。わかった」
馬鹿な奴だ。さっさと打ち首になっておけば楽だったものを。
「おめでとう、グロー君。今から君は、私の親衛隊である黒バケツ隊に入隊だ!」
……ホスキン先輩やブロック先輩同様、呪いの生き地獄の中、働いてねぇ?
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