第8話 帰り道

 俺は有栖さんを撃退?した明智さんと一緒に帰宅する。見慣れた通学路。石垣の桜並木がある坂を下りて、電柱の前の信号で足を止める。前方には神社、その向こうには山々と街を上から見渡せる展望所がある。


「明智さん。部活が終わったら連絡するって話だったのにどうして図書館に?」

「沢人君が有栖さんと手を繋いで歩いていたと運動部の方から聞きまして」


 明智さんはまだ根に持っているようだ。繋いだ手を強く握られる。


「有栖さんを口説いてたんですか?」

「口説いてないって!有栖さんに話しかけられたんだよ!信じてくれ!」

「では、逆に口説かれたと」


余計に明智さんを怒らせてしまった。


「…えと、そういうんじゃなくて、友達が欲しかったんじゃないかな。有栖さんは帰国したばかりで友達とか居ないって聞いたし」


 有栖さんはずっと教室に残ってたし、誰かと一対一で話せる機会を伺ってたんじゃないかな。最後まで残ったクラスメイトが俺だっただけで、有栖さんは単純に話せるクラスの友達を作りたかったんだと思う。


「どうでしょう。なんで私と付き合わないの?って沢人君に訊ねてましたが、あれは友達の域を越えるつもりの発言では?」


 明智さんは沢人の逃げ道を塞いでいく。曲がり角を曲がった塀に突き当たる。リアルな意味でも、弁論でも、俺は追い詰められた。


「…嫉妬じゃないかな。ほら、明智さんだって親友が彼氏に構いっきりだったらイラッとしない?」

「いえ、しません」

「ドライだなあ」

「でも沢人君が男友達とばかり話してたのはイラッとしました」

 

 明智さんは昼間の話しをする。自己紹介が終わってからは俺は明智さんよりも男子のクラスメイトとばかり話していた。


「だって!明智さんと話すたびに口笛鳴らされて冷やかされるんだよ!めちゃくちゃ恥ずいし!」

「いいじゃありませんか!公認カップルですよ!」


 明智さんはあの雰囲気でも大丈夫なのか?メンタル強すぎるだろ。


「…今日の事は不問にしますが、今後、不用意に西沢さんと"特に二人きり"とかで話さないように。困ったら私を呼んでください」

「はい」

「連絡先は貰ってませんね?」

「はい」


 俺は明智さんの尻に敷かれるままに頷いた。


「よろしいです」


 明智さんは俺の返事を聞いて満足したようだった。


 住宅街を抜け、交差点を曲がる。地元では一番の駅が見えてきた。自宅に近い駅に行く電車は50分に一度だけ。都会じゃない片田舎ならそんなものだろう。

 

「沢人君。また明日」

「また明日」


 駅を下りて、ちょっぴり都会風味を帯びていた街から一気に田舎っぽくなる。駐輪場で自転車に乗る。明智さんとは道が反対なので、駅で別れる。


「あ、沢人君!」


 自転車のペダルを踏み抜き、初春の風を感じた時だった。明智さんが俺を呼ぶ。


「西沢さんが顔も体も私のが上って言ってましたけど!胸は私の方が上です!」


 最後にそんな捨て台詞を吐いた負けず嫌いな明智さんは恥ずかしそうにはにかんで走って帰って行った。

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