147、最強モードチェンジ!
「エネルギー反応の増幅を検知。対処を――」
ただ事ではないのが分かったのだろう。ロボットたちは排除対象が何かを仕掛ける前に対処しようと、姿を変えた魔法少女へと突進する。
だが、その反応は少しばかり遅かった。
「この格好の時に不意を突こうなんて考えないでよね。無駄だから」
突っ込んでいったロボットたちの体に稲妻のようなオレンジの閃光が走る。その瞬間、彼らはただのガラクタとなって床へと散らばった。すっぱりと切られた切り口を見せながら転がる防衛ロボを一瞥し、事を起こした張本人は手に持つ刃で空を切る。
ついさっきまでステッキを持っていたのチカの手には夕焼けを溶かし固めたかのようなオレンジの剣が一本。そしてもう片方の手には鎧と同じ白色をした、少女の足から肩まで高さのある巨大な盾。
鋭い眼差しが周囲をとらえた。
「来ないんならこっちから行くけど」
今までと異なる攻撃に足を止めたロボットたちへ、チカはそうひと言残すとグッと膝を曲げ、飛んだ。巨大な盾を持っているとはとても思えないミサイルのようなスピードで、固まったロボットの中へと突っ込んでいく。
集団の中で盾をぶち当てられたロボットが次々と空を舞い、剣の横なぎをくらった塊が魔法少女を中心に吹き飛んだ。その全員が胸のあたりにばっくりと開いた傷痕を見せながら。
スカートの上に鎧をまとった、姫騎士のような可憐な風貌からは考えられない爆発的な威力。
銀チューブがチカの勢いを削ごうと光線を発射する。しかしついでに無数のロボットたちを貫いたそれは、彼女が振り上げた盾の前であっさりと止まった。光線は白の盾に阻まれると角度を変え、あらぬ方向へと飛んでいく。
ボロの声が平坦な口調で、しかし驚いたような声をあげる。
「高密度のエネルギー体、破壊は――」
「せいぜい、今はそこでふんぞり返ってなさい」
銀の針へと向けられる、刃の凶悪な輝きに負けず劣らずのぎらついた視線。
騎士へと姿を変えた魔法少女はロボットの兵隊に守られた王様気取りの寄生虫に、吐き捨てるように言い放った。
「すぐにそこから引きずり降ろしてあげるから」
要は別モードである。スマホに機内モードやら夜間モードがあるように、魔法少女にも魔法の使い方の変化があるのだ。
騎士モードは守りに特化した形態で、普段ビームやら他魔法やらに回す分のパワーを盾と鎧に集約する。そのために使っている最中は他の魔法が使えないが、頑強な防御力が実現できるというわけだ。だからステッキも近接専用の姿へと変える。
守りに特化した形態といっても戦えないわけではない。むしろ普段他に裂いている力をまとめている分、攻撃力は通常より増している。
「なら普段からそれで戦えばいいのでは」という声が聞こえてきそうだが、いいことづくめに思えるこの形態にも弱点はもちろんあった。
「っ、甘いっ!」
チカの剣が飛びかかって来たロボットたちを一掃し、盾が隙を伺っては致命傷を狙ってくる光線をはじき返す。無尽蔵の防衛ロボはその数を生かし前から後ろからと攻撃を仕掛けるが、死角を突いた攻撃も彼女の身を包む鎧に阻まれた。ブレードで切りつけたロボットは逆にその勢いで弾かれ、壁へと衝突する。
一方的な優性にも思える状況。だが、魔法少女の顔色は悪い。口は戦いの興奮のせいか笑ってはいるが、その額には冷たい脂汗が滲んでいる。
弱点。それはこの状態を維持するコストの重さである。
騎士モードの時、チカは普段瞬間的にビームや他魔法を放つ分の力を集め、鎧姿を維持している。つまり、この姿でいる間は常にビームを撃ち続けているのと同じ。
何が言いたいかと言えばだ。
チカはこの姿でいる間、通常の倍のスピードで力を消費するということである。
全力でもって数分。気力と気合でカバーしても、伸びる時間は微々たるものでしかない。この鎧が無くなる時、それはチカの体力が尽きるのと同義だ。変身は鎧が維持できなくなると同時に強制的に解除される。その先に待っているのは無抵抗にやられるだけの地獄のような時間。
だが、それでもチカはこのモードを使うことにためらいはなかった。チカが倒れてしまえば、この作戦は全て台無しになるからだ。ボロを助けるどころか全員が無事に帰れる未来さえ途絶えてしまう。
だからチカは剣を振るう。盾で押しのける。血が抜き取られるような感覚に嫌な汗が滲んでも、膝が笑っていても。限りなく細い糸の先にあるハッピーエンドの可能性にたどり着くために、全力で魔法少女は戦い続ける。
「――――解析完了」
しかし、それを見抜けないほど銀チューブも間抜けではなかった。
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