第9話 修羅場
学校では俺に関する嫌な噂が蔓延していた。俺が明智さんとお付き合いしている間に有栖さんにも手を出したんじゃないかという噂だ。まあつまり俺は二股の嫌疑をかけられていた。
「沢人テメェ!羨ましいぞクソ!」
「そこは羨ましいじゃなく、見損なったじゃないのかよ」
俺がツッコミを入れると、健介ははっとして、
「…見損なったぞ!」
「今更遅いよ。てかあんなの悪趣味な人間が流した噂だし」
学校で健介に問い詰められた俺は噂の真偽をはっきりとさせた。教室でも気になっている奴がソワソワ聞き耳立ててるし、丁度いい機会だ。噂が嘘だったことを広めてもらおう。
「まあだよなー、明智さんは兎も角として有栖さんはお前じゃ無理だって俺は信じてたぞ!」
酷い信頼のされ方だ。でもクラスメイトの大半はそう思ってそう。俺が浮気をするような人間性かどうかではなく、そもそも学校一番の美少女である有栖さんと付き合えるはずがないという見方だ。
「明智さんも俺には勿体ないくらいの女の子だよ。そもそも話題に上がらないだけで、明智さんは十分可愛いんだからな」
「うわでた。惚気だよ」
「惚気じゃないし」
事実を言ったまでだ。明智さんは別に素材が良い地味系女子ではないし、普通にお洒落してて普通に可愛い。あんまり名前が上がらないだけだ。
女子の感覚だと顔は良くて優しいんだけど、付き合うのは〜って、イマイチモテない男子の典型例。
「沢人君。私がどうしたんです?」
お手洗いから帰ってきた明智さんが怪訝そうな顔をする。
「沢人が浮気してたって話だよ」
「本当ですか?沢人君?」
いや怖い怖い!目が黒澄んでる!
「って噂だよ!」
「沢人君。火のないところに煙は立たないという諺を知っていますか?」
知ってる!知ってるけども!
俺が明智さんに弁明している最中、この噂において尤も重要な人物が教室にやってきた。有栖さんだ。銀髪だからすぐにわかる。鋭い目つきと華奢な体。綺麗な睫毛に整いすぎた顔。学校一番の美少女は俺のすぐ後ろの席に荷物を載せた。
「お、西沢さんだ。沢人と付き合ってるってマジ?」
健介が有栖さんに訊ねる。良かった。これで有栖さんが否定してくれて、ようやく噂が収まる。一安心、一安心。
「ええ。本当よ」
??????????
俺の頭は?マークだらけになる。
教室も騒然となった。そりゃそうなるわ。俺は健介含む男子全員から目の敵にされ、女子全員からは二股クズ男の烙印を押されて…
「沢人君…外に沢が流れてますよね。そう、沢人君の名前にもある沢です。緑が生い茂って川のせせらぎが聞こえるエモい場所ですよね?私と心中して下さい」
そして浮気を発覚した恋人に殺されるんだ。
「待って!ほんとに待って!」
俺は必死に明智さんを宥める。有栖さんはそんな俺の手を取って自分の腕に絡めた。
「沢人から告白されたの。俺と付き合って欲しいって」
してない!言ってない!
先日の図書館での出来事の意趣返しか⁉︎もしかして有栖さん、俺のこと恨んでる…?
俺は有栖さんに目を向ける。有栖さんはにこっと笑った。絶対恨んでるよ、これ。
「待て!健介!これは罠だ!俺は嵌められたんだ!」
「うっせー!嵌められたんじゃなくて、ハメたんだろテメー!ホテルでよお!」
そんな爛れた関係じゃねぇよバカ!
俺は必死になるが、言い訳や弁明をすればするほど怪しくなっていく…
「沢人君は浮気者です!」
明智さんはそう言って教室を出て行った。新学期早々にして最悪だ。俺の評判は地に落ちた。
クラスで五番目くらいの普通に可愛い女の子がエモく告白してきたので付き合ったら、学校一番の美少女に言い寄られるようになった 春町 @KKYuyyyk
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