第6話 図書館
「貴方のこと」
突然のラブコールに僕は心臓が止まりかけた。なんで学校一番の美少女に急に告白されたりしてんだよ、俺。もしかしてこれは夢?白昼夢?
「そ、そうなんだ。へぇー…へ、へーすごいなー」
もしかしたら友達が欲しかっただけかも、と思った俺は当たり障りのない返事をする。有栖さんは俺が知る限り、と言っても友人からの又聞きなんだけど、小学校まで海外に住んでいて、中学校に入ると同時に帰国したらしいので友達がいないらしい。だから海外のノリ的な、男女関係なく仲良くしようぜ!なノリを参考にしたのかも!というかそれしか考えられない!よし!友達路線で行こう!
「俺は図書館行くから。また明日ね」
「私も行く」
「え、」
声が裏返った。
「図書館って隣にある浜海図書館よね?私も行くわ」
「有栖さんも図書館に本を読みに行くんだ」
「いいえ。沢人が行くって言うから着いていくだけよ」
なんでこんな懐いてるんだろ。話しかけやすいオーラとかあったのかな。
「そ、そっか。じゃあ一緒に行く?」
「うん」
俺は連れ歩き機能が備わったゲームのモンスターみたく、真後ろにピッタリとくっついて歩く有栖さんと図書館へ向かった。図書館は一階の購買を抜けた裏出口から行ける。階段を降りて、廊下を渡る。やっぱ注目されてるな。銀髪の美少女を連れてるんだもん。特に男子からの殺意がヤバい。トレーニングで内周を走っている運動部が過ぎ去るたびに舌打ちしてくる。
浜海図書館に着いた。俺は改札口で学生証を提示して中に入る。有栖さんは改札の前で止まっていた。
「学生証ないの?」
「…忘れてきたわ。このまま通ったらダメかしら?」
どんなパワープレイだよ。普通に警報鳴らされるわ。
「忘れてきたんなら職員さんに説明すると入れて貰えるはず」
たぶん。学生服着てるし入れてくれるだろう。俺が有栖さんに言うと、有栖さんは硬直した。…もしかしてコミュ症?
「あの、すみません。えっと、有栖さん…あ、そうです。学生証を忘れて…」
有栖さんは黙ったままだし、俺が話を通すことになった。受付カウンターに入るプラカードを下げた司書さんに有栖さんが学生証を忘れたことを告げた。
「よかった。入れるってさ」
司書さんのカードで入れてもらえることになった。有栖さんはよほど図書館に入れて嬉しかったのか、俺の袖をキュッと掴んだ。やっぱり友達が欲しかったのかな。
「有栖さんは読みたい本とかはある?」
「ないわ」
俺はタッチパネルの前で有栖さんに読みたい本を聞いた。あれば検索するつもりだったんだけど、要らぬお節介だったみたい。
「俺は自習室で課題をやるつもりだけど、有栖さんも来る?」
「ええ」
有栖さんは頷いた。自習室は図書館一階の左手左横にある窓ガラスで仕切られた一画だ。俺は空いている席を探す。やっぱり自習室はそれなりに人がいた。皆、有栖さんを見ている。
「有栖さん、自販機で飲み物買ってくるけど、リクエストある?」
空いている席を見つけた俺は勉強道具一式を置いて、眠気覚ましと集中力向上の為にエナジードリンクを買いに行く。それが自習室でのルーティンだった。
「沢人と同じもの」
「エナドリ、結構キツイけど大丈夫?」
「構わないわ」
有栖さんは俺と同じエナドリが飲みたいと言う。そして俺に財布を手渡した。
「中に五十万ほど入ってるわ。貴方の分も合わせて足りるはずよ」
「いや十分過ぎるよ!なんなら俺が奢るし!」
五十万円⁉︎学生が持ってていい金額じゃないし、それを俺にぽんと預ける有栖さんの価値観もだいぶおかしい!
「気にしないで。私は持ってても使わないから」
有栖さんはそう言って財布を俺に手渡した。妙に軽い。たぶん現金だと入りきらないからキャッシュカードに入れてるんだろうな。
俺は押しに押されて自販機までエナドリを買いに行く。好きなのは緑色のやつ。有栖さんは俺と同じのって言ってたし、同じやつでいいか。勿論、有栖さんの財布は使わない。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
俺は有栖さんに財布とエナドリを手渡した。有栖さんは興味深そうに缶のデザインを眺めている。俺はプルタブを開けて、中を一気飲みした。エナドリ特有の香りと味。脳がシャキッとする。
「俺は明智さんが部活終わるまで勉強するつもりだけど」
「私も課題をするわ」
有栖さんも俺と同じ課題を出す。まあクラスが同じだしな。与えらたのは英語と数学。うぇぇ…どっちも苦手教科だ。
「沢人」
英語の文章問題を解いていると、有栖さんが俺を呼んだ。
「貴方は明智と付き合っているの?」
「そうだよ」
突然の質問に俺はドギマギしながら答える。
「明智のどこが好きになったの?」
再び有栖の質問。俺は答えに迷う。
明智さんとはその場のテンションで付き合ってしまった。明智さんは俺のことをよく知ってるけど、俺はあんまり知らない。
「顔と——体」
うん。やっぱクソ最低だわ、俺。性格とかもっと言いようがあったのに。肝心な時にクソみたいな受け答えしか出来ない。まあ顔は可愛いし、体も、その…女の子らしいとは思う。でも俺が彼女に見惚れたのは、違うんだ。もっと心の奥底を揺さぶられる——
「顔なら私の方がいいわよ。それに体も」
え、え、ええ〜…有栖さんの堂々とした自己評価の高さに俺は言葉を失った。
そりゃクラスで五番目くらいに可愛いかなって女子とダントツ学校一の美少女は比べる相手が悪いでしょ。合コンで出会った女の子に対して、「あの子、可愛くね?」「でも橋本環奈よりはブスだよ」って言ってるようなもんじゃん。
「そ、そりゃまあ…有栖さんは美少女だよ。うん」
「ならなんで私と付き合わないの?」
な、なんだよこの子!強すぎる!
俺は「あ、あ、あ…」とカオナシみたいになるしかなかった。最強の理論武装。目の前に言葉の銃火器砲を構えた少女が座って、真っ直ぐな目でこちらを見ていた。
「——沢人君?そちらの方は?」
部活を終えた明智さんがやってきた。俺と有栖さんを見て訊ねる。
あ、俺の人生、終わった。
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