第19話、発覚のきっかけ


 俺が保有する呪いによって、多重呪い持ちとなった王都冒険者ギルドのグライブ・ホスキンと、その協力者であるブフ・ブロック。

 王国を脅かした伝説の悪魔や、蓄積されて強化された呪いによって、二人は自由を失った。


 飲んだり食べたりしても、喉の癒しも得られず、腹も満たされない。眠ろうとすると体に痛みが走って眠れなくなる不眠の呪いもプレゼントした。


 そしてよく見られる身体能力ダウン系の呪いにより、力が弱くなり、足も遅くなり、魔法に対する効果もダウン。反転の呪いで治癒魔法を使われると、かえってダメージが行くようになった。……大丈夫、不死の呪いで、彼らは死なないから。死ぬようなダメージを受けても、即リセットして復活だ。


「呪いを固定したから、人に伝染すことも、呪い解きの術も効果がない」


 俺に呪いを突き刺した悪魔の呪いを、そんじょそこらの術者に解けるとは思わないことだ。

 そして、従属の呪いを授ける。これは、いわゆる奴隷の自由を奪う奴隷紋とほぼ効果が同じものだ。あの魔法も、元を辿れば呪術、呪いに行き着く。

 人の呪いを回収して、そういう呪いも操れるようになっているからね。


「お前たちには、これまで通り、冒険者ギルドで働いてもらう。お前たちが不正し、好き勝手やった分の罪を清算するまで、休むことも死ぬこともできない。わかったね、ホスキン君?」

「はい……」


 生気を失ったような目で頷くギルドマスター。すでに複数の呪いの効果で、その内面は複雑なものになっているだろう。これで休めば、もっとグチャグチャになるから、頑張ってくれたまえ。まあ、数日のうちにやつれ果て、別人のようになってしまうだろうがね。


「そんなわけで、まず最初の仕事だ。お前たちが行った不正行為とその協力者を全部明らかにしろ。あとギルドが把握している冒険者の犯罪行為もな」


 俺は紙を用意し、二人の前に置いた。


「書け」


 それだけで充分だった。従属の呪いによって、難儀そうな顔はしても反論もなく、二人は書き始めた。


 さてさて……。このギルドの犯した不正はどれほどのものか。そして不正を働いた者はどこまでいるのか? 最悪なのは、全体に蔓延していることだが、不正のレベルによって呪いの重さは変えてやろう。ただし、税金を無駄喰いし、民を巻き込んだ分は、きっちり払ってもらうがな。


 三十年も魔の塔ダンジョンは放置されてきた。良識ある者は、殺されるかギルドを離れた。正直、ホスキンだけでなく、その前任者たちもまた同様の罪を犯してきた可能性もある。


 罪が明らかになったら、現職でなくても罪に問う。俺は、はらわたが煮えくり返っているからね。


 きっかけは、リチャード・ジョーから、ギルドの不正疑惑の話を聞いた帰り、再び差し掛かった魔の塔ダンジョンで起きた出来事に遡る。

 例の俺たちより先を歩いて、ダンジョンに入っていた冒険者パーティーが、帰ってきたところを目撃したのだ。


 だがそこに、冒険者登録をギルドから断られ、しかし冒険者たちに声をかけてもらっていた少年戦士の姿はどこにもなかった。



  ・  ・  ・


「これはどういうことだ?」

「あ?」

「お前たちが連れていった少年はどうした?」


 魔の塔ダンジョンから出て来た冒険者パーティーは、首を傾げた。


「おいおい、いきなり何だよ? あ、おたく神殿騎士?」


 俺の後ろにいたソルラを見て、リーダーと思しき、冒険者は肩をすくめた。


「何の話かわかりませんなあ? 少年? 何のことです?」


 神殿騎士と思われたせいか、敬語っぽく話すが、明らかに小馬鹿にした態度だった。


「とぼけるな。俺たちは、お前たちが、ギルドから冒険者登録を断られた少年を連れて、ダンジョンに入るのを見ているのだぞ?」


 俺が言えば、ソルラも前に出た。


「神殿騎士の前で、嘘を言うつもりですか? 貴方方は!」

「いやぁ、そんなこと言われましてもねぇ。何のことかわかりませんな。変な言い掛かりはやめてくれませんかぁ?」

「言い掛かりですって?」

「証拠はあるんですかい? オレたちが、その少年? だかを連れていたっていう」

「俺たちが見ていた」

「他に誰か、見ましたかぁ? あんたたちが嘘を言って、オレらをはめようとしているんじゃないんですか?」

「何ですって!」


 ソルラが激怒した。俺はとっさに手を横に出して、彼女が冒険者の胸ぐらを掴まないように阻止する。リーダーは一歩引いた。


「おー、怖い。オレたちは嘘をついてないんですがねぇ。なあ、そうだろ皆?」


 ああ、そうだ、間違いない、と口々に仲間たちが頷く。一緒に行動していた連中の証言が、この場合ほどあてにならないものはないだろう。


「一体何をやっている?」


 ダンジョン前の監視をしている冒険者たちのリーダーらしい男が、揉め事を見てやってきた。冒険者パーティーのリーダーは、やってきた長身の戦士に説明しはじめた。するとその戦士は言った。


「完全に言い掛かりだな。俺たちはダンジョン前を見張っているが、こいつらが冒険者でない奴を連れてはいなかった」

「はあ?  嘘を言わないでください!」


 ソルラが声を荒らげた。騎士だけあって、結構沸点が低いのかな、この娘は。


「なるほどなるほど、揃いも揃って、知らないと言い張るわけだ。……あまり身分をひけらかしたくはないが、権力者を欺く行為がどれだけ罪深いか思い知るべきだな」


 俺の体から、黒い呪いのオーラが、嘘つき冒険者たちに伸びて取り付いた。


「うわ!?」

「何だこりゃ!?」

「呪いだっ! うわあぁっ!」


 黒い呪いの手で捕まり、冒険者たちが振り払おうとする。……馬鹿かな? 呪いがそんな簡単に振り払えるわけないだろう?


「いいかね、諸君。権力というのは理不尽なものだ。偉い人が、黒だと言ったら白と言ってはいけないのだ」


 喚き、恐怖に顔を歪める冒険者たち。


「偉い人が黒だと言っているのに、それは白ですよ、と嘘をついた道化師の末路は……わかるよな?」


 呪いに攻められ、のたうちながら、冒険者たちは、少年をダンジョンに連れ込んだことを自供した。


 ダンジョンで発見した装備に呪いがないか、その少年を実験台に使い、放置してきたとのことだった。かくて俺たちは、その少年戦士のもとへ救助へ趣き、呪い装備の実験台で転がっている彼を無事救助することができた。


 だが、冒険者パーティー――ラズーらは、自供の中でギルドスタッフの指示だと言った。それがスェレン・イリオスであり、ギルマスらの関与である。


 普通はこんな荒っぽいことはしないが、なにぶん今回、目撃したのが俺自身だからね。嘘をつかれてしまった以上、その無礼のお返しはさせてもらったよ。


 かくて、ソルラはユニヴェル教会本部に報告、部隊を連れて王都冒険者ギルドを強襲。イリオスの逮捕を進めながら、俺はさらにギルドの暗部を探り、鎮圧したのだった。

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