第2話 Secret Garden
「はじめまして、三明です。そして彼が…
「はじめまして、成田
そして、先日、亡くなった雁井 なずなの彼氏です。」
「以前懇意にされていた話ですよね。この度は、心からお悔やみ申し上げます。」
唖然とするくらいの綺麗な眼をしている三明は、さっと隣に座る碧に視線を配り挨拶を促した。
「申し遅れました、美青翠です。よろしくお願いいたします。」
「よろしいのですか、今勤務されている時間にお招きいただいて。」
湊は刺さらない眼光が自分の持ち味とばかりに、ミーティングルームの空気感をゆるく流した。
「美青の心の痛みは、会社としても大事な問題です。
湊さんは、世の中を上手に捌いていると聞いています。」
「曲りなりですけどね。」
碧がぴくっと肩を震わせた。
「湊さんはお手の物ですものね。暴力団員の娘のなずなさんといとも簡単に夫婦まがいになってそして、彼女は、今は…。」
皮肉って言ったつもりだったらしいが、天性の優しさが声となってポトリと床に落ちた。
「途中まで築くことは誰にだってできます。
だけどね、その続きを作るのに」
「まあ私も一人でやってきたわけじゃもう全然ないですからね。」
僕のなだめより、三明の落ち着いた声音のほうが説得力がありそうだと湊は思った。
閉口——してやらないと今日は決めたはず
浮きにしもだって湊はこうして一人の一人前のプロフェッショナルとしてこれから生きていくと決めたのだから。
「カラスってなんであんなに近づきずらい風貌と声をしてるのに、
じっと見入る瞬間を与えてきてそしてその背中は哀愁を感じさせると思います?」
三明は興味深げにうなずいた。トンと、唖然とする碧の肩に肩を寄せた。
「哀愁がなければカラスはたとえばあの無法な女郎の食い物になるでしょうね。だけどか弱さだけだともはやこの世には存在しない。
つまり物事はプライドと自信喪失のオンオフが重要なんですよ。」
「使い分けた湊さんはなずなに次の人生を与えたのか、な。」
ふふっと笑った湊はガラス付きの扉の向こうに女の子の影を感じて凍り付いた。
「…僕は僕はただ夢中だっただけなのかもしれない。融通の利かない彼女独自の生き方という世界に迷い込んでゲームを楽しんでいたかったのかもしれない。」
影はこれ以上扉にかかることもなく、すーっと消えていくのは、もうこの世にいない幽霊そのものだった。『偉そうに』という憎まれ口をもう与えてはもらえない。
「黒飛さん?さっき頼んだ書類は処理してくれたかしら?」
外から声が聞こえてくる。対する返事はか細い。
「は?ゲーム?は?男女関係が?その子の?その子と過ごす日々が?」
三明はしっかりと碧のまなこを見つめた。
長い中指が伸びてきて碧の鼻をかすめ、細い親指が左頬をちょんと触り
碧がうっと顔を
ぱっとまた目をじっとみつめた。
「マウストゥーマウスですね。」
と湊は笑った。
「呼吸できてないですよ?そんなかたくてはだってすべてはオーバー。
僕は確かになずなを黒飛法華として転生させる手続きを完了させたのだから。」
「僕は、ただ、一人の女の子を愛してあげたかっただけだ!!」
「だから、そんなに堅いだけでは、愛は壊れるだけですよ。
弱さが脆さが弱さがどんだけ人を住まう空間を与えると思うです?」
珍しく決まっているな、と三明は湊を眺めた。
「古の国の皇帝の御一族様。」
三明は、普段の業務ミーティングでは絶対にしないで控えている中指を柔く立てて湊の額を指した。
「Time is Over。」
「You lovein it.」
目を点にした、
…碧はつまり箱庭に閉じ込められし犠牲者だった。
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