第2話 なんかデートすらエモいんだが?
「沢人君。この服はどうですか?」
「ん、ちょうどいいサイズかも」
「ズボンも合いますか?」
「今から合わせてみるよ」
俺は明智さんに近所の古着屋専門店でコーディネートされていた。明智さんの好みはバンドマンっぽいダウナー系の服らしい。ダメージジーンズやジャケットなんかを着ると目を輝かせて喜んでいた。
「あ、凄い似合います!今度はこのシャツも合わせてみて下さい!」
「ちょ、ちょっと供給過多すぎる!今度は俺が明智さんの服を選ぶよ!」
「わかりました。じゃあ沢人君が私の服を選んでいる間に今合わせた服を私が購入しておきますね」
明智さんは俺のサイズに合った服をカートに入れて会計へ向かおうとする。
「ちょちょ!明智さん!」
「どうしました?」
「どうしました?じゃなくて俺が払うよ!」
きょとんと首を傾げる明智さん。俺はすかさず財布を取り出す。流石に彼女とデートに行って、自分の服にお金を出してもらうのは恥ずかしい。
「お付き合いの記念日として私にプレゼントさせて下さい。それほど高いものでもないので」
「なら、俺も明智さんの服をプレゼントするよ」
買うと言って聞かない明智さんに折れる羽目になった。仕方ない。ならせめて、俺の服よりも高くなるように明智さんにプレゼントしないと。
「この服なんてどうかな?」
俺が選んだのは白いワンピース。桜柄があり、出会った日を想起させるような一品だ。
「ちょっと派手じゃないですか?」
「いやいや、すっごく似合うよ!」
試着室で着替えた明智さんはそう感想を溢すが、とんでもない。
「綺麗ですか?私が?」
「明智さんは綺麗だよ!」
自己評価が低い明智さん。まあ学校じゃモテてるわけじゃないしね。でも学内でアンケートを取ったら間違いなく美人というカテゴリーに収まるはずだ。もっと誇っていいんじゃないかな?
「その服の値段は…げ」
三万円。高校生のお小遣いじゃ手が届かないほど高額だった。どうしよう。大見得を切った手間、ここで引くのは男らしくない。俺は今まで貯めてきたバイト代を叩くことにした。
「お会計は現金でよろしいですか?」
「あ、カードで」
さよなら。俺の汗と涙の結晶。
「あ、ありがとうございます!こんな私なんかの為に!」
「気にしないで、安かったし…うん」
俺が買ったワンピースがよほど気に入ったのか、明智さんは制服に着替え直すことなくワンピースを着たまま通学路を歩いていた。
「一緒に帰るなんて初めてですね」
「そうだね。今まではずっとクラスも合わなかったし」
もう外は夕焼けも落ち切って真っ暗。春先の少し肌寒い、芽吹くような風が肌を抜ける。石垣の長い坂を二人で手を繋いで歩く。
「あ、見てください!」
明智さんが坂の上を指差した。俺たちが付き合うことになった桜が、街頭の光を浴びて淡い神秘的な眩きを放っていた。
「えへへ…私が告白した桜ですね。もし良ければ、ここを二人の記念の場所にしませんか?」
軽やかな足取りで坂を上った明智さんははにかみながら俺の方を振り返った。
桜を背景に白い桜柄のワンピースを明智さんが映る。街頭の光も桜じゃなく明智さんのスポットライトとなっていた。
「ああ…やっぱ」
俺の彼女は最高にエモい。
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