55、魔法少女とドールとピエロ

「なぁにが最大の譲歩、よ。あいつこのまま何もしないでいる気なのかしら」

『まぁまぁそう言うでない。責任を持つ者は時として非情な判断も必要なんじゃ』

「……オレは、お前が来なければご主人様はこんな目に遭わなかったと思ウ。偉そうに言うナ」

『おや、これは手厳しい』


 三人は例の古びた旧ショッピングモールを歩いていた。詳しく言うなら人間ひとり、ドールひとり、ぬいぐるみひとつが一列に並んで歩いている。

 真ん中でぶつぶつとぼやいているチカを先頭にいるピエロが宥め、それに最後尾を歩くギルが鋭い目つきで反応する。

 

「……にしても、あんたは着いてきて良かったの? 危ないかもしれないのに」

「どこであってもオレはご主人様に着いてク。それだけダ」


「やりたいならひとりで行け」、そうボロに言われたときに最初に反論したのはギルだった。チカが行くなら自分も行くと、あの発言しにくい空気の中で真っ先に手を上げたのだ。

 ボロも軽く止めはしたが、ギルの同行に強く反対はしなかった。つい最近までテルタニスのドールだったギルを巣から遠ざけたかったのかもしれない。この考えは憶測でしかないが。


 行きついた考えにまた少し苛つきながら、チカはピエロに続いて歩いて行く。チカの苛立ちを表すように、やや強くなった足音が通路に反響した。


『まあそうかっかするなお嬢さん。常に最適解を選べるドールと違い、人間は間違いを起こすものじゃ。間違った道を選ばぬよう、慎重になるのは当たり前じゃろうて』

「うっさい。大体あんたが犯罪なんてしてなきゃここまで面倒なことにならなかったのよ」

『いやいや吾輩だって好き好んでしてるわけではないぞ? ただそれが最も近道だったというだけじゃからな』


 彼女とは反対に全く足音のしないピエロが何でもないことのようにそう言っているのを聞いて、チカは目の前を行くぬいぐるみの背中に顔を顰めた。

 ただ最も近道だったというだけで何の抵抗もなく犯罪に手を染められるというのは、なかなかぶっ飛んだ考え方だ。やはり、友好的に思えても犯罪組織の一員ということなのだろうか。


 やっぱりダグたちは来なくて良かったのかも、そんな思考が一瞬浮かび、チカはいやいやとその考えに首を振った。シャノンを助けたいと思うなら、自分で動くべきなのだ。

 しかし自身の考えとは反対に恩人の言葉に黙り込んでいたダグを思い出し、また苛立ちが募る。


「で、どこなの? そのラーフカンパニーの本拠地って」

『まあ焦るな焦るな。近道があるんじゃ。そこを通っていけばすぐじゃよ』

「近道?」


 胸のモヤモヤを振り払うよう、ピエロに話しかければ相変わらず違和感のある少女の声でそんな返答が返って来た。ピエロはぽてぽて歩きながらチカの疑問に『そうじゃ』と返答する。


『この街には今は使われていな過去の遺物が多くある。テルタニスの支配に置いていかれ、無かったことにされた場所がな。この道だってそういった場所のひとつじゃ』

「……ふうん、遺物ねえ」


 元居た世界ではごく身近にあるものが遺物過去のものとして扱われているのを聞くのは妙な気分だった。


『お、ここじゃここじゃ。ほれ、ここを通っていけばすぐに拠点じゃぞ!』


 そんなことを考えているうちに目的地に着いたのかピエロが止まる。しかしそこはぬいぐるみが身を屈めてようやく通れるほどの小さな通路、というか通路とも言えないほどの隙間で。

 その隙間を前に「どうだと」胸を張るピエロに、チカは「こんな狭い場所通れるか!」と今日一大きな声を出した。

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