第3話 欠陥奴隷は復讐を遂げる

 ガイナと対峙した俺は硬直する。

 全身の痣が疼くも、歯を食い縛って耐えた。


 怯んではいけない。

 俺は変わるのだ。

 ここで弱気になれば、今までのままだ。


 ナイフをさりげなく隠した俺はガイナに話しかける。


「何をしようと俺の勝手だろう」


「生意気な態度だな。今朝は殴られ足りなかったか?」


 ガイナは鼻を鳴らして応じる。

 完全に舐め切った態度だ。


 俺は中指を立てて挑発を飛ばす。


「やってみろよ、クソ野郎」


「てめぇ……ッ!」


 顔を真っ赤にしたガイナが殴りかかってきた。

 俺は咄嗟に腕を上げて防御する。


 強烈な衝撃と共に地面を転がった。

 いつもなら察知する前に吹っ飛ばされていた。

 こうして反応できたのは大きな成果だろう。


 ただ、腕が痛む。

 骨は折れていないようだが、何度も防ぐのは難しそうだ。


「オラァッ!」


 ガイナが勢いのついた蹴りを放ってきた。

 それが顔面に炸裂して脳を揺さぶられる。

 鼻が焼かれたように熱い。

 血が出ているのだろう。


 立ち上がろうとしたところで、腹に蹴りを食らった。

 俺は身体を丸めて唸る。

 内臓がひっくり返ったかのような激痛だ。

 気を失いそうになるも、根性で引き戻した。


 その後もガイナから一方的に攻撃される。

 俺はあえて受け続けた。


 反撃しないことには理由がある。

 油断を誘っているのだ。


 まともに戦えば、勝ち目がない。

 スキルをたくさん手に入れたが、無視できないほどにレベル差が大きい。

 下手に反撃して戦いが泥沼になると、殺される恐れがあった。


 せっかく逆転の機会を得たのだ。

 絶対に無駄にはできない。

 感情に流されず、最も勝てるであろう方法を掴むのである。


 満身創痍の俺は首を掴まれて持ち上げられた。

 足が地面から浮く高さにまで上がる。


「クズが調子に乗りやがって……」


 ガイナが勝利を確信した笑みを浮かべていた。

 俺を痛め付けることを楽しんでいる。

 そのため注意が疎かになっていた。


 ある意味、当然の反応だろう。

 本来なら最弱の欠陥奴隷を警戒する必要なんてない。

 これまでずっとそうだった。

 いきなり意識を変えるわけがない。


(それが弱点だ)


 俺はナイフを背中に回して握っていた。

 ガイナから見えない位置だ。

 最初の一撃に全力を注ぐ。

 それが最善だろう。


 まずは【不意打ち】【奇襲】【暗殺】の三つを有効化する。

 技能を向上させて攻撃の成功率を上げた。


 次に【短剣術】だ。

 ナイフを使うのだから発動した方がいい。

 分類上は短剣に該当されるので、威力や扱いに補正がかかる。


 この体勢からだと【反撃】【一撃必殺】も重要だ。

 どちらも状況に合ったものである。


 さらに【剛腕】で純粋な強化も施した。

 非力な俺でも上手くやれるようにしておかなければ。


 仕上げに【刺突】を使う。

 これで攻撃方法が確定した。

 他のやり方は捨てる。

 スキルに頼るしかない俺に選択肢の余地は無かった。


 その間にガイナが俺の首を絞めていく。

 呼吸ができず、意識が遠のいていく。

 今回は本気で殺すつもりらしい。

 俺が反抗したのがよほど気に障ったようだった。


 ガイナは愉悦を感じている。

 そこには大きな油断が生じていた。

 俺の苦しむ顔を満喫している。

 自分が生き残るものだと確信しているのだ。


「……食らい、やが、れ」


 俺はナイフを持った手を動かす。

 ナイフは吸い込まれるようにガイナの首筋へと突き立った。

 刃が深々と刺さっていく。

 骨に当たるような感触しても、強引に奥へ突き込んでいく。


「ぁ、え……?」


 ガイナが呆けた顔をした。

 握ったナイフを引き抜くと、鮮血が噴き上がった。

 真っ赤なそれが顔を濡らす。


 ガイナは俺を掴んでいた手を放すと、尻餅をついた。

 呆然としながらも、首の傷を手で押さえている。

 尚も出血は止まらない。

 明らかに致命傷であった。


 途端、ガイナは血を吐きながら苦しみ始める。

 呼吸ができなくなったのだ。


 俺は悶え苦しむガイナに馬乗りになると、ナイフを逆手に持ち替えた。

 そして、ガイナの背中を滅多刺しにする。

 溺れるような悲鳴を聞きながら、何度もナイフを上下させた。


 何十回か刺したところで、ガイナを蹴って仰向けにする。

 さらに腹や胸を何度も刺しまくる。


 その頃にはガイナは、まともに抵抗していなかった。

 虚ろな目で空を見上げている。

 傷の出血も勢いが落ちて量が少ない。


「はぁ……はぁ、はぁ……」


 やがて腕が疲れて持ち上がらなくなった。

 俺は汗を垂らしながらガイナの顔を確かめる。


 ガイナは既に絶命していた。

 いつの時点で死んでいたのだろうか。

 まったく気が付かなかった。

 必死になって刺しすぎたようだ。


 俺はナイフを捨てると、首を撫でながら呼吸を整える。

 返り血塗れでガイナの死体を蹴った。


「クズは、お前だよ……」


 俺がレベル6の無能だと油断した。

 それが最大の敗因だろう。

 重い身体を動かして滅多刺しの死体に触れる。



>スキル【格闘】を取得

>スキル【痛打】を取得

>スキル【強打】を取得

>スキル【蹴撃】を取得



 ガイナは日雇い労働者だ。

 仕事関連のスキルを持っているかと思いきや、すべて戦闘系だった。

 前から妙に腕っ節が強いと思っていたが、まさかここまで尖った能力だったとは。


 想像以上の実力者だったらしい。

 一撃での殺害を選んだのは本当に正解だった。


 それにしても欠陥奴隷と呼ばれる俺が、ガイナを殺す日が訪れるとは思わなかった。

 まさに人生の転機である。


 いきなり進化した【死体漁り+】は本当に強い。

 改めてこのスキルで這い上がろうと俺は決心した。

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