78、信じて撃て!

「右に飛んで、構えろ!」

「はいはいっと!」


 後ろから聞こえてくる声に耳を澄ましながら、チカはゲームセンターにあるゲームを思い出していた。リズムに合わせて、画面に表示された指示通りに足を動かしてパネルを踏むダンスゲーム。放課後、魔法少女の仕事が珍しくない日は広美と足が痛くなるまで遊んだものだった。今の状況をダンスと言うには少し物騒すぎる気もするが。


 そんなことを考えながらチカは軽やかに足を動かす。

 右、飛んで、構えて、そして撃つ。

 ビームを撃った瞬間にバキンッとまた金属質な音が響く。だが、今度の物は前に聞いたものよりも重く、大きい。

 どうやらいいところに当たったようだ。音で感じる確かな手ごたえに、ニヤリと口角が上がる。


『これは、驚いたのう。見えないことが恐ろしくはないのか?』

「ああ、俺も驚いてるよ」


 驚いたような声を上げるジュリアスにダグが返す。その声はどこか楽しそうに弾んで聞こえた。


「ま、こいつは頭でごちゃごちゃ考えるより動く方が得意みたいだからな。助かるよ、まったく」

「ちょっと、人のこと考えなしみたいに言うのやめてくれない?」

「動かしやすいって褒めてんだよ。素直に受け取っとけ。おら、今度は左だ」

「褒められてる気がしない!」


 戦いの中だというのに聞き捨てならないことを言うダグに反論する。こちらは素直に従っているというのに、酷い言い草だ。終わったらシャノンに言いつけてやる。 

 そう頭の中でシャノンのあの冷静な口調で詰められるダグを想像しながら、チカは左に飛んだ。


『ふむ、見えていないと言うのに軽やかな身のこなし。それも魔法とやらがなせる業かのう』

「魔法云々ってより、こいつが人を信じすぎなだけな気もするけどな」

「やっぱり褒めてないよね? ディスってるよね?」


 この野郎、人が信じて任せてるってのにいい気になちゃって。

 そんな怒りをビームに乗せて、チカは左へとそれを撃ち込む。ドゴンと普段よりも重い音が聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。

 だがそんな怒りもすぐにおさまってしまうほどに、驚くほどダグの指示は的確で、動きやすかった。見えていないにも関わらず、チカの足は瓦礫にぶつかって転ぶこともなく、もつれることもない。無理な動きにならないか、足元に障害物がないか、ちゃんと見て指示をだしているのだろう。安心して動けるのだ。口が減らないのが玉に瑕だが。

 

『ふむ、興味深いのう。じゃが、そのやり方じゃと吾輩にやり方が筒抜けじゃが――っ!』


 ジュリアスが動いたのだろう。ガチャガチャと動く音と共に頬に吹く風の流れが変わる。だが、その言葉はババババッという銃撃音に掻き消えた。

 余裕たっぷりなジュリアスの声に浮かんだ僅かな驚きの色に、ダグが隠し切れない笑みを声に乗せる。


「相手してんのはこいつだけじゃねえよ。俺だって、やるときゃやるんだ」

『ぐっ、小僧のドローンか。おのれ、小癪な真似を』

「小癪も何も甘く見てたあんたの落ち度だろ。……チカっ! 真正面、どでかいのぶち込んでやれ!」


 ジュリアスの声でダグのあのドローンが何かしたということはわかった。が、何が起きているかに構っている暇はない。チカは言われた通り真正面にステッキを突き出し、蜘蛛を吹き飛ばす一撃を放つ。


「チぃぃカぁぁぁぁ――ッビィィィィィィ――ムッ!」


 バゴォンッ、と今までにない轟音が空気を揺らし、黒ばかりだった視界が一気に白く染まった。

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