クラスで五番目くらいの普通に可愛い女の子がエモく告白してきたので付き合ったら、学校一番の美少女に言い寄られるようになった
春町
第1話 あの桜並木で
新学期。四月。
桜並木の丘で俺、名倉沢人は告白された。
薄紅色の花びらが舞う。なんの変哲もない通学路の住宅街が、その瞬間だけはまるで映画のワンシーンに思えた。
「好きで、でし!付き合ってください!」
そんな大事な場面で緊張からか、台詞を噛みながら告白してきた女子の名前を当時の俺は知らなかった。ただ何となく可愛いな、とは思ったけど。
良い匂いがしそうな黒髪ショート、寒がりなのかマフラーにカーディガンを羽織っている。背は低め。後輩っぽい女の子だった。
「いいよ」
俺には今まで彼女がいなかった。友達は皆彼女持ち。密かなコンプレックスであった彼女いない歴=年齢を脱するいい機会だなと、まあ告白をOKした理由を後付けするならそんなとこだろうか。でも、そんなちんけな理由なんか吹っ飛ぶぐらいエモかった。
光が差し、桜が祝福するように俺たちを包む。可愛いけど、学校一とかそこまでではない女の子がこの瞬間は世界で一番可愛いと思えたんだ。
「本当でしゅか⁉︎」
その女の子は俯いて必死に目を瞑って告白の返答を待っていたようだ。俺がいいよと言うと、その子はぱあっと明るく花ひらいた。クソ。なんだか悔しいぐらい可愛い。普段は校内ですれ違っても気に留めないくらいの女子なのに、この舞台装置が彼女を最高のヒロインに仕立て上げていた。
「私、沢人君がずっと好きで…!」
そう言ってその子は嬉しさからか泣き始めた。後の二年次クラス発表で俺は彼女の名前を知ることになる。
名前は明智桜。俺と中学が同じ友人の話によれば高校どころか中学まで一緒の女の子だったらしい。どういうわけか、俺は明智さんと五年間ずっと違うクラスだったようだ。ずっと憧れて、同じクラスになった日に告白。なんでこんなにエモいんだよ。
☆☆☆
高校二年生になって初めてのホームルームが終わった。
「よっすー沢人、また一緒だな」
「健介!」
同じクラスには友達の山口健介がいた。よかった。これで一年はボッチじゃない。
「お前、明智と付き合ったってまじ?」
「あーマジ」
「お前ら、なんか接点あったっけ?」
「中学が同じらしい」
中学が同じだけで今まで一言も喋ったことがない(たぶん)けど。
「へーじゃあもうセックスしたのか?」
「バカ!お前!」
「まだ童貞なのか、ヘタレめ」
「当たり前だろ!昨日の今日だぞ!」
デリカシー皆無な健介はまだ生徒が沢山いる教室で最低な質問をしてくる。誰がヘタレだ。俺はヤリチンじゃない。付き合ってすぐにラブホ直行なんて品の欠片もない男女付き合いは嫌だ。
「相変わらず、沢人はエモ信だなー」
エモ信とはエモーショナル信者の略で、青春映画鑑賞や全国の美しい情景を写真に納める趣味から、俺は仲間内でそう呼ばれている。
「普通に考えてみろ。いきなりラブホなんか誘ったらそっこーフられるだろ」
俺がそう言うと、健介はいやいや、お前はなんにもわかってない!と言いたげに首を横に振った。
「あーゆー女子に限って、意外と性欲は強いんだよ。試しにラブホ街の近くでデートしてみろよ。きっと『終電…逃しちゃいましたね…』ってお決まりのセリフが!」
「山口さん?」
健介が一人盛り上がっていると、凛と臓腑に響く声が。明智桜さんだった。
「あ、明智さん?」
「山口さん。沢人君をお借りしてもいいですか?」
「は、はい!構いません!どうぞ、お持ち帰り下さい!」
健介は明智さんを見て、逃げるように教室を出て行った。気がつけば他のクラスメイト達も部活やら帰宅やらで居なくなっており、教室は俺たち二人になっていた。
「沢人君、一緒にデートしましょう」
ニコッと可愛らしい笑みを浮かべる明智さん。微風がカーテンを揺蕩わせ、夕陽が机に差し込む。放課後二人っきりの空間が美しい情景に彩られていく。
ちくしょう。なんでこんなエモいんだ。
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