空即是色 1 空に言えば
夏の陽炎
第1話 灰色と四角と空
灼熱の…!ふゆ冬・・・日影…!
僕の名前は成田
最近、手のひらの最新の薄板の画面深層から離れられない僕、
今日は、RPGバリの風が蠢く、ただひとつの冬の日、
ゲームのワンシーンように宵明けと言いたいが、ただの師走の足繫く人が行き交う通勤時間帯だ。
「お時間はいつにしましょう?」
「昼でどうかな。」
「ひ・るですか!?」
「13時…半で。」
先週の電話の会話だった。
マジっすかーと叫びたくなるのは詩人の煩悩。
(こんな要件でこんなふたりの会合になんで平日の真昼間にしてしまうんだよ、)
ゲームは所詮ゲーム。
現実は誠実な実績の積み重ね。
(だてにこの世界は精密でその歯車は今日まで進化し続けているわけではないな。)
詩人と名乗る僕は、そんな歯車をよそにして自己の世界に半ば埋没した身だ。
芸術は、謙虚さや真面目さばかりを求めてもいられないんだ。
「なぁ、なずな、あの方との会話は、僕が一人の偉大な芸術家になるための進展になるんだよ、わかるだろ。」
芸術家になるのだって人間関係の広さや深さや浅さや、その、コネも重要な要素だ。
「別れたことに全然後悔はないんだ。」
ふと3歳くらいの女児か男児かが、僕の目と視線を合わせた。
「あら、ケン、だめよ、そんなひと…行きましょう。」
年若な母親は男児の手を掴むと、僕に対して軽蔑するような睨み眼で視線を断ち切り、そして足早に立ち去った。
僕は自動的に慣れた足取りで辿り着いたビルの一階、コンビニと隣り合う別のビルの隙間の灰皿の前で煙草に火をつけた。
すぐに灯った煙は、埋没してやろうと決めたなずなの道標となった。
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