第18話、最悪な不死の呪い
「随分と座り心地がよい椅子だな」
俺はギルドマスターの席に座り、復活してかれこれ座った中で一番の感触に気分がよくなった。
一方で、本来の持ち主である冒険者ギルドのマスターであるホスキンと、その部下という扱いになる冒険者ブロックは、蹲っていた。二人からは、全身から呪いオーラが出ていて、見るからに具合が悪そうだった。
「一体、お前は何者だ……!?」
ホスキンが聞いてきた。呪われたことに憎悪を抱いている目だ。体もろくに動かないだろうに、よくもまあ、敵意を剥き出せるものだ。
「名乗るほどの者でもない、と言うわけでもないが、いいだろう。私の名前を教えてやろう。アレス・ディロ・ヴァンデだ」
「ヴァンデ……ヴァンデ王国の」
ホスキンが顔を歪める。ブロックは目を見開いた。
「アレスとは……まさか、英雄アレス」
「ほう、私を知っているか」
そんな歳ではなさそうだが。しかしブロックの横でホスキンが唸る。
「戯れ言を……。英雄アレスは、五十年前に死んだはずだ! こいつは、英雄の名を騙る偽物だ!」
「だから、あまり名乗りたくなかったんだ。……本物なんだよ?」
ちょっと拗ねてみたり。ホスキンは青筋を立てる。
「貴様ぁ、おちょくっているのかっ!」
「怒鳴らない。大声を出せば、誰かが来てくれると思っているのか?」
俺はギルマスの椅子を満喫する。
「残念ながら、助けは来ない。何故なら今頃、私の呪いで皆おねんねしているからな」
「の、呪い……?」
「お前たちの呪いや、私がどうやって入ったか、疑問に思わなかったのかね?」
俺は、様々な呪いを取り込み、それらを自由に引き出すことができるのだ。
「まさか、本物の英雄アレス?」
ブロックが呻く。
「だから、そう言っているだろうが」
「そんな馬鹿な! 英雄アレスはこの世にいない! オレが生まれる前にくたばった! 本物のはずがない!」
頑なに信じようとしないホスキン。ブロックは言う。
「ですが、じゃあ、この部屋にどうやって入ってきたんです? 窓はありますが、ここは三階。ギルド内には職員もいて、誰にも気づかれずにここに入るのは無理だ!」
ずいぶんとヒステリックな声をあげていらっしゃる。もう少し脅かしておくか。
「アストラルタッチという呪いを知っているかな?」
アンデッドのゴースト系――特に上位のウィザード・ゴースト、レイスなどが使う呪い系能力なんだがね。
「簡単に言えば、対象を霊体にする呪いだな。本来は上位ゴーストが、霊体にした敵の魂を捕食するために使う技なんだが……これを利用して、霊体となれば、ある程度の浮遊できるし、壁抜けなどの障害物のすり抜けができるようになるのだ」
ただ、太陽の日差しが強いところでは、若干不都合もあるが。
「霊……!? やっぱり英雄の幽霊!?」
ブロックは完全にビビっていた。ホスキンも理解したような顔をするが、それでも俺への敵意を隠そうとはしなかった。
「フン、その英雄の亡霊が、一体何の用で現れたのだ?」
「察しが悪いな。冒険者ギルドが健全な状態ではないようだからな。王族の端くれとして監査にきた」
俺は机の上の羽根筆を手に取る。
「王族だぁ? 貴様は五十年前に死んでいるだろうが!」
「世間ではそう言われているらしいが、私は別に死んでいないし、死んだつもりもなかったんだがね。一体どこの誰だ? 私を死んだことにした者は?」
英雄伝説の間違いを指摘され、ホスキンは押し黙る。彼の親やその世代の人から、子供に聞かせるお伽話の類いのように聞いてきたから、指摘されても答えようがない。
「無駄話が過ぎたな、ホスキン。お前は、王都冒険者ギルドのトップにありながら、若者を瞞し、王国自体を欺いてきた。そしてその裏で不当な利益を得ていた。これは許しがたい裏切りだ」
「……」
「しかも隣国のスパイまで入れていたのは。工作員と知って、かつ通報もせぬとは、王国人の義務も果たさなかった。とんでもない売国奴だ」
「ば、売国っ!?」
本人にはその自覚がなかったようで、ホスキンは途端に顔が真っ赤に染まった。体は逞しいが、一方でキレやすそうだ。
「王都冒険者ギルドには、魔の塔ダンジョンの攻略のための尖兵としての偵察、開拓も、王国からの仕事として請け負っていたはずだ」
普通のダンジョンならば、中の魔物が増えすぎないように間引きし、生かさず殺さず状態を維持して、長く冒険者としての利益を追求することが許される。
が、邪神復活に関係する魔の塔ダンジョンは別だ。これは国が何度も攻略しようとしたように、要攻略、制圧対象。多くの冒険者ギルドがするように、ダンジョンを生かしておく対象として見られていない。
つまり、完全攻略のために努力しなくてはならず、のんびりダラダラと三十年も生かしておくなど、本来なら処罰対象である。
「王国からは、攻略補助金がギルドに支給されていた。それは王国民が支払った税金だ。それを頂戴しながら、成果を上げられないだけでも本来なら懲戒ものなのだぞ、ホスキン」
「……っ」
「無能の上に、売国奴とは、救いようがないな」
ホスキンとブロックの顔が青ざめる。いや、ホスキンは俺の指摘にプッツンして殴りたいようで、ぷるぷると震えているが、そこは俺の拘束の呪いで動けない。
「民を食い物にしてきたのだ。その罪は許しがたい。すぐに王都広場で公開処刑にして、民の怨嗟で溺れ死にさせてやりたいが……あいにくと、私にその権限があるか不明瞭でね。一度、弟にお伺いを立てないといけない」
「……」
「だが、それは私が通報すれば、の話ではある。ただ首を吊すのでは、楽に殺してしまうだけではないかと思うのだ。それはあまりに手緩いのではないか?」
ブロックなどは気絶しそうな顔でガタガタと震えている。ホスキンも脂汗がひどい。
「死後、罪人は地獄に落ちて、そこで永遠の責め苦を受けるという。本当に死後の世界があるのかは疑問だが、そういう刑罰もよいのではないかと私は思うのだ」
俺は椅子から立ち上がると、二人の前に立った。
「煉獄は知っているかね? 罪を償うまで、地獄と同様の罰を受け続ける世界なのだが……お前たちには生き地獄を味わって、己の罪を償ってほしい」
俺から呪いをプレゼントしよう。
「お前たちに不死の呪いをくれてやる。お前たちが国を欺し、甘い汁を吸ってきた金額すべてを返金してもらう。不死の呪いが解ける条件は、損害分を補填、完済するまでだ。それまで様々な負の呪いに苛まれながら、働き続けろ」
空腹、痛み、身体能力ダウンと、決して解消されることない呪いに苛まれ、世間から呪い持ちとして差別され、そして不死で死ぬこともできずに、ブラック労働だけの人生を楽しみに生きろ。過労死などできると思うなよ?
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