43、タイマン上等
「……何でただのペットロボットにミサイルがついてるわけ?」
『不審者撃退プログラム(仮)じゃ!』
「いらないでしょペットロボットにそんな機能!」
ミサイルの衝撃で見るも無残な姿と成り果てたゴミ捨て場の地面を眺めながら、チカは半ば呆れぎみに、おもちゃ屋は自慢げに声を上げる。
もはやゴミ捨て場というより「隕石群衝突跡地」とでも言われた方がしっくりくる有様だった。辺り一面はミサイルでクレーターの如く穴が空き、衝撃で崩れた壁からパラパラと破壊の残骸が落ちてくる。
『昨今は物騒じゃからの。用心に越したことはないと思わんか?』
「用心っていうか、過剰防衛な気がするんだけど」
『甘い甘い。こういうのは先に手を出した方にきっちり分からせんとな』
不審者撃退とは言っていたが、相手が不審者程度なら反省する間もなく粉みじんだろう。
一体このペットロボット何と戦う気だと思いながら、チカはでこぼこの残骸からうめき声を上げながらもなんとか起き上がっている機械人間たちを見つめる。あのミサイルで動ける人数は半分以上に減っていた。
それを見ておもちゃ屋は成果に満足したように『うむうむ』と頷くと、後ろであまりの光景にぽかんと固まったままのダグに声をかける。
『ほらいつまでも固まっとらんで、手伝え小僧!』
「え、あ、は? 俺?」
『お前以外誰がいるんじゃ。見た所、隣のお嬢さんはかなり前に製造された旧式ドールじゃろ。
「……してないし、これからもするつもりはない」
ダグの言葉におもちゃ屋は反論することも怒ることもなかった。ただちらりとシャノンを見た後、ダグに言い聞かせるようにこう続けた。
『なら人間からはお前が守らんといかんじゃろ。お若いお嬢さんふたりに守られっぱなしで不甲斐ないとは思わんのか? ん?』
「――っうるせえな。言われなくたってやってやるよ!」
その言い方にカチンとしたような表情は見せるものの、ダグはそれ以上言い返さなかった。いつもより綺麗な上着の内側に手を突っ込み、チカがあまり見たくないトンボ型のドローンを数匹展開する。
そしてダグはあのミサイルの雨あられから逃げ伸びた幸運な機械化人間たちに向って怒りをぶちまけた。
「さっきはよくも散々やりやがったな! お返しだ、お前らの機械化部分、
ダグの剣幕に、ようやく立ち上がった機械化人間たちがたじろぐ。
基本、怒る者の勢いには誰も勝てないものだ。
『うむうむ、そうでなくてはな』
「大丈夫そう?」
『なあに数はかなり減った。吾輩と小僧で何とかなる』
ダグがまたあのコードの飛び出たスマホのようなものを勢いよく操作している様子をどこか楽しそうに見ながら、おもちゃ屋は『だが』と言葉を続けた。黒猫の目線の先にはゆらりと立ち上がってくる青髪の姿がある。
『あいつは正直、今の装備で相手に出来る気がせん。お嬢さん、任せて大丈夫そうか?』
「ん、平気。十分よ」
『ふふ、それは頼もしい』
さっきまではやることが多すぎた。だが、機械化人間は半分以上に減り、その半分も今は後ろでダグの怒りを受けている真っ最中。これならやることはただひとつだ。
ダグの方へと応援に向かう黒猫を見送りながら、チカはぐるぐると準備運動に肩を回す。
マルチタスクは苦手だが、一対一なら大歓迎だ。
「これならタイマンせざるを得ないでしょ、ねえテルタニスのお人形ちゃん」
「――っぐ、ぅ……駄目、駄目だ、このままじゃテルタニス様のお役ニ」
「よくも私の仲間を散々苛めてくれたわね」
目の前に立つ男はまるで幽霊だった。ゆらゆらと立ち方の重心は定まらず、まるで風に揺られる柳のようだ。それなのに乱れた髪の間から覗く目は執念に爛々と輝いている。
「嫌、ダ。オレは、やらなきゃいけなイ。反逆者共を捕えて、テルタニス様の、お役ニ」
「はん、あんたにやれると思ってんの?」
ゆらゆらと立つ得体のしれない男にも、魔法少女は動じない。
彼女はブツブツと話し続ける青髪にべえっと舌を突き出しながら啖呵を切った。
「さっさと逃げ帰ってテルタニスにこう伝えてよ。『もう二度と私の邪魔するなクソAI』ってさ」
「テルタニス様のために、テルタニス様、テルタニス様ァァァッ!」
壊れたラジオのような青髪の絶叫が再びの開戦のゴングとなって、チカはそれを合図に地面を蹴った。
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