121、本当の理由
「ザクロ、ボロは」
思わず口を挟めば、ザクロは手の中のパーツを放り、ガシガシと頭を掻いた。武骨な指が髪をかき混ぜ、心情を表すかのように毛先が逆立つ。やはりまだボロがしたことを許せてはいないのだろうか、とザクロのその表情を前にチカは思った。
確かに、今考えてもボロのしたことは簡単に割り切れるようなことではないだろう。身体を壊されたことをすぐさま水に流す、なんてことは難しい。けれど、ボロはボロなりにザクロのことを考えて、その上で行動に移したことをチカは知っている。友達を取り戻したいというボロの想いも。
だから、チカは口を開いた。ボロは話したくても、もう話せないのだから。勘違いしたままなのは嫌だと、そう思って、代わりに言おうとした。
「わーってるよ、そのくらい」
「え?」
「アタシがテルタニスの野郎におかしくされてたのを元に戻すためだろ?」
「……知ってたの?」
「知ってたも何も、機械化されてた間の記憶は普通にあるからねえ。まったく、アタシがあんな気色悪いこと言ってたなんて。寒気がするよ」
だが続けて聞こえてきたのは思っていたものとは少し違う返答で、ボロの気持ちを伝えようと意気込んでいたチカは、想定外の言葉に拍子抜けしてしまう。何せ、ザクロの冷たい態度を今まで「ボロの意図が分からなかったから」だとばかり思っていたのだ。
そんな呆気にとられたようなチカの表情に何かを察したのか、ザクロはフンッ、と鼻を鳴らしながら言葉を続ける。
「あのねえ、アタシだってあの男と伊達に長いことつるんでたわけじゃない。あいつが考えなしにそんなことする奴じゃないってのはわかってんのさ」
「え、え? じゃあ、初めから?」
「ぶっ壊された時からわかってたさ。ま、らしくないやり方とは思ったがね」
そんなの当たり前、そう言いたげな声だった。つまりザクロは、初めからボロの意図していたことなど分かり切っていたということだ。
それを聞いて、チカは急激に「言わなきゃわからなくて当たり前」とボロに説教まがいのことを言った自分が恥ずかしく思えてきた。実際、言った通りだったのだ。ザクロは言わずとも、当然のようにボロの意図に気づいていたのだから。
ふと、もしかしたら、ボロが言葉足らずなのは彼女にも原因があるのかもしれない、とチカは考える。一を言えば十を察する友人がいれば、「言わなくてもわかるだろう」という思考になりそうな気もする。
しかし、そこで疑問が浮かぶ。それはボロに対するザクロの態度だ。
「じゃあ、何であんな怒ってたの?」
「……それは」
「何に対してあんなに怒ってたのよ」
ボロがザクロにしたことは簡単に許されるようなことではない。チカもそう思ったからザクロの冷たい態度は当然のものだと思っていたのだ。だが、それが違うとなると話は変わってくる。
ザクロはボロの意図が分かっていて、壊したことも受け入れたその上で、あの態度を取った。その理由は何なのか。
チカがそう問えば、ザクロは一瞬言葉を詰まらせた。そしてどこか言いづらそうに視線を逸らした後、再びチカの方を見る。そしてその視線が自身にジッと向けられたままであることを確認すると観念したように深く息を吐いて、それからザクロらしからぬ小さな声で言った。
「……許せなかったんだよ」
「何が」
「……だってあいつ、歯向かうのを簡単に諦めやがって、しかもアタシに『逃げろ』なんて言って、遠ざけようと、しやがるから」
「ダチなのに」と、ぼそぼそと呟かれたその言葉は、拗ねたような声色で静けさの中に落ちていった。
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