第三章 魔法少女と犯罪組織
犯罪組織からの招待状
51、意味のない招待状
ラーフカンパニー。通称、闇のおもちゃ屋。
最近になって都市を騒がせ始めており、その手口は大企業の受付に自動追尾機能のついた爆弾付きぬいぐるみを送り込むといったわかりやすい破壊行為から、オフィス中に巨大クラッカーを仕掛け、会社内を破裂音と大量の紙吹雪で混乱させるような意味のわからない悪質な悪戯行為まで多岐に渡る。
組織人数、規模、指揮している者、目的、どれも不明。派手な動きにも関わらず、決して姿を掴ませない。正体不明の犯罪者。
分かるのは手口に使われる物はかならず「おもちゃ」を模していること。そして犯行現場に「もっと笑いを」というメッセージを残していくことだけだ。
そう、わかっているのはそこまでのはずだった。ついこの間の、ゴミ捨て場戦争でチカが妙なメモリアルカードを貰ってくるまでは。
シャノンとギルからラーフカンパニーの詳しい説明を聞いて、チカは自身の手の中のカードとダグの顔を見比べた。
多分、いや絶対にあの猫の仕業だった。背中を開き、いきなりミサイルでゴミ捨て場を戦場にした物騒ペットロボット、の中の誰か。それがラーフカンパニーに関わっている何者かに違いない。
どうしてチカに接触してきたのかはこの際置いておいて、だ。問題はいきなり渡された招待状をどうするかだった。
指先程の、どう見てもSDカードにしか見えない招待状を手のひらに乗せたまま、チカは意見を求めて周囲をぐるりと見渡す。だが、皆困ったようにチカの目を見返してくるばかりだ。
暢気なお茶会の招待状であればよかったのに、よりにもよって差出人は謎多き犯罪組織。
「やっぱ通報とかした方がいいのかな? 警察とか」
「馬鹿、俺ら自体がそもそもお尋ね者なんだ。テルタニスの息がかかった連中になんぞ通報なんて出来るかよ」
「あ、そっか。じゃあ――どうする?」
自身の口から出た妙に現実的な答えを即座にダグが否定する。確かに、考えてみれば当たり前だ。テルタニスが支配しているのなら、警察にだってあの性悪AIの手足のようなものだろう。
話が振り出しに戻ってしまった。
結局、この招待状をどうすればいいのだろうか。
「どうする? 行く? 助けてくれたお礼も兼ねて」
「行くか馬鹿。何がどう転んだら犯罪組織にのこのこ行くなんて発想になるんだよ」
「いやでもさ、ほらここ『異世界の』って書いてあるしさ、何か妙に詳しそうじゃない?」
証拠を掴ませない犯罪組織が、わざわざテルタニスが監視する都市に姿を現してまで接触してきた上、この「異世界」の文字だ。ラーフカンパニーは恐らくチカが異世界から来たことを知っていて、その上で接触してきたのだ。
もしかしたら何か知っていて、それを知らせるためにこんなものを渡してきたのかもしれない。
だが、そう説明してもダグは決してチカの提案に首を縦に振らなかった。
「何かがわかっていそうでも駄目だ。変に利用でもされたらどうする気だよ」
「私もダグと同意見です。チカ、ラーフカンパニーは危険な組織です。この誘いには乗るべきではないかと」
「つーか、知ってそうも何も全部あんたの憶測だろ」
シャノンもダグと同じように首を振る。ギルは「ご主人様が行くならお供する」と言った。
賛成二票。反対二票。平行線だ。
けどずっと地下でぐちゃぐちゃ考えているよりは、多少危険でも情報を持っている相手と話した方がテルタニスに対する何か有効策が得られるんじゃないか。
「でも、ここでぐずぐずしててもさ……」
しかし、そう言いかけたそのとき、チカは招待状の、ある欠点に気づく。どうしてか、書かれているはずのものがこの招待状にはない。
「ダグ、これ」
「あ? 何だよ」
「これ、場所が書いてない」
招待状としては致命的であった。
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