第7話 エモい君は誰よりも

「沢人君。浮気ですか?」


 明智さんは真っ先に俺の浮気を疑った。信用されて無さすぎるだろ。まあ俺も明智さんがイケメンと一緒に話してたら浮気を疑うから当然っちゃ当然の反応かも。

 有栖さんは銀髪の髪をさらりと撫で下ろし、俺の目を見た。え?有栖さんが誤解を解く流れじゃないの?


「浮気じゃないよ!ほら同じクラスの——」

「西沢有栖さんですよね?"学校で一番可愛い女の子"と聞いてます」


 明智さんの目は据わっていた。俺を視線だけで問い詰める。


「有栖さんが図書館に行きたいって言うから色々教えてあげてただけだよ!ね?有栖さん?」

「沢人が行くから来ただけよ」


 有栖さんは「何かありまして?」みたいな顔をしてお嬢様っぽい(五十万円が入った財布を持ち歩いてる辺りお嬢様なんだけど)高級な羽根ペンで課題を解いていた。ちなみにエナドリは有栖さんの好みだったらしく、美味しく頂かれていた。


「沢人君?」

「い、一緒に課題をしてたんだ。ほら、分からないところを教えて貰えるし、俺は英語苦手で有栖さんは帰国子女だし」

「むう。そうだったんですね」


 割といい感じの言い訳だ。明智さんも疑ってはいるものの、追求はそこで終わる。俺はほっと胸を撫で下ろした。


「ところで沢人。まだ質問の途中よ」

「あ、ああ…どっか分からないとこあったかな?俺が答えられる問題なら——」

「沢人は何で明智よりも顔が良くて体も良い私と付き合わないの?」


 FUCK!答えられるわけねーだろ!


「へーそれは難問だなーそこは飛ばして次の問題行こうかー」


 俺は有栖さんの課題を1ページ捲った。


「沢人君???」


 逃れられるわけないですよね、はい。


「沢人?答えられないの?なら私と——」

「エモさだよ!」


 俺は咄嗟にそう叫んだ。


「明智さんには言葉に出来ない魅力がある。それを有栖さんにお見せしよう!」


 俺はそう言って明智さんの手を取る。


「えっと…沢人君。そんなに見つめられると…」

「明智さん。好きだ。愛してる。明智さんも俺に愛を囁いて欲しい」


 俺は周りの目なんか気にせず、明智さんに不器用ながら想いを伝えた。


「あ…えと、わ、私も…」


 プシューと顔を真っ赤にして湯気を出しながら、明智さんは言葉を紡ぐ。次の瞬間だった。


「————!」


 図書館の屋根に居た白バトが一斉に飛び立った。夕方の空を覆っていた雲が晴れてゆく。


「沢人君がずっと好きでした。私は引っ込み思案でいつも遠目から憧れることしか出来なくて、高校生になったら告白しようと思って頑張って一緒の高校まで行ったんですけど、告白までに一年も掛かっちゃって…そんなダメな私を愛してくれる沢人君を私は愛してます」


 オレンジ色の夕日がカーテン越しに差し込み、明智さんを照らす。それを見た俺は明智さんの内に秘めるポテンシャルを確信した。

 この子はエモさが上乗せされれば、学校で一番可愛い女の子と同等…いやそれを大きく上回るレベルで魅力的だ。明智さんに笑みを向けられた俺は思わず顔が熱くなる。


「有栖さん。これだよ、俺が明智さんに惚れたのは…ってなんかこれだと、そこしか見てないって思うかもだけど、俺は…って有栖さん?」

「…っ!…っ!」


 有栖さんは悔しそうに唇を噛んで、目には涙を湛えながら明智さんを睨んだ。そのまま荷物を持って自習室を後にした。


「えと…私、なにかしました?」


 明智さんは有栖さんの涙を見て、悪びれたように首を捻った。

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