65、それを誰かはツンデレという
「いいか、見つからないと判断したらすぐ巣に連れ戻すからな。活動限界もだ。くれぐれもぶっ倒れるまで動こうなんて思うなよ。お前を担いで行けるほど俺に筋力は無いんだ」
「……ダグ」
「ちょっとでも無理をしてると思った時点で引きずってでも連れて帰るからな!」
ダグが先を行くシャノンに追いついたのはちょうどシャノンが外に出る通路に出たところだった。シャノンは当たり前に呼吸一つ乱れていなかったが、ダグは激しく肩を上下させている。それでもダグは忙しなく口を動かすことを止めなかった。
肩で息をし、それでも話し続けるダグに、賢いドールは告げる。
「共に危険を冒さずとも、私ひとりで平気です。ですから、そのように無理をせずとも」
ぜいぜいと酸欠になりそうな体に空気を送り込む。口内は呼吸で乾き、粘ついた唾液が喉を通り過ぎることを拒んだ。顔も肺も喉も、酷く熱い。
傍から見ても今の自身は無理をしているようにしか見えないのだろう、とダグは思う。冷静に指摘されたことに腹立たしさを覚えながらも、ダグは粘つく唾液を無理やり飲み込んでから涼しい顔をするドールに吐き捨てるように言う。
「うるせー! 無茶するって、わかってんのに、単独で行かせられるか!」
魔法の強さは誰よりも近くで見てきた。最新の金属と言われた合金メタルを破壊するのも、あのテルタニス相手に大立ち回りを繰り広げるのも、普通じゃ考えられない。
だからきっと、放っておいても大丈夫なのだろう。
自分が余計な手出しをしなくとも、きっとあの少女は魔法とやらで全てを壊し、ケロッとした様子で戻ってくるに違いないのだから。
だから、ダグが今こうして走っているのは自己満足のためだった。
安全なところでぬくぬくと待っているだけの自分自身に腹が立って、何もしないことが嫌だから、自分を嫌いになりそうだから走っていた。
「……それに、このまま放っておいて野垂れ死にでもされたら寝覚めが悪そうだしよ」
チカはテルタニスの触手を踏みちぎるような少女だ。元教育用ドールのように心配だとか子供だからだとか、そう思っているわけでは断じてないし、必要だとも思わない。
ただ、協力者だの何だのと言っておきながらひとり何もせずにいるというのは落ち着かない。それだけだった。
「――ダグ」
「……なんだよ」
だというのに、どうしてか生暖かい視線を感じてダグはちらりと隣を走るドールを見る。温度を感じないはずの青い目は、何故か見ていてむず痒くなるような光を宿してこちらを見ていた。
「該当事象を確認。知っています、ダグのその言動は過去にツンデレと――」
「……今すぐその単語は忘れとけ」
聞いていて何故か腹が立つ単語を遮って、ダグは生暖かい視線から逃れるように足を動かすスピードを上げた。
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