第14話、そのギルドは健全ですか?
「訳がわかりません」
ソルラは、お冠だった。
「どうして、アレスの冒険者登録が認められなかったのか!?」
「まあ、落ち着けよ、ソルラ」
断られた俺より、彼女のほうがお怒りだ。荒事は避けて、ギルドの外に出た俺たち。
「何とも妙な話だと思う」
「私もそう思います」
「思うか、やっぱり」
俺が言えば、ソルラは頷いた。
「呪い持ちは禁止ではないはずなのに、禁止なんて突然言い出すなんて。正当な理由もなく、追い返すなど、まともな組織ではありません!」
「そう、まともな組織ではない」
俺は、王都冒険者ギルドの豪華な建物を見やる。デンとそびえ、そこらの建物より立派に見える。
武装した冒険者たちが行き来し、中には酒を飲んで自慢の戦果報告をしたり。
「神殿騎士の介入を、物凄く嫌っていた。公になったらヤバイ何かがあるんだろうな」
「え……?」
ソルラが首を傾げた。え? わかってなかった?
「神殿騎士にダンジョンに入られたら面倒になることが起こっているか、知られたらマズい何かをしているんだろう」
それで神殿騎士と関係ありそうな人間が入ってくるのを、弾いているのだ。呪い持ち云々は言い掛かりだ。
「健全な組織だと思っていたんだがな」
「ですね」
ソルラもギルドの建物を見つめる。彼女が神殿騎士の出で立ちだからか、通りかかる冒険者の何人かが珍しそうな顔をし、また何人かから警戒する目を向けてきた。
「ひょっとしたら、そうなのかな……?」
「何がです?」
「さっきの受付嬢の上司っぽい男さ。あれ隣国人なんだ」
「えっ……? ガンティエ帝国人ですか?」
ソルラは驚いている。人種的に見た目それほど差があるわけじゃないから、パッと見わからないだろうけどさ。
「あの気が立つと捲し立てるような口調になるのもガンティエ人の傾向ではあるが、同じ言葉を二度言うのも、彼らの言語的特徴でもあるんだ」
ほらほら、もしもし、は普通に言うこともあるが、去れ去れ、帰れ帰れとかを立て続けに言うのは、さすがにね。
「王都の冒険者ギルドにガンティエ人。いやまあ、そりゃ故あって隣国から流れてくる人もいるから一概には言えないが、神殿騎士を異様に避けるのは」
郷に入っては郷に従う、って言葉は東方の言葉だ。余所の地方にきた一般人なら、宗教的に嫌ってはいても、ああも露骨に反応すれば周りから白い目で見られ住み辛くなる。
だから、あそこまで神殿騎士お断りは、ただの宗教観だけでなく、別のものも含まれているのではないか。
「ガンティエ人は、ユニヴェル教会を敵視しています」
ソルラはきっぱりと告げた。
「もしや、帝国から送り込まれたスパイ!?」
「冒険者ギルドに入り込んで、魔の塔ダンジョン攻略の妨害をする――ヴァンデ王国と敵対的なガンティエ帝国なら、工作活動の一環で仕掛けてくる可能性はあるな」
ダンジョン情報が外に漏れるのを嫌がるのも、ただ冒険者という職業を守るってだけでは片付かない。
邪教教団の仕掛けた魔の塔ダンジョンだが、それが自分の隣の国にあって、自然に弱体化するっていうなら、国崩しに利用しない手もないもんな。……邪神が復活したら、ヴァンデ王国だけでなく、ガンティエ帝国も危ないと思うのだが、あいつらわかってるのかね?
それはともかく、三十年経っても、魔の塔ダンジョンが攻略されていないのも、内部で手を回している奴がいるとなれば、あり得る話だ。
「……まあ、まだ憶測だ。何の証拠もない」
「疑わしいですが」
「状況証拠だと黒に近いな」
「どうします?」
「どうしようかね……」
俺はギルド前から離れる。視線は、通りの向こうに見える魔の塔ダンジョン。
「ダンジョンって入れるのか?」
「一般人は入れません。外に武装したギルド職員か冒険者が、見張っています」
「ギルド職員」
「元冒険者らしいです」
ソルラが目を細めた。
「表向きは、ダンジョンの外に魔物が出てきた時のための警備と言われていますが、外部から間違って王都の住民が入らないに監視もしています」
「やっぱ、冒険者登録して冒険者として入るのが一番ということか」
正しいルートが一番、か。後は王国が討伐軍を編成して送り込むくらいか? 攻略のための偵察部隊を送り込むって話で中に入れないかな? 冒険者ギルドに話を通す必要があるだろうが、王国の正規軍にはさすがに彼らも道を譲るだろう。
国に逆らって、ギルド人事に介入でもされたら、彼らも困るだろうし。
魔の塔ダンジョンがある広場に出る。周囲には、やや離れて民家が立ち並んでいて、まさに王都の中に塔が立っているという風だ。
……俺の記憶が正しければ、あの塔が建っている場所も建物があったんだけど。地面を突き破って出てきたのか、空から降ってきたのか。どういう状況かは知らないが、さすがに三十年経っていれば、周囲は片付けられているか。
町行く人々は、塔には近づかないが、その姿を見ても特にリアクションもなく通り過ぎていく。すっかり王都の一部、風景として馴染んでいるのだろう。
「それにしても、禍々しい塔だ」
真っ黒な外壁。悪魔的レリーフが所々にあって、いかにも悪魔のテリトリーだと言わんばかりだ。目を凝らせば、うっすらと呪いのオーラが立ち上っているのが見える。
塔の入り口を見れば、武装した冒険者らが立っていた。入り口正面に七、八人。近くに数人いるようなので、黙って通るのは不可能だろう。部外者が入ろうものなら、必ず誰かに止められる。
「……ん?」
俺たちより前を歩いていた冒険者パーティーが、魔の塔ダンジョンへと近づいていく。
如何にも屈強そうな五人と、やたらひ弱そうな男が一人。装備も違うから、一見すると違うパーティーの者にも見える。
「――あの、いいんですか? ボク、冒険者登録を断られたんですけど」
そのひ弱そうな戦士が、肩を回している屈強な冒険者に言った。傍目からすると、怖いお兄さんたちに連れられているようにも見える。
「冒険者になりたかったんだろう? 大丈夫大丈夫。オレらがついているからよ。成果を上げれば、オレらが呪い持ちのお前だって冒険者になれるってギルドに口添えしてやるからよ!」
おやおやおや……。何だか胡散臭いぞ? 冒険者登録を断られた戦士君を、冒険者たちがダンジョンに誘っている。話の内容からすると、冒険者たちが、優しい先輩風を吹かして助けてやっているようにも見えるのだが……。
「怪しいなぁ……あれは」
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