第5話 交わればグレー
「幸、不幸も不平等の方が蜜の味ってあれ間違ってたよ。」
そこは、客の多い大衆居酒屋。商店街の一角にあるお店なので、広くはない。若者客が多く、その中にまばらに中年層の男性客も紛れていた。
「はは。この間はこんな狭いお店で騒いでたんだっけ。」
「ごめんね。」
なぜか、今日は
「やっぱり、誰しもが平等に幸せになってほしいよね・・・。」
「蜜の味だよ。」
「え?」
「だから、幸せになる過程が不平等の方が、
才能に別があることの方が・・・蜜の味だったんだよ。」
「はぁ?お前また、人の不幸を笑おうって言うのかよっ!!」
如月は、怒ってテーブルを押して勢いよく立ち上がった。ガタン、刹那、テーブルは鳴った。
「ぁっ。」
如月は、少し冷静になりそして周りを気にしてからまた、座りなおして声を
「最初に言った、『間違ってた』ていうセリフはなんだったの?」
「だから、幸、不幸、は平等にあるといい。だけど、その過程や、才能は同じでない方が、もしくは多少の上下があったほうが興じられると思う。」
「え、え…?なんか話の内容変わってた?確かに黒飛さんは、不幸だったけど
幸せになれた?」
テーブルにおちょこを戻そうとテーブルに触れたとき、おちょこがカタカタと少し震えた。如月にバレないように、ふーっと息を吸いなおして、そっとおちょこを定位置に戻した。
社員寮の一室——
黒飛
「なに、なんだろう、なんていうか、懐かしい…。」
法華は、腕を背後に伸ばしてテーブルの上でリモコンを手探りで探し、掴むとテレビのスイッチを入れた。
「デ・ジャ・ヴュ?」
『…なずな…。』
「えっ?」
カタン。法華は、驚いてのけ反ってテーブルに寄り掛かった。
「なにか、声が?え、だれの…名前?」
『今日、六本木の貴金属店に、複数の男が押し入り、店員を銃で脅し、店内のショーケースを壊して店内のすべての貴金属を奪って逃走しました…
店員、お客の3名が軽傷を負い、他は無事でした…。』
「え!強盗?!」
テレビの中でキャスターはニュースを読み上げていた。
「嫌々。世の中ってなんでこんなにおかしいのよ!
今も続くアジア圏の国の、A政党とB政党の紛争って何よ?
日本だってなんて非道な犯罪が…。わたしは絶対B党派よ。」
『…リ・ワース国の政党Aだ。』
「…?!」
テレビの方から声がした。法華は目が点になった。
「え?テレビから声が?!」
『お前は、末裔。世界宗教の一つジュエ教のある宗派の末裔。』
「は?あ?あのテロリストだらけの宗教と私がなんの関係があるのよ!」
テレビはまだニュースを続けていた。さきほどの不可解な声がなかったかのように。だがまた、ジジジッと変なノイズが聞こえた。
『だがその宗派は今はない。とうの昔に滅びた。』
法華はぽかーんと口を開け先ほどの声を聞きつつ、まだ流れ続けているニュース映像をじっと見つめた。もちろんテレビニュースはキャスターが通常のニュースを話しているに過ぎない。そこに紛れて不可解な声が入り込む。
『なぜ滅びたのか。それは悪質な宗派だったからだよ。』
「邪悪?」
法華は眉を
『想像するに、君は、犯罪者の血を受け継ぐ。』
「いやっ!!」
法華は手で頭を抱え頭を振った。
『血に呪われし、だけど無垢な法華に罪はない。』
「真実だとして、私に死ねと?」
『ただ…血を浄化するのみ。』
「死ねと?」
『違う。愛しい人を愛してみればいい。自己の与えられた責任を果たして、周りに身を委ねればいい。』
「…愛は呪いをこえると?」
『君の母が君を産み落としたように、愛は浄化を促す。』
法華の脳裏にゆらゆらと女の笑みが滲んで消えた。
『愛しい人の名前は?』
「まだ、わからぬ。」
法華は、ピッとリモコンのスイッチを押した。
と同時にめまいがして、ベッドの布団の中にもぐりこんだ。
そうして、あおむけに姿勢をととのえると、そのまま意識は遠のいていった。
空即是色 1 空に言えば 夏の陽炎 @midukikaede
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