46、助けを求める声に
「――――しっぱ、イ?」
【ありがとう、GIRU00252。実に有益なデータが回収できました】
「え、テルタニス、様、何デ」
【あなたが見せてくれた結果は新たな未来を生み出す
男の顔は今にも泣きだしそうに歪み、手をばたつかせてもがく。その手が、声が、まるで「用済み」とでも言いたげなテルタニスからの否定の言葉を求めている。
だが男の創造主は話は終わりだと言いたげに話題を変えた。男を絡めとったまま、白玉の怪物は言う。
【――ああ、そう言えば、ここはゴミ捨て場でしたね】
「っ! やダ、テルタニス様ッ! 嫌だ、ごめんなさい、やめテ、もう失敗しないかラ!」
誰の手の届かない場所で、神の手の中の男が身を捩った。次に下されるであろう神の判断を聞きたくないと、逃れようとして触手に爪を立てる。いくつもの涙が、男の顔をぐしゃぐしゃに濡らしていた。
けれど幼子のように泣く男を前にして、神同然のAIは温度のない声でまるで人間のような言葉を響かせる。
【「ちょうどよかった」とでも言うべきなのでしょうか】
「やダ、いや、や、や、いやダ! や、やめテ、やめテくださいイッテルタニス様ァッ! 壊れたくなイ、なくなりたくなイッ! 怖イ!」
【感情機構が強いあなたですから、きっと恐怖も相当でしょう。でも安心して。そのデータもきっととても有用なものです】
「――ァ、いゃ、ダ、助け、ッ、誰カ、死にたく、な」
【ああ、GIRU00252。死にたくないだなんてまるで皆様と同じ、人間のようですね】
泣きわめく男にそう穏やかにささやいて、そして、それだけだった。
男が焦がれた神との会話は、一方的に打ち切られる。
【では、さようなら】
「や、ヤダ、ヤダ、いやダァァァァァァァァァッ‼」
そして誰の手も届かない上空から、地上へ。叩きつけるように、必ず壊れるように男の身体は投げ出された。
もし事故が目の前であったとして、それを助けるために真っ先に動ける人間は何人いるのだろう。恐らく、大多数が何も出来ない。何をしていいのか、何をすべきなのかもわからずにただ目の前で起きていることを見ることしかできない。
それと同じだった。
悲鳴が高くから降ってくる中、誰も動けなかった。誰もが突然起きたこの状況に呆然として立ち尽くしていた。誰もが、手を出せることだと思っていなかった。災害のような、人の手の及ばぬもの。
「――もうっ、何、してんの、よっ!」
けれどここにひとり、落ちてくる者に迷いなく走り出せる少女がいた。
助けを求める声を決して聞き逃さず、強く、けれど少し情に脆い、女子高生がいた。
チカは走り出す。落下するスピードよりも速く、飛ぶように駆け抜けて、泣きわめきながら落ちてくる男の下にギリギリで身体をねじ込む。
ドオン、と地面が跳ねるような衝撃音があった。
「ッ………ァ、え?」
ぼろりと大粒の涙をこぼす男を両腕でしっかりと受け止めて、愛と平和の魔法少女は真上に漂う白玉を強い眼光で睨みつけながら、こう言い放った。
「こんなに泣いてるのに失敗って、そうやって、簡単に、捨てるわけ? ――最低ね」
彼女の名前は日向千華。ムカつくものが許せない、ただの魔法少女である。
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