19、最低の奴ら
「いや、捨てたのはあんたたちでしょ」
「いいや。裏切り者と手先が自己保身のために消したのさ。なあ? お前たちも見ただろう」
そしてまた一斉に首をふる赤べこたち。ここまでくるといっそ見事だった。ネズミはどこまでもチカ達を利用する気で、それを隠しもしない。
げえっと舌を出しながら、チカはゴミ溜めを見るような目つきをネズミに向けた。ダグも呆れを隠し切れない表情でネズミにため息を吐いている。彼らが考えている内容は同じだ。
「……サイテー。マジで、本物の下衆やろうじゃん」
「同感だな。ここまでするかよ、普通」
「何とでも言え。何故なら僕にはこんなにも多くの証人がいるのだからね」
そしてネズミはこちらを煽るように「お前たちと違って」と付け加える。負けることが決まっているとでも言いたげな、腹立たしい笑みが酷くチカの神経を逆なでした。
「何が証人よ。その連中に言わせてるの間違いでしょ」
「もうボロの奴には伝えてある。好きなだけ吠えるといいさ。僕の言葉と問題ばかり起こす裏切り者の言葉、あいつがどちらを信じるか見ものだな」
だがどんなに棘のある返しをしても、当の本人はどこ吹く風だ。まったくもって手ごたえがない。
そうしているうちにネズミはふたりの元を去ろうと歩き出す。赤べこ集団もぞろぞろとそれに続いていく。
「清々するよ。ダグ、これでやっとお前の顔を見なくてすむからな」
「は、必死過ぎて笑えるな。なあネズミ。お前、俺ひとりを追い出すのにいくらつぎ込んだんだ?」
「……シャノンが手に入って、尚且つお前が消えてくれるんだ。ドローンの制作費用なんて安すぎるぐらいだよ」
何かしたかった。ビームを撃ち込むなり、顔面をべこべこにへこませるなり、とにかくあのムカつくセクハラ野郎の余裕を剥ぎ取ってめちゃくちゃにしてやりたいという暴力的な衝動がチカの中で暴れまわる。
だが、出来ない。というか出来るならもうやっている。やってもいいのなら今頃、ビームの連発で踊り狂っているはずだ。
けれど現実問題、チカは今疲れていた。それこそ普段なら呼吸をするように出せるステッキも出せない程に。そんな状態で魔法がポンポン使えるわけもない。かといって鉄パイプ片手に乗り込めば数の有利をとられて返り討ちになることは目に見えていた。
だから仕方なく、チカはネズミが去っていく後ろ姿を射殺さんばかりの視線で睨みつけることしかできなかった。
そんなとき、突然ダグが声を上げる。
「おい、なあ。あんただよ。そこの一番後ろの」
「……え?」
その視線の先にいるのはネズミではなく、集団の最後尾をちょこちょこと着いていく男だ。
あの男だった。逃げ出す際に転んで、ついさっきドローンを始末した男。
ダグに声をかけられて、男はこちらを向く。おどおどとした目が戸惑いに揺れ、何の用だと言いたげにダグとチカの顔を見比べる。文句のひとつでも言われると思っているのだろう。男は酷く怯えていた。
しかしそんな男の様子など一切気に掛けない口調で、ダグは言う。
「あの時、巻き込まれてたらお前、死んでたぞ」
「えっ」
ダグの言葉に男は驚いたように顔を上げた。あの時、というのはドローンがチカ達に向って飛んできた時のことだろう。男は転び、共に逃げていたはずの仲間は彼を起こそうとすらしなかった。
「あいつはそういうやつだからな。現にお前が転んでもドローンは止まらなかったし、誰もお前を助けなかった」
「……あ」
「ひょっとしたらボロさんを信じ込ませる仕掛けとして、ひとりぐらいならとでも思ってたのかもな」
もしあの時、咄嗟にシャノンが庇わなかったら。
男もその考えに至ったのだろう、元から悪い顔色がさらにさあっと青白くなる。
「ネズミは善人じゃない。付き従ってる分には楽な男だろうが、邪魔になると分かったら簡単に切り捨てられる奴だ」
「……っ」
「ま、誰に従うかも自由だが、相手ぐらいは見極めろ。ここで頼れるのは自分の頭だけだ」
「お、俺は――」
男がダグに何か言い返そうと口を開く。だが、それは集団から飛んできた「置いてくぞ」の声に掻き消された。そしてその声に体を跳ねさせて、男は集団へと戻って行く。
男が言おうとしていたことが何だったのかは結局分からず仕舞いである。
そして、そこから数分後。小難しい顔をしながら現れたボロはダグの顔にため息をつきながら「ネズミから聞いた。一時間後、皆の前で話だけは聞いてやる」とだけ言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます