ピエロの思惑
57、生みの親、それの友
ラーフカンパニーの本拠地。チカたちが通されたのはおもちゃのような城の中だった。
勧められるまま赤い生地の上等なソファーに座りながら、チカはきょろきょろと落ち着かなく辺りを見渡す。
赤い絨毯にシックで落ち着いた焦げ茶の家具。それに天井を飾る巨大なシャンデリア。大きく開いた窓からはついさっき見た汽車やボールたちが見下ろせる。
考えていた兵器も研究施設もない。まるで豪華なドールハウスの中に入ってしまったようだった。
応接室のような部屋の中、チカたちに椅子を勧め堂々とその正面に座るピエロ。
偉そうだった。どう見ても犯罪組織の末端のひとり、とは思えなかった。
『なあお嬢さん』
「え、あ、何?」
突然ピエロから声をかけられ、チカはビクッと背筋を伸ばした。何か要求されるのか、と身体の筋肉が勝手に硬直する。
次にピエロの口から飛び出すのは「実験」かそれとも「解剖」か。
『紅茶に砂糖はいるかの?』
「あ、ううん。いらない、けど」
『ストレートじゃな。ちょっと待っとれ』
けれど返って来たのは気が抜けるほど普通の話で、チカは思わず気の抜けた返事を口に出す。力の抜けたチカの身体を雲のように柔らかなソファーが優しく受け止めた。
なんだか、自分はすごく馬鹿らしい勘違いをしている気がしてきた。ソファーの背にもたれかかりながら、チカは思っていた以上に緊張していた自分に苦い笑いをこぼす。
紅茶の好みを聞くと、チカの正面に座るピエロはぽふぽふと手を叩く。するとその音に反応するように、チカの目の前に小さなティーテーブルが床からせり上がって来た。
上には白いティーカップ。なみなみと注がれた渋みのあるオレンジ色からは湯気が立っている。
『お前さんは?』
「いらなイ。お茶しにきたわけじゃないからナ」
『かったいのぉ。息を抜けるところは抜いておかんと』
「必要なイ。さっさと本題に入レ」
隣に座るギルが苛立ったようにピエロをギロリと睨みつける。初めて会った時のような、敵意を隠さない表情だ。
しかし今にもグルルと唸り声が聞こえてきそうなギルを前に、ピエロは余裕たっぷりに返事を返す。ぬいぐるみの表情が変わらないせいももちろんあるだろうが、そもそも怖いなどとは微塵も思っていないような口ぶりだった。
「……ねえ、協力って私に何をさせる気? テルタニスの弱点を知ってるって言ってたけど、何を知ってるの?」
ギルに続くようにチカも口を開く。とにかく今はわからないことが多すぎる。返事を聞かないことには何も答えられそうにない。
『お嬢さんもそう急くな。……だがまあ、そうじゃのう。わからんばかりでは落ち着いて話も出来んか』
次から次へと出てくる質問を受け止めながら、ピエロはチカ達を見上げた。短い足を組みながら、似合わない無邪気な少女の声で、とんでもないことを言い始めた。
『ああ、自己紹介がまだじゃったの。吾輩はこのラーフカンパニーの創設者。そして――テルタニスの生みの親、そいつの友でもある』
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