第2話 キツネさん

 半分妖怪。半妖のキツネさんが倒れていました。お腹を空かせて。

「私もここでお終いか。所詮、半妖。キツネの世界にも妖怪の世界にも居場所はなかった。あ〜あ、馬鹿みたいだな。早く意識飛ばないかな。しばらく苦しんで死ぬのかな。飢え死にってのは苦しいらしい。あーあ」

そこにおにぎり君がやって来ました。

「僕はおにぎり君やからな。おにぎり食べるといいからな。待っててな、今風呂敷から出すからな」

おにぎり君は風呂敷から大きなおにぎりを出して、半妖のキツネさんに差し出しました。

半妖のキツネさんは言いました。

「いらないよ。私は飢え死にすることに決めた。もう誰かに借りを作りたくはないんだ」

「借りなんかじゃないからな。おにぎり君はおにぎりを食べてもらうことで生きる意味が生まれるからな。おにぎり君の為に食べてくれるかな?」

10歳ぐらいの清潔そうな服を着た小さな男の子、それがこんなセリフを言うなんてどういうことなんだろう。

「私は半妖だよ。怖くはないの?」

「おにぎり君は嫌われる以外に怖い物なんかないからな」

「ぷっ。変な奴。分かった。おにぎりもらうよ」

「ありがとうやからな」

ぱくぱくぱく。

半妖のキツネはおにぎりを食べるとすぐに元気が出ました。

「何このおにぎり。すごい栄養とエネルギーのかたまりだよ。おにぎり君って言ったよね。あなたは妖怪?」

「おにぎり君はおにぎり君やからな。でも時々おにぎり君のことを農耕の神様クロノスって呼んでくれる人もいる」

「農耕の神様? クロノス? 神様? あはは。そんな強大な存在じゃないと思うけどさ、あんた妖怪だと思うよ、いや、半妖だね、人間と何か、そうか、それでのけ者にされて来たから嫌われるのが怖いのか。私と一緒だね。私とコンビを組まないか? 半妖同士だ」

「ありがとうキツネさん。今僕達は友達に近い場所にいる。だけど友達には届かない場所。僕はdestinyを背負った。この『世界』に作られた『飢え』とおにぎりで戦う事を。あぁ、そうだ、この『世界』には『飢え』は存在しなかった。僕はまた行かなければ。ありがとう。また会えたらおにぎり食べてな」

おにぎり君は言葉の後半から姿が消えて行っていた。

半妖のキツネは叫んだ。

「おい! どこへ行くんだ! おにぎり君! クロノス!? 神様なのかお前は!?」


おにぎり君はまた時空を渡りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る