第2話 欠陥奴隷はスキルを集める

 進化した【死体漁り+】の効果を実感した俺は引き続き死体を探した。

 いつもなら金目のない死体は放置するところだが、今夜は違う。

 他人にとっては無価値なものでも、俺からすれば大金よりも高価であった。


 スキルとはそれだけ有用なのだ。

 レベルが低いままなのは不便で、強くなるのは不可能に近い。

 ただし、新たにスキルが得られるのなら別である。

 様々な補正が加われば、必然的に強くなれる。


 今はまだ不安定な能力だが、いずれ英雄に匹敵するだけの強さを獲得できるのではないか。

 俺はそれを確信していた。


 夜の貧困街を血眼になって徘徊する。

 端々にまで意識を向けて死体を探した。


 あまり不審な態度にならないように意識だけする。

 他の奴らに目を付けられると厄介だ。

 最悪、死体の仲間入りを果たすことになってしまうかもしれない。


 そうして慎重ながらも必死に探すこと暫し。

 俺はごみ溜めに転がる死体を発見した。


「あった……」


 俺はすぐさま駆け寄って調べる。

 全身に打撲痕があり、頭から血を流して死んでいた。

 空の財布が落ちているので、金銭目的の暴行だろうか。


 そばに血の付いたナイフが落ちていた。

 よほど慌てていたのか、犯人は凶器を捨てたのだろう。

 或いは金を手にして舞い上がったからかもしれない。


 どちらにしても俺には関係のないことだ。

 真相なんてどうでもいい。

 ナイフを貰った俺は、死体からスキルを奪い取る。



>スキル【奇襲】を取得

>スキル【闇討ち】を取得

>スキル【剛腕】を取得



「よし!」


 俺は拳を握り締めて喜ぶ。

 今回も三つの新規スキルを獲得できた。

 貧民街の住人であるためか、後ろめたくなるようなスキルが多い。


 取得するスキルは、本人の行動や素質にとって変動すると聞いたことがある。

 この死体は碌な人生を歩んでいないのだろう。

 まあ、最弱の【死体漁り】しか持っていなかった俺が癒えた義理ではないが。


 死体のそばで物音して、俺は驚いて身構える。

 そこにいたのはネズミだ。

 ネズミはパンの破片を齧っている。


 見慣れた光景だった。

 立ち去ろうとした俺はふと足を止める。

 再びネズミに注目して、考える。


(人間以外の死体からでもスキルが奪えるのか?)


 閃いたのだから試すしかない。

 俺はネズミに向かって飛びかかり、手に入れたナイフを突き刺して殺す。

 ネズミは小さく鳴くと、それきり動かなくなった。

 俺はネズミの死体に触れる。



>スキル【夜目】を取得

>スキル【警戒】を取得



 予想通りの結果だった。

 俺の【死体漁り+】は、人間以外の死体からでもスキルを奪えるらしい。

 この発見は大きい。

 本来、人間では取得できないスキルも得られるということだ。

 俺だけに許された特権と言えよう。


 俺は余計に気分が上がり、嬉々として貧民街を探索した。

 次に見つけた死体は、廃屋の痩せ細ったものだった。

 おそらく餓死だろう。



>スキル【隠密】を取得

>スキル【気配察知】を取得



 息を潜めることに長けていたらしい。

 ありがたく使わせてもらうことにしようと思う。


 俺はステータスを展開して獲得したスキルを見直す。

 そのうち【夜目】【警戒】【隠密】【気配察知】の四つを有効化させた。

 いずれも消耗なしに発動できる上、常に使い続けることで効果を発揮する。


 他の消耗しないスキルも発動してもいいが、今はやめておく。

 複数のスキルを同時に使うことに慣れていない。

 まずは必要な分だけに留めておく。

 慣れてきたらもっと自由にやれそうだった。


 今後、さらに大量のスキルを取得することになる。

 練習が必要だろう。

 現在、若干ながら意識を割かれている感覚があった。

 自然と切り替えられるようにしなければ。


 俺はじっくりと貧民街を練り歩く。

 貧民街には頻繁に死体が落ちているが。そこら中にあるわけではない。

 死体で空腹を凌ぐ連中もいる。

 なんだかんだで無くなってしまうのだ。

 せっかくのスキルが失われては困るため、俺は休憩する間も惜しんで探し続けた。



>スキル【暗殺】を取得

>スキル【苦痛耐性】を取得

>スキル【反撃】を取得



 ごみの山に埋もれた死体は、黒衣を身に纏っていた。

 おまけに顔の皮膚が剥がされている。

 拷問されたのか、それとも素性を隠すために自らやったのか。


 手に入ったスキルから考えるに、暗殺系統の仕事をやっていたらしい。

 貧民街にはそういった人間も多い。

 裏稼業の拠点とするには適した場所なのだ。


 大半の人間は碌な最期ではない。

 目の前の死体も珍しくない。

 俺はこんな姿になりたくなかった。

 だから頑張るしかない。



>スキル【一撃必殺】を取得

>スキル【刺突】を取得



 路地のど真ん中に倒れた死体は、顔を知っていた。

 確か傭兵をやっていた男だ。

 色々と恨みを買っていたが、ついに殺されてしまったらしい。


 俺とは縁が無かったので特に同情はしない。

 有用なスキルをくれたことには感謝しておく。


 その時、背後から一つの気配が接近してきた。

 いくつかのスキルが反応して分かったのだ。

 俺は素早く振り向いてナイフを構える。


「……おい、てめぇ。何をしていやがる」


 月明かりに照らされる人影。

 厳めしい顔で歩いてくるのは、日雇い労働者のガイナ――昼間に俺を痛め付けた男だった。

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