パーツを目指して

128、諦めずに済む選択



 ※※※



 犯人は現場に戻る。ここで張っていれば必ず尻尾を掴めるはずだ。


 チカは帰宅後にやっていたサスペンスドラマのセリフを思い出していた。テレビ画面の両端に隙間が生まれる、アナログ時代の再放送番組である。確か、トレンチコートを着た一匹狼の刑事の話だった。理由は知らないが好物はゆで卵。相棒だからと刑事を振り回す女刑事のひと昔のメイクをどうしてかよく覚えている。


「ねえ、思ったんだけどさ」

「何だよ」

「内臓パーツのあるとこって初めに見つかったとこ?」

「そうだよ。あそこを抜けた奥にパーツの保管庫があるからねえ」

「……見張られてるんじゃない?」

「……まあ可能性は高いね」


 犯人は現場に戻ると言うし、事実テレビの中の犯人たちも証拠を残したかもしれないと事件現場に戻っていた。その結果捜査をしていた刑事と鉢合わせ、第一発見者として話を聞くうちに言動の矛盾がバレて、というのがサスペンスドラマのお約束だ。


 相変わらず見通しの悪い通路をなるべく音を立てないように歩きながら、チカは前を行くザクロの背に小声で話しかける。無暗に物音を立てれば、またあの防衛ロボが飛び出してくるかもしれないからだ。

 チカの言葉に同じことを思ったのかザクロがその場で立ち止まる。防衛ロボをなぎ倒していた屈強な両腕が、今は邪魔そうに縮こまっていた。


「じゃあこのまま行っても駄目じゃねえか」

「そうだよ。だからさ、あそこ以外にないかなって」


 見られていないのならまだしも、チカたちは防衛ロボたちに内臓パーツの保管場所へ向かっているところをばっちり見られてしまっているのだ。ならば防衛ロボたちが目的のためにもう一度来る可能性を考えて待ち構えているかもしれない。サスペンスドラマに当てはめるのならば、チカたちが犯人で防衛ロボたちが刑事なのだ。


 だから他に保管場所を目指せばいいのでは、とチカは考えたのだが、ザクロから返って来たのはどうにも歯切れの悪い返答だった。


「つってもなあ……アタシ取ったら見つかる前にずらかるだけだったからあの場所以外っつうと……」

「え、じゃあ他にありそうなとこってないの? 一個も?」

「そんな顔すんなよ。しょうがないだろ、見つかった方が面倒だ」


 ザクロ曰く、毎度忍び込んでは素早く逃げるの繰り返しで、他に場所があるかどうかなど考えもしていなかったとのことで。


 脱出からたった数分後、早くも躓いていた。ガイド役が具体的な場所がわからないとなれば、そもそもこの世界に来てから数日のチカではお手上げである。


 今、チカたちには「パーツを取るために進む」か「なにもせず巣に帰る」というふたつの選択肢があるが、早くもそのひとつが実現不可能になりかけていた。もちろん内臓パーツを手に入れないまま巣に戻れば、ダグを治すことはできない。


 ダグの状態を思い出してチカは表情を曇らせる。するとザクロはガシガシと頭を掻き、眉間に皺をよせ、赤い目を彷徨わせ始めた。それは苛立っているようにも何か思い悩んでいるようにも見えたが、何か思いついたような表情を見るに、どうやら今回は後者だったらしい。   

 ザクロは視線をチカに戻すと、肩頬を吊り上げるような笑みを向けた。


「あー……場所にはねえが、抜け道になら心当たりがある」

「え、抜け道?」

「保管庫に入る道は何もあれだけじゃない。アタシが使うルートが見張られてたってだけさ」

「じゃあ、他の入り方なら――」

「まだ可能性はなくなっていないってこった」


 頼もしい言葉にチカはパッと表情を明るくする。どうにかまだ「諦めて巣に戻る」という選択を取らずに済みそうであった。


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