第5話 神の存在
この一週間で情報を得たもの。
私は少しずつ両親や使用人、書庫等で怪しまれない程度に探りを入れていた。
今この世界は日本で言う春の季節であること。私小林朝香もといルナーサは先週7歳になったこと、7歳になるとこの国の決まりでお告げを貰うということ。
お告げとは私の前世で作り出した話の中でも多少出てきていたが、この世界に住む人は皆生まれ持った特殊能力を隠し持っている。7歳になると王都にある協会で儀式を行い、魂に隠されていた能力を見ることによって正式にその力を得るというもの。能力は様々であるが主に戦闘に向いた能力、知恵の能力、治癒の能力、自然の能力に分けられるということ。
その能力を携え子供達は学園に通いだし、ある程度の勉学と魔法に対する知識、実践をした後に能力を発揮できる部門の職に皆つくのだそうだ。
我が家の姓はパルリエ、両親共に魔法薬に特化した能力者でこの国では結構名の知れた人物らしい。そして一人娘として私はルナーサが生まれた、という事になっている。
我が家はシナリオには登場したことがない、いわばイレギュラーな一族である。あの風を吹かす者が都合良くする為に書き足したキャラクター達だ。
これまで両親はあえて王都から離れたこの土地で暮らしていたが、娘が学園に通うことになり元々王都にあった別宅に一家で移住する事に決めたそうだ。なんでもここは魔法薬に必要な材料を自分達でも採れるという最適な条件があるらしい。研究熱心なのは良い事である。そんな好条件のこの場所を離れる決心をしたのは両親が一人娘をそれだけ愛しているという証拠である。
ふと、自分の両親はどうだったかなと考えた。こんなに部屋に籠り文字しか書かない、まともに就職もしなかった娘を文句も言わずに自由にしてくれたことから、案外自分も愛に恵まれていたのかもしれないな、と思う。
さて、話を続けよう。そもそもこの国の創世記には大魔法士アミージョによって建国された、という事になっているらしい。アミージョは雨を降らせ、植物を植え、人やその他生き物全体を支えている存在であった。
アミージョは大まかに言えば神々の一種なのであろう。
アミージョは人々に魔力も授けた。無限の魔力からそれぞれ受け取った民は自分たちで国を発展させるまでに成長する。人々はアミージョを絶対的存在として崇拝していたが、アミージョは突然姿を消してしまう。
悲しみに暮れた人々であったが、国を治める王が現れると次第に大魔法士アミージョの存在は古くに伝わる伝説として語られる程度になっていった。
「……アミージョなんてキャラクターもいなかったはずなんだけど、漫画オリジナル要素とかかしらね」
原案者とはいえ漫画になる段階で多少のアイディアや設定が盛り込まれるのはよくある事だ。Web漫画となるとより魅力的なキャラクターやオリジナリティーを作っていかないと読者の注目も得られない。
――
王都に移り住むまでにこの屋敷全体は荷造り等でとてもバタバタとしていた。ここに残る使用人も居るのだが、大半は一緒に王都の別宅に連れていくそうだ。
新居に持寄る荷物も結構な量があるらしい、皆忙しなく木箱に入れていく。
「お嬢様、こちらは持っていきますか?」
「そのぬいぐるみ達はここに置いていくわ。その代わり沢山本を持っていきたいのパメラ」
パメラ、この度王都に行くタイミングで私専属になったメイドである。これまでは両親がほとんど家にいて私もその傍を離れなかったのでお抱えのメイドは要らない状態だったそうだ。数人で私の身の回りを世話してくれていたらしいが、王都の学園内にも皆メイドを連れていくのが普通らしくこの機に専属従者を、という事で一番気の利くパメラが選ばれたのである。
パメラは薄いブラウンの長い髪を後ろに纏めているとても綺麗な顔立ちの人物だ。年齢は恐らく二十代半ばくらいだろうか。
「パメラ、王都の別宅にも書庫はあるのよね?」
「ふふ、お嬢様は本当に本が好きなのですね。ありますよこの館の書庫より大きなところです」
「なら沢山本が読めるのね。……もちろん勉強もするけど私この国の話を読むのも好きだから嬉しいわ」
パメラは私の読書癖を何も言わず支えてくれる存在である。私が持ち出した本を見付けるとそこから興味のありそうな本をいくつか持ち寄ってくれてこの世界特有のよくわからない言葉も教えてくれる。
「……明日ついに王都に行くのね」
「心配ですか?」
「ううん、パパやママも皆も一緒だし、それにパメラがいるから」
パメラに微笑みかける。ここに来てから子供らしい言動に気をつけてはいたが何も考えず自然体で接せるパメラの存在は大きかった。
パメラは普通より大人じみた子供のルナーサを尊重してくれる人だと思っている。
知らない土地(まぁ私の作った物語だが)で心細かったがやって行けると思う。
問題はお告げや学園生活、そして一番の難題である死んでしまったキャラクターを探しだし救う必要があるということ。
何度も考えたが私の頭の中に残っているシナリオでは該当人物は見つからなかった。割と中盤に死んでいるということ、だけはわかるのだが私は残念ながら漫画の方はまだ読んでいないのである。初版を頂いてはいたのだが、原稿執筆作業に集中するとそれ以外に手を出さなくなるところが仇となったか。
主人公達が今シナリオのどこにいるのかも分かっていないのだからとにかく王都に行って手がかりを探すしかない。
あっという間に準備期間は過ぎ、私達は王都に向けて馬車に乗り込んだ。
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