75、魔法少女の邪魔をするもの
驚いたような声を上げるジュリアスに、チカは即座に二発目のビームを撃ち込む。ステッキの先端から飛び出た光の砲撃は迷うことなく蜘蛛の体を突き破ろうと襲いかかった。
『やはりわかってはもらえんか』
「当たり前でしょ。人の仲間酷い目に遭わせといて、どの口が言うのよ」
『いやはや、そこを突かれると痛いのう』
「思ってもないこと言わないで」
けれどまるで撃たれることがわかっていたかのように、ジュリアスは球体の頭を傾げるようにしてビームをあっさりと躱してしまった。撃たれたというのに口調には動揺もなく、余裕な態度でこちらに言葉を返してくる。
この期に及んでもまだ好々爺を気取るような口ぶりにイラっとして、チカは声を尖らせた。思ってもいないことをこうも堂々と言われると腹が立つのだ。
『そんなことはないぞ。吾輩は出来ることなら穏便な手段でじゃな』
「あんたもテルタニスと同じで、こっちのことなんて手段くらいにしか思ってないんでしょ」
相変わらずの穏やかな声に苛立ちを募らせながらも、チカは三発目、四発目とビームを立て続けに撃ち込む。
テルタニスがチカの人権など無視してエネルギータンクになることを勧めたように、恐らくこのジュリアスも善意でこちらに協力する気など初めから無かったのだと、チカは判断した。というか、善意で協力する人間は望みどおりに事が運ばなかったとしても、暴力で解決しようとはしないのだ。そんなこと、平和な高校生活を送っていた女子高生にだってわかる。古今東西言うことを聞かない相手を力で支配する奴にロクな人間はいないと道子おばさんも言っていた。彼女が見たらジュリアスなど離れて正解だと即答するだろう。
三発目と四発目のビームも躱したのを見て、チカは地面を蹴る。白い魔法少女のブーツは力強く身体を跳ねさせ、チカをジュリアスの元へと急接近させた。
「酷いことしたくせに、今さらいい人ぶってんじゃないわよ!」
躱されるとわかっていて、チカはわざとビームを撃った。輝く派手なそれは、威力があるだけでなく良く目立つ。つまり、いい囮になるのだ。
思った通り、ジュリアスはチカの放ったビームを余裕で躱してみせる。そのとき、赤いレンズが光線の軌道を追ったことをチカは見逃さなかった。
マジカルボクシング、と口の中で呟き、急速に距離を詰めながらオレンジ色のバンテージを腕に出現させる。脇をしめ、拳を構えた状態でチカはジュリアスへと一気に突っ込んでいった。
短期決戦に持ち込むつもりだった。ダグは致命傷ではないとはいえ血を流しているし、シャノンとギルの状態も心配だ。ぐだぐだと戦いをひき伸ばしている余裕はない。
「く、ら、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――っ!」
勝負は一瞬、この一撃で決めてやるとチカは眼前に迫った球体状の頭に拳を振りかぶる。ジュリアスの目はまだビームを追っている最中だった。
これで終わる、そう思ったその時、ダグの焦ったような声がチカの闘志に沸騰した脳を現実へと引き戻す。
「チカっ! 横だ、横っ!」
「――――え、あ……ひっ⁈」
横、横って、何が。
そう思った瞬間、何かが横からチカの拳の邪魔をするように飛びかかってきて、それに邪魔をするなと怒りに燃える目を向けた瞬間、チカはさっと青ざめる。
それはチカがわざわざ遠距離攻撃で吹き飛ばしたはずの蜘蛛の足で、彼女が大嫌いなうぞうぞと蠢く八本の足が、魔法少女の攻撃に横やりを入れようと迫ってきている真っ最中だった。
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